第73話 メガアントの巣穴(上)
「では、行きます」
リンカは大きく深呼吸すると、詠唱を開始した。
「
詠唱を終えたリンカは赤い闘気に包まれ、がらりと雰囲気を変える。
さっきまでの及び腰から打って変わって、好戦的な笑みを浮かべていた。
【壱之太刀】の効果で、恐怖心や戸惑いが消え失せ、戦うこと――敵を葬ることだけが意識を占領する。
戦いの化身と化したリンカが雄叫びを上げながら、メガアントに向かって駈け出した。
俺もそのすぐ後を追いかける。
ひとつ。
ふたつ。
みっつ。
――――。
リンカの太刀筋は正確に外殻の間隙を縫って、メガアントの首筋を切り裂く。
リンカが死骨剣を振るうたび、メガアントの頭部が胴体から離れ、血柱が吹き上がる。
入り口周辺にいたメガアントを倒しきると、リンカは新たな敵を求め、巣穴に飛び込んで行った――。
メガアントの巣穴は最奥まで真っ直ぐに伸びる一本の太い本道と無数の細く曲がりくねった
それぞれの隧道の奥には数体から十体ほどのメガアントが潜んでおり、襲撃を聞きつけてワラワラと這い出てきた。
――その数、五十体以上。
本道を塞ぐ壁となり、こちらへ迫ってくる。
「――【威圧】」
【気力強化】スキル購入によって使えるようになった【威圧】を発動させる。
その効果によって、メガアントたちは硬直し、動きを止める。
その隙に、リンカは恐れることなく突進し、縦横無尽に死骨剣を振り回す。
的確にメガアントの急所を突く連撃だ。
一斬一殺。
リンカが剣を振るう度、メガアントの命がひとつ失われる――。
リンカは三年間、スキルも成長せず、冒険者ランクも上がらなかった。
だが、その間、彼女は己の剣技を磨き続けた。
腐ることなく、逃げることなく、自分に出来ることをひとつずつ積み上げていった。
少しでも疾く、少しでも強く、そして、より正確に。
愚直にまで剣を振り続けて得た技量。
【壱之太刀】によって、その技量は本領を発揮する。
山のように死体が積み重なる。
返り血を浴び、紅く染まる少女。
誰よりも生き生きとした姿だった。
「――ウインドカッター」
「――ウインドカッター」
「――ウインドカッター」
「――ウインドカッター」
「――ウインドカッター」
俺もメガアントの関節を狙って風の刃を放ちまくる。
硬い甲殻を持つメガアントには、ファイアボールよりもこちらの方が有効だ。
「レントさん、行きましょう」
「ああ、行こう」
俺たちは巣穴の奥へと突き進んで行った――。
立ちふさがるメガアントたちを蹴散らしながら、俺とリンカは巣穴の最深部に到達する。
通称、女王の間。
そこにはメガアントの女王――クイーン・メガアントが待ち構えている。
ドーム状に開けた空間。
今まで以上の大量のメガアント――その数、百は下らない。
女王を守ろうと十重二十重に取り囲みながら、「ギリリリリィ」と不快な警告音を発する。
まるで大合唱だ。
群体が雪崩のように押し寄せて来る。
びっしりと隙間のない黒い波濤が、俺とリンカに迫る。
「――ウォーターフロー」
「――ウォーターフロー」
「――ウォーターフロー」
水魔法によって産み出された大量の水流をメガアントたちに向かって放出する。
ぶつかり合い、他の個体を巻き込みながら、メガアントたちは流されていった。
ダメージ自体はたいしたことがないが、突進を止め、群れ全体に混乱をもたらす。
「リンカ、今だっ!」
リンカは俺の合図にうなずき――。
「さあ、はじめよう――殺戮を」
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