第70話 断空の剣9:ベッドの上で(上)
――レントとの決闘を行った翌日の昼過ぎ。
「ううぅ。痛えぇ……」
全身の痛みにガイは目を覚ました。
清潔なベッドの上だ。
見覚えのない風景。
「ここはどこだ……?」
身体を起こそうとしたが、痛みでなかなか上手くいかない。
なんとか時間をかけて、ゆっくりと上半身を起こすことに成功した。
当たりを見回す――。
三つ並んだベッド。
他に寝ているのはパーティーメンバーのミサとエルのようだ。
断定できないのは、二人とも顔が包帯でぐるぐる巻きになっていて、髪色でしか判断できないからだ。
ガイは自分の顔に手を当て――ようやく、自分の顔も包帯で覆い尽くされていることに気がついた。
記憶がだんだんとはっきりしていく――。
レントとの決闘。
ボコボコにされたこと。
決闘後のレントからの忠告。
――無駄な抵抗はせずに、全力で魔力を返済しろ。
――魔力回復ポーションを買いまくって、返済にあてろ。
――じゃないと、一週間後に本当の地獄が始まるぞ。
「ちっ、クソッ……!!」
完膚なきまでに叩きのめされた屈辱に、ガイの中で怒りの炎が燃え上がる。
完全に舐めきっていた。
レントはロクに戦闘スキルも持っていない。
自分たちから魔力を奪い取るスキルを手に入れたようだが、戦えば苦もなくボコれる。
――疑いもなく、信じ込んでいた。
だが、蓋を開けてみれば、はるか格下と見下していたレントに一方的になぶられる始末。
ここまでの屈辱は生まれて初めてだった。
そして、重体になるほどダメージを受けたのも、生まれて初めてだった。
『断空の剣』の戦闘スタイルは、有り余る魔力に物を言わせた力押し。
それで勝てるモンスターしか相手にしてこなかった。
基本的にノーダメージかかすり傷。
エルの役目は本職の【回復魔法】ではなく、バフ・デバフをかける【付与魔法】。
拮抗する戦闘などしたことがなかったし、怪我もほとんどしたことがなかった。
ボロボロになったのは、先日のハイオーク戦が初めてだった。
それでもあの時は、失神するほどではなかった。
三人揃って意識を失うとは……。
「いったい、どれくらい時間がたったんだ?」
ガイが言葉を漏らした直後――ドアが開き、若い女性が入ってきた。
「お目覚めになられたようですね。調子はいかがですか?」
白衣に身を包んだ冒険者ギルド所属の治療師の女性だ。
「…………最悪だ」
「しゃべれるようなら、もう大丈夫ですね」
「ここはどこだ?」
「冒険者ギルド併設の治療院ですよ」
治療師の女性は帯状の魔道具をガイの左手首に装着しながら答える。
「今、何時だ?」
「お昼過ぎですよ」
魔道具を確認しながら、治療師は紙に数値を書き込んでいく。
ガイのバイタルチェックだ。
「昼過ぎ?」
「ええ」
ガイは疑問に思った。
レントと決闘したのは、確か、午後1時頃。
ほとんど時間がたっていないのか?
そんなはずはない……。
「ああ、勘違いなさっているみたいですね。今日は、決闘の翌日ですよ」
「はあっ!?!?」
「翌日です」
「一日も寝ていたのか……」
驚きに大きな声を上げた拍子に、痛みが走る。
まだ、傷は完治していないようだ。
「バイタルは問題ないですね」
魔道具から目を離した治療師が告げる。
「怪我は回復に向かっています。ただ、だいぶ血が失われたので、もうしばらく安静にした方がいいですね」
「…………ああ」
ガイの手首から魔道具を外し、治療師が説明を始める。
「お話できるようなので、今後の治療と費用についてお伝えします」
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