第62話 決闘(4/4)
――いよいよ、最後の本命だ。コイツが一番許せない。
「ひっ……」
四つん這いのまま、怯えきって後退りするミサ。
俺と目が合うと、耳障りな声で弁明を始めた。
「ねっ、ねえ、私はエルとは違うわっ。私が本当に愛していたのは、レント、あなたなのよっ。お願い、チャンスをちょうだいっ。もう一度、あなたとやり直したいわっ。ねえ、なんでもするからっ。私の身体を好きにしていいからっ。ねえ、お願いよっ!!」
俺は笑顔を浮かべ、優しく語りかける。
「そうか。ミサはもうガイを愛していないのか」
「えっ、ええ、そう、そうよ。もちろんよっ」
「じゃあ、俺ともう一度やり直す?」
俺は問いかける。
ミサのことが好きだと勘違いしていた頃の口調を思い出しながら。
「ええ、嬉しいわ。もう一度やりなおしましょうよ。私が本当に愛してるのはレントだけよ」
「――なんて言うと思ったか?」
「えっ……」
「安心しろ。オマエにもお似合いの相手がいる。今から、紹介してやるよ」
「えっ、どういうこと……」
「おまえみたいなビッチにキスしてくれる相手は地面くらいなんだからよっ」
――アンタにキスしてくれる相手なんて汚れた床くらいなんだから。
コイツからの屈辱的な言葉を思い出しながら、ミサを力いっぱい地面に叩きつける。
地面にバウンドしてミサの身体が跳ねる。
「ごめん。俺が勘違いしてたわ」
「れっ、レント……」
「地面もオマエみたいなビッチは願い下げだってよ」
「ゆっ、許して……私はレントのこと……」
「だから、ここで死んでおけ」
殺すつもりはないが、俺の脅しは効いたようだ。
ミサは悪あがきを始めた。
「おっ、お願いっ……助けて……。れっ、レント……愛し……てる……」
この後に及んで、まだ、そんな世迷い言を……。
心にもないくせに。
助かりたいだけだろ。
そんなに自分のことが可愛いのかよ……。
俺の中で、ここまで堪えてきた怒りが爆発する。
こんなクズ女、生きている価値ないよな。
死んで当然の報いだよな。
――プチッ。
俺の中で、なにかが切れた。
手加減も遠慮も無用だ。
拳を後ろに引き絞り、殺意を乗せて、全力で殴りつけ――。
「レントさんッ!!!!!!」
背後から大声で呼ばれ、ハッと我に返る。
振り向くとそこには、今にも泣き出しそうなリンカの顔が……。
今、俺、殺そうとしてた……。
この女を殺す気でいた……。
ヤツらを殺す気はなかった。
ここで殺すより、この先、血の一滴まで取り立てる。
その方がヤツらに地獄を味わわせられるし、得られるものも大きいから。
頭ではそう考えていた。
だけど、あの一瞬、そんなことは完全に忘れていた。
俺の中にあったのは、殺意だけだ。
自分の中に、暴れ回る獣がいる。
自分ではコントロールしきれない獣が。
それを、リンカが止めてくれた……。
「ありがとう、リンカ」
小さくつぶやいてから、俺はミサから手を離す。
ミサの身体は力なく地面に横たわり――。
「そこまでっ! 勝者レント!」
ロジャーさんが宣誓し、決闘は幕を下ろした。
◇◆◇◆◇◆◇
【後書き】
普通の立会人なら、もっと早い段階で止めるんですけどね。
次回――『決闘を終えて』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます