第64話 宴会

 盛り上がりも一段落し、ギャラリーの輪から抜け出る。

 横たわるガイたち三人は、ギルド職員から最低限の治療を受けていた。

 三人とも意識を取り戻したようだ。


 俺は歩み寄り、ゴミクズどもを見下す。


「最後にひとつ、忠告してやる」


 三人とも怯えた目だ。

 どうやら、俺が思っていた以上の効果があったようで、完全に怯えきっている。

 これなら、復讐しようという気は起こらない……といいんだけどな。


 寝たままの三人に告げる。


「無駄な抵抗はせずに、全力で魔力を返済しろ。持ち金すべてはたいて、装備もアイテムもすべて売り払って、借りれるだけの借金をして、魔力回復ポーションを買いまくって、返済にあてろ。じゃないと、9日後に本当の地獄が始まるぞ」


 それだけ言うと、俺はヤツらに背を向ける。

 忠告したのは別に、ヤツらのためじゃない。

 どうせ、俺の忠告に従うとは思えない。

 それくらい殊勝なヤツらだったら、そもそもこうなっていないはずだ。


 俺が忠告したのは、ヤツらに後悔させるため。

 後になって、「忠告に従っていればよかった」と悔やませ、同時に、「すでに手遅れである」と思い知らせるためだ。


「「「…………」」」


 ヤツらから返ってきたのは沈黙だった。

 もうこれ以上、俺から言うことはない。


「リンカ、行こう」

「はいっ」


 俺とリンカは訓練場を後にした――。


   ◇◆◇◆◇◆◇


 俺たちがギルドに戻ると、すでに宴会が始まっていた。

 「俺の勝利を祝って」との名目だが、そんなのただの口実だ。

 何かにかこつけて、宴会をしたがるのは冒険者の習性だ。


 ――楽しく酒が飲めればなんでもいい。


 といったところだ。


 参加すべきかどうか迷う間もなく、「ほら、主役はこっちこっち」と宴の中心に据えられてしまい、目の前にエールが置かれる。

 こうなったら、選択肢はない。


「じゃあ、いただきます。乾杯!」


 俺がジョッキを掲げると、歓声が上がった――。


 そんなこんなで、宴の渦に巻き込まれてしまった。

 隣のリンカは少し緊張していたが、宴の空気に慣れるにつれて、だんだんと緊張もほぐれていった。


 皆から向けられる暖かい態度に、リンカは戸惑っていた。

 今まで、こんなに優しくされたことがなかったのだろう。

 感極まって途中で泣き出してしまった。


 不運だったのは、そのときたまたま一番近くにいた男だ。

 「こんなカワイイ子を泣かせやがって」と吊るし上げられていた。


 そんな中、何人かリンカに謝罪する者たちがいた。

 以前リンカとパーティーを組んでいた者たちだ。

 彼女を追放したことを謝りに来たのだ。


 今さらな気もするが……謝るだけマシだろう。

 リンカももう気にしていないようで、素直に謝罪を受け入れていたし、俺が口を挟む問題じゃない。


 俺は俺で大変だった。

 追放の件や、戦闘スタイルについて根掘り葉掘り訊かれ、なんとか誤魔化すのに一苦労した。

 特に魔法連発については、誰もが強い関心をもったようで、激しく追求された。

 ロジャーさんの「困ってるだろ。それ以上訊くんじゃねえ」の一声がなければ、大変な騒ぎになっていただろう。


 今になると、決闘時やり過ぎたかなと思うが、ロジャーさん同様、他の冒険者たちも気にしていないようだ。

 むしろ、「よくやった」と言われたほど。

 俺が思っていた以上に、ガイたちは嫌われていたようだ。

 まあ、強さをひけらかし、他の冒険者たちに傍若無人な振る舞いをしていたのだから、当然と言えば当然だ。

 冒険者の間では、話――とくに悪評は、広がるのが早いからな。

 俺は何度もその態度は良くないとたしなめてきたが、一向に改めなかったし、自業自得だ。


 そして、意外な出会いもあった。


「やあ、レント君」「レント!」

「デストラさん、シニストラさん!」


 前の街でお世話になったBランクパーティー『双頭の銀狼』のリーダーの二人。


 短い銀髪がデストラさん。

 長い銀髪がシニストラさん。

 双子の剣士だ。


「どうしたんですか?」


 彼らはしばらくはあの街にいるはずだったと思ったが……。


「依頼でね」とデストラさん。

「アイツらと同じ馬車で来た」とシニストラさん。

「ボコボコにしたみたいだね」

「見たかった」

「突然いなくなったから、心配してたんだ」

「レントは薄情」

「落ち込んでないようで安心したよ」

「一安心」

「レント君を追放するとか……」

「バカはやっぱりバカだった」

「アイツらはもうダメだな」

「ハイオークにボコられてた」

「君とはゆっくり話したかったんだけど」

「私も」

「すぐに出発しなきゃならないんだ」

「ウィラード伯爵のとこ」

「その依頼が片付いたら、また会おう」

「楽しみにしてる」

「それじゃあ、また」

「バイバイ」


 二人は俺が口を挟む間もなく、一方的にまくし立てると去って行った。

 相変わらずのマイペースだったけど、俺は嬉しかった。

 二人が以前と変わらずに接してくれたことに。


 というか、ガイたち嫌われ過ぎだろ。

 ロジャーさんからも、今の二人からも、最悪の評価だ。


 そうか、また、『双頭の銀狼』のみんなと酒が飲めるのか……。


 二人が去った後も宴は続き、解放されたのはたっぷりと夜が更けてからだった――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る