第6章 悪あがき

第68話 決闘翌日

 ――『断空の剣』との決闘を終えた翌日。


 今日はダンジョン攻略はお休み。

 その代わり、今日はリンカとお買い物だ。

 宿屋を出た俺たちは店が立ち並ぶ商業区へ向かった。


「エムピーちゃんはコナモン好きなんですよねっ」

「はいです〜。人類はコナモンを産み出すために神様がお作りになられたのです〜」

「あはは、じゃあ、今日のお昼はお好み焼きにしよ? オススメのお店があるんだっ。レントさんも良いですか?」

「行く行くっ。行きますです〜!!」

「ああ、もちろん」

「ワイド・アイランド風のお好み焼きでねっ、キャベツと麺がたっぷりで、とっても美味しいんだよっ」

「ホントですか〜! 楽しみです〜!!」


 リンカとエムピーはだいぶ打ち解けたようで、道中も楽しそうに会話していた。


 買い物に行くことになったきっかけは昨日の宴にある。

 宴の最中さなか、一人の男が声をかけてきた。


「リンカ殿、そなたは《サムライ》か?」

「いえ、違いますけど……」

「そうか……。拙者と同じ匂いがしたのだが……。済まない、拙者の勘違いだったようだ。忘れて頂きたい」

「あの、あなたは……」

「拙者の名はムネヨシ。《サムライ》のギフトを持つ者でござる」


 《サムライ》か……。


 俺たちのユニークギフトほどではないが、なかなかレアなギフトだ。

 俺も今まで、数人しか見かけたことがない。


 カタナと呼ばれる片刃の曲剣を使う近接職だ。

 鎧ではなく、キモノという布装備をまとうスピード型。


 その戦闘スタイルはリンカに似ているかもしれない……。


「ムネヨシさん。少しお話を聞かせてもらえませんか?」

「拙者でよければ、いくらでも訊いて下され――」


 ムネヨシさんからは有意義な話をたくさん聞けた。

 やはり、リンカの戦い方は《サムライ》と共通部分が多く、一度《サムライ》装備も試してみよう、となった。

 リンカはカタナに惹かれたようで、ムネヨシさんのカタナを触らせてもらい、興奮気味に眺めていた。

 カタナは非常に高価で、今の俺たちには手が届かない。

 それに死骨剣はもうしばらく先まで通用する武器だ。

 それに対して、リンカの革鎧は安物で、この先厳しくなっていく。

 ちょうど、鎧を新調しようと思っていたところ。

 なのでキモノを試すことになったのだ。


 ――というわけで、今日はリンカ装備の新調だ。


 ムネヨシさんに教えてもらった場所へ向かったのだが――。


「このあたりだと思うが……」

「お土産もの屋さんばっかです」

「ねえねえ、マスター、あれ、なんですか〜??」

「それはまた今度ね。今日はリンカの装備を買いに来たんだから」

「む〜〜。分かりました。我慢するです〜」

「いいこいいこ。後でなんか買ってあげるからね」

「は〜い!!」


 エムピーが興奮しているように、ここは様々な土産物屋が軒を連ねる通りだ。

 ここメルバの街は街道の要所でもあり、各地からさまざまな物が集まる場所だ。

 冒険者だけでなく、商人や観光客も多く、土産物屋も多種多様だ。

 その地に行かなくても、ここで土産物が手に入るので、行ったことにして出張費をせしめたり、アリバイ作りに使われたりするくらいだ。


 土産物屋を横目に見つつ、ムネヨシさんからもらった手書きの地図を見ながらしばらく歩き、目的の場所を見つけた。


「『ヤギュウ堂』……。あった、ここだ」


 木の柱と白い漆喰壁、屋根には黒くて薄いレンガのようなものが段々に並んでいる、特徴的な建物だった。

 入り口に扉はなく、代わりに切れ込みが何箇所に入った紺色の布がかけられている。


「まあ、入ってみよう」

「はいっ」

「はいです〜」


 俺たちは入り口の布をくぐり、店の中に入った――。





   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】

 ワイド=広い

 アイランド=島


 黒くて薄いレンガのようなもの=瓦

 切れ込みが何箇所に入った紺色の布=のれん


 次回――『ヤギュウ堂』


 ポニテ武士スタイルでやってきます!


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