第63話 決闘を終えて

「そこまでっ! 勝者レント!」


 ロジャーさんが宣誓し、決闘が幕を下ろした。


「レントさんっ!!」


 ギャラリーから飛び出してきたリンカが、俺の背中に抱きつく。


「大丈夫です。大丈夫ですからっ。ねっ? ねっ?」


 ぼろぼろと大粒の涙をこぼし、俺にしがみつくリンカ。

 昂ぶっていた気持ちがすぅーっと落ち着いていく。


「ああ…………落ち着いたよ。ありがとう」

「よかったですっ!!」

「また、助けられちゃったな」


 昨晩のことを思い出す。

 あのときも怒りにとらわれ、人として大切なものを失いそうになった。

 その際、俺を引き止めてくれたのがリンカだった。


 そして、今回も……。

 リンカが止めてくれなかったら、俺はミサを殺していただろう。


 いったい、俺はどうなってしまったんだ。

 怒りに我を忘れてしまう自分が……自分でも信じられなかった。


 思考の渦に沈みかけたところで――。


「おうっ! やったな、レント」

「ロジャーさん……」


 バシバシと力強く背中を叩かれ、意識が浮上する。


「適当なところで手心を加えるかと思ったが、情けをかけずきっちりやり切ったじゃねえか」

「……やりすぎじゃなかったですか?」


 途中から、自分でも信じれれないほどの怒りに衝き動かされていた……。

 あそこまでやるつもりはなかったのだが……。


「ポーションで回復させて、エンドレスでいたぶるとかなら、さすがにやりすぎだと思うが、ヤツらのしてきたことを考えれば、あれくらいで丁度いいだろ」

「そうですか……」

「ポーションや回復魔法で治る程度の傷だ。冒険者にとっては怪我のうちに入らねえよ」

「そうですね……」

「そもそも、Bランク3人でDランク1人を相手にするってのが、ありえねえんだよ。ヤツらの不甲斐なさを責めるやつはいても、レントを責めるヤツなんかいねえよ」


 ロジャーさんの言葉に少し安心する。

 でも、リンカも泣かせちゃったし、今後は気をつけないとな。

 いったい、俺はどうして、こんなに攻撃的になってしまったのか……。


 モンスターを相手にしているときはこうならない。

 だけど、ガイたちが相手だと、どうしてもブレーキがきかなくなる……。


 そのことに罪悪感はないが、自分が自分でなくなるような感覚に戸惑いと不安を覚える。


 またもや、暗い思考に囚われそうになったが――。


「やるわね〜、レント君。容赦なくって、お姉さんゾクゾクしちゃったわ」

「ガハハハ。儲けさせてもらったぞ」

「レント君、キミの魔法のことで、後で話がしたい」

「だから、レントは化けるって言ってたんすよ」


 ナミリアさんを含む、『流星群』の面々も集まってきた。

 他の冒険者たちもつられてやって来る。


「兄ちゃん、強えな、おい」

「なんだよ。あの魔法連発。反則だろっ」

「坊主、勝たせてもらったぜ。ありがとな」

「あんなに強いんなら、最初から教えてよ。おかげでスカンピンだわ」

「今度一緒にダンジョンに潜らない?」


 好き勝手言ってはいるが、みんなの態度は暖かかった。


 パーティーを追放された、はみ出し者。

 蔑まれているのではないかと、どこかで恐れていた。

 今日のことも、やり過ぎて引かれているのではと不安だった。


 だけど…………。


「ほら、みんなオマエを認めてんだ。なんか、言ってやれ」

「はっ、はい」


 ロジャーさんにうながされ、俺は一歩前に出る。


「みなさんっ。俺は『断空の剣』から追放されました。だけど、隣りにいるリンカと一緒に、冒険者としてもう一度やり直そうと思ってます。どうぞ、これからもよろしくお願いします」


 言い終わって頭を下げる。

 静寂が流れ、ハズしたかなと思った直後――。


 沸騰したような歓声、割れんばかりの拍手。


「こっちこそ、よろしくな」

「レント、よく言った」

「アイツらのことは気にすんな」


 この瞬間、この人たちに受け入れられた――と俺は心から感じることができた。


「まだまだ固いけど……まあ、レントらしいわな」

「これもロジャーさんが立会人を引き受けてくれたからです。本当にありがとうございました」

「俺はちょっと力貸しただけだ。レントが自分で勝ち取ったものだ。誇っていいぞ」


 立会人をロジャーさんに頼んだ理由は2つあった。


 ひとつ目は、こうやって衆人環視のもと、完膚なきまでに三人をぶちのめすこと。

 プライドの高いヤツらとって、これほどの屈辱はないだろう。

 プライドだけは俺の【強制徴収】でも奪えないからな。


 もうひとつの理由は保険だ。

 その保険の出番が来ないといいのだが、ヤツらは本物のバカだからなあ……。


 そして――俺が想定していなかった3つ目の効果があった。


 こんなにも暖かく、みんなに受け入れられるとは、想像もしていなかった。

 今までは腫れ物に触るかのように、遠巻きに距離を置かれていたが、今日一日でグッと距離が縮まった。

 同じ冒険者仲間として、受け入れてもらえたのだ。

 ロジャーさんは謙遜しているが、感謝してもしきれない。


 ――この借りは、いつかちゃんと返さないとな。





   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】

 保険の出番は……。


 次回――『宴会』


 なにかにつけて酒を飲む。

 冒険者のお約束ですね。

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