第66話 宴の後(中)

 俺は一年前の事を思い返す。

 昨年6月の貸し付けが約95,000MP。

 一日あたりだと約3,000MP。

 当時の最大魔力量は1,000MPに届かないくらいだった。

 自然回復で得られる魔力量は一日2,400MP。

 足りない分は魔力回復ポーションで補っていた。


 あの頃はガイたちの魔力消費に俺の魔力回復が追いつかず、魔力回復ポーションを飲んで、なんとか乗り切っていた。


 本来なら、俺がポーションを飲む必要はない。

 どうせ貸与するだけなのだから、ガイたちが飲めばいい話だ。


 だけど、ヤツらは「マズいからお前が飲め」の一点張りだった。

 たしかに、魔力回復ポーションはマズい。

 とても、飲めた味じゃない。

 それに飲み慣れて耐性をつけないと、吐き気や頭痛などの副作用もあるし、連続服用すると副作用はさらにひどくなる。


 慣れるまでは地獄の苦しみだった。

 俺はその苦しみに耐えながら、毎日、ポーションを飲み続けた。

 ヤツらはその苦痛すら俺に押し付けたのだ。


 今日の決闘で、ミサは必死になって吐き気をこらえながら、がぶ飲みしていた。

 いままで、俺に回していたツケが回ってきたのだ。


 俺の味わった苦しみはあの程度ではない。

 おかげで、ポーションへの耐性が高まったのはよかった。


 だが、吐き気に耐えながらポーションを飲み下す俺に向かって、「おい、役立たず、もう一本飲んどけ。全然魔力が足んねえんだッっ」と吐き捨てたことは忘れない。


 ヤツらが地獄を回避するためには、これから毎日魔力回復ポーションを飲み続けなければならない。

 あの苦痛に身体が耐えられるかどうか、知ったこっちゃない。

 ささやかだが、これも復讐の一環だ。

 俺が味わった苦しみを味わいやがれっ!


 沸き上がる怒りにとらわれそうになるが――リンカが俺の手をギュッと握る。


「ありがと」

「いえ、大丈夫ですか?」

「ああ」


 怒りがスッと消える。

 落ち着いて考えられるようになった。


 俺とリンカのやり取りを、エムピーが興味深そうに見ていた。


「だいたいわかったよ。次回の取り立てでは、増えた徴収可能量の分だけ、利息も増えるんでしょ?」

「はいです〜」

「だけど、ヤツらの返済料は現時点で限界ギリギリ。このままだと利息すら返しきれなくなる」

「ビンゴです〜」

「そして、次回取り立て日が…………9日後か」

「はいです〜」


 その日こそが、エムピーの言っていた地獄の入り口。


「ちなみに、具体的な数字はどんな感じなの?」

「現在は十日ごとの利息が114,924MP。次回からの新利息も利率8%のままですと、122,511MP。ヤツらの一日あたりの限界返済料は11,508MP。このままだと7,431MP不足するんです〜」


 7,431MP。

 魔力回復ポーションには、何種類かあるが、ガイたちの魔力量だと、一本で500MP回復するヤツが一番効率がいい。

 ここ一年俺が飲み続けてきたのもそれだし、今日、ミサが決闘中に飲んだのもそれだ。

 このポーションは1本1万ゴル。

 利息を返すには15本飲む必要がある。

 一人当たり5本。

 飲み慣れていないヤツらにはきついかも知れないが、9日もあればできないことはない。

 だが、問題になるのは資金だ。


 ――残りの魔力回復ポーションを使い切っていいからッ!!


 戦闘中、ガイが言っていた。

 ヤツらはもう、手持ちのポーションは尽きかけているだろう。

 修復液リペアリキッドも買えないほどに困窮しているヤツらに15万ゴルも作り出せるだろうか……。

 装備を売り払えばなんとかなるか?

 もともとはそれなりにいい装備だけど今日見た限り、まともに修理もせずボロボロの状態。元値の10分の1にもならないんじゃないか?


 しかも、利息支払いは今回だけではない。

 このままだと、10日ごとに魔力回復ポーション15本を飲み続ける生活が続くのだ。

 装備を売り払えば、今後金を稼ぐのは更に厳しくなる。

 かといって、魔力回復の腕輪を売り払えば、短期的にはしのげるかもしれないが、間違いなく破滅するしかなくなる。


 ――どうあがいても、詰みだな。


「そこでマスターには3つの選択肢がありますです〜」

「3つ?」

「ひとつ目はさっき言ったように、利率8%を維持することです」

「ああ」

「残りの2つは――」


 エムピーが挙げた3つの選択肢。

 俺はその中からひとつを選ぶ。


「――よしっ、これにしよう」

「了解しましたです〜」


 さて、9日後が楽しみだ――。






   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】

 ポーションで魔力を増やして運用することも可能ですが、トラウマがあるので、レントはあまりやりたがってません。

 切羽詰まらない限りはやらないでしょう。


 レントがどんな選択肢を選んだのか?

 明かされるのはしばらく先ですが、ご想像してお楽しみください!

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