第65話 宴の後(上)

 夜も更け、なんとか宴から解放された俺たちは、千鳥足で宿に戻る。

 部屋に入るなり、リンカはベッドに倒れ込んだ。

 リンカがポニーテールをほどくと、ベッドにスカイブルーの髪が広がる。


「ふう〜〜〜〜。もう食べられないです〜」


 リンカは宴の最中、お酒はそこそこに、絶え間なく食べ続けていた。

 気を利かせた誰かが、リンカの前の皿が空になる度、料理の乗った皿と交換してくれたせいだ。

 果たして何人分食べたのか。

 疑問だけど、怖くて訊けない……。


 今は、もうこれ以上食べられないと恍惚の表情を浮かべている。


 一方のエムピーも――。


「エムピーも酔っ払っちゃったです〜」


 宴の間、エムピーは俺の膝の上で、こっそり俺が与える料理を摘んでいた。

 そこまでは良かったんだが、一通りコナモンを食べ尽くしたエムピーは「お酒飲んでみたいです〜」と言い出したのだ。


 エムピーがお酒を飲むのはこれが初めて。

 ついつい飲み過ぎたようで、顔を赤くしてフラフラしている。

 揺れる背中の羽も、いつもより動きがぎこちない。


 俺もそれなりに飲み食いしたが、宴会には慣れているので、きっちりとセーブしたから、二人ほどではない。

 慣れない二人は限界を超えてしまったようだ。


「二人とも、お疲れ。お水、飲む?」

「ありがとうございます〜」

「マスター、お手を煩わせて、すみませんです〜」

「いいよいいよ。二人とも気にしないで」


 エムピーには酔い覚まし。

 リンカには消化を助ける胃腸薬。

 薬を溶かした水をグラスに入れ、二人に渡す。

 エムピーに渡したのは、強いお酒を飲むときに使うショットグラスだ。

 エムピーにちょうどいいサイズだったので、雑貨屋で購入したのだ。


 しばらくして、二人もだいぶ落ち着いたようだ。

 ぽつぽつと会話が始まる。


「今日のレントさん、カッコ良かったですっ!」

「マスターの姿にしびれました〜〜!!」


 二人に褒められ、俺は満更でもない。


「これで、リンカに被害が及ぶこともないだろうね」


 ――今後、俺と俺のパーティーメンバーの5メートル以内に近づかないこと。そして、いかなる攻撃も仕掛けないこと。


 これが決闘の誓約だ。

 俺は【債権者保護】があるから、どうとでもなる。

 やけになったヤツらが、リンカに手を出す可能性があったから、どうしても誓約でヤツらを縛る必要があったのだ。


「お気遣いありがとうございますっ」

「いやいや、もとはと言えば俺の問題だからね。巻き込むわけにはいかないよ」

「産廃どもには、いい薬です〜」

「あれで反省してくれればいいんだけどな」


 反省したところで手を緩めるつもりはないが、少しは胸がスッとする。


「それにしても、最低なヤツらでしたね。私を囮にしたヤツらと同じくらい卑劣ですっ」

「ゴミクズ債務者なんて、あんなものですよ〜。生きている価値は、返済することだけです〜。返済が終わったら、死ねばいいです〜」


 二人によるヤツらのこきおろし大会が始まった。

 しばらくの間、罵詈雑言が飛び交う。

 俺も口は挟まなかったが、胸がスカッとする思いで二人の悪口に聞き入っていた。


 そして――話がひと段落したので、気になっていたことをエムピーに尋ねてみる。


「ねえ、なんか数字が増えているんだけど?」


 ステータス表示を見るとこんな感じだ。


□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□


 【貸付状況】


 ・『断空の剣』:


  貸付量  :2,678,078MP

  徴収可能量:1,435,837MP→1,531,394MP


□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□


 徴収可能料が10万近く増えている。

 昨日までは変わっていなかった。

 さっき見たら、いきなり増えていた。

 ヤツらは毎日必死こいて返済している。

 減ることはあっても、増えることはないと思うのだが……。


「あ〜、それですか〜。ちゃんと説明してませんでした〜」


 エムピーがぺこりと頭を下げる。


「うん、どういうこと?」

「ステータスの【強制徴収】のところの【徴収可能魔力】をご覧ください〜」

「うん」


 言われた通りにやってみる。


□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□


 【徴収可能魔力】


 ・貸し付けから1年(月締め)経過した魔力


□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□


「えーと、もしかして、この月締めってのが関係してる?」

「はいそうです〜。月締めなのです〜」

「うっ、うん……」

「説明文にありますように、徴収可能な魔力は貸し付けから一年経過したものになるのです〜」

「うん」

「ただ、毎日数えていると大変なので、一ヶ月単位で区切ってるのです〜」

「うんうん」

「徴収を開始したのが今月、6の月の10の日でした」

「ああ、もうそんなにたったんだな」


 昨日は6の月の30の日。そして、今日からは7の月だ。

 追放から3週間。短かったような、長かったような。


「ですので、当初は昨年の5の月末までに貸し付けた魔力が徴収可能だったのです〜」

「ああ」

「そして、今日から7の月。昨年の6の月中に貸し付けた魔力95,557MPが、さらに徴収可能になったのです〜」

「ああ、そういうことか……。要するに、月が変わるごとに、取り返せる量が増えていくと」

「はいです〜」

「そして、最終的には一年経つと、貸付量すべて2,678,078MPが徴収可能になると」

「ご名答です〜!」






   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】

これから毎月、徴収可能料が増えていきます。

鋭い方は一ヶ月で95,557MPという数値に引っかかりを覚えるかと思います。

この点は次回で説明しますので、それまでお待ちくださいm(_ _)m

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