第60話 決闘(2/4)

 痛みと熱に顔をしかめているガイに、余裕たっぷりで話しかける。


「どうしたの? スキルは使わないの?」

「クッ……」


 ガイが顔を歪ませる。

 魔力不足でスキルが使えないのを知った上での煽りは、かなり有効だったようだ。


「ミサっ。魔法を使えッ!」

「でっ、でも……」

「残りの魔力回復ポーションを使い切っていいからッ!!」

「わかったわっ」


 ガイは時間を稼ぐため、俺を牽制しようと剣を構える。

 俺がミサにファイアボールを放てば、その瞬間に斬りつけるつもりだろう。


 だが、その警戒は無意味だ。

 もともと、そんな気はない。

 ミサに得意の魔法を打たせて――絶望させるつもりなのだから。


「べつにジャマしないから、ゆっくりと準備しなよ」


 ミサが魔力回復ポーションを一本飲み干す。

 しかし、ミサの魔力は相変わらずゼロのまま。

 回復する端から、返済にあてられるからだ。

 今日の返済分を返し終わるまで、ヤツらの魔力は回復しないのだ。


 ミサは苦しそうな顔で、一本、二本と魔力回復ポーションを空にしていく。

 魔力回復ポーションは独特の苦味がある上、短時間に飲み過ぎると凄まじい吐き気が襲ってくる。

 強烈な吐き気と闘いながら、それでもミサは飲み続ける――。


 ああ、キツそうだなあ。

 今日の返済が終わるまでは、三人で分担して飲めばいいのに。

 ほんとに、なにも分かっていないんだな……。


 二週間もあれば、検証してそれなりの理解が得られる。

 だが、ヤツらはそれだけの頭も持ち合わせていなかったようだ。


 そして――ミサは5本目を飲み尽くした。

 魔力回復ポーションは一日に飲める限界が5本と言われる。

 それを一気に飲んだのだ。

 うっぷ、と漏らすミサは酷い顔色。

 今にも嘔吐しかねない勢いだ。


「準備出来たわっ。ガイ、どいてっ」

「ああ、任せた」


 フラフラと立ち上がったミサが、詠唱を始める。

 彼女の最大魔法を放つ気だ。

 何度かえずきながらも、ミサは詠唱を完成させ――。


「――ファイアトルネード」


 高さ5メートルにも及ぶ巨大な火炎の竜巻が、俺に向かって放たれる。


 すべてを飲み込み、燃やし尽くす火竜巻が近づき、俺の1メートル手前で――突然消滅、跡形もなく消え去った。


「「「なっ!?!?」」


 これで決まった――そう思っていたのだろう。

 三人とも驚愕に固まっていた。


「これが俺のスキル【債権者保護】だっ!」


 これこそが、『断空の剣』対策のため、魔力を貯め込んで購入したスキルだ。


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【購入スキル】


〈魔蔵庫系〉

 【債権者保護】(NEW!)


 ・債務者からの攻撃を一定ダメージまで無効化する。

 ・無効化するダメージ量は債務者への貸付量に比例する。

 ・蓄積ダメージは一定時間後、リセットされる。


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 15万MPと高額ではあったが、その効果は強力。

 現在の貸付量なら、ガイたちの最高スキルでも百発以上は耐えられる。

 このスキルがある以上、俺が決闘に負ける可能性は最初からゼロだった。


 このスキルは今後も俺を守ってくれるだろう。

 今後も債務者が逆ギレして襲ってくる可能性がある。

 どのみち、早めに取って置かなければならないスキルだったのだ。


 スキルが効かないと分かったガイはやけくそになった。


「くそッ!!」


 剣を振り回し、何度も斬りつけてくる。

 今度は回避しない。

 だが、ガイが振るう剣は見えない壁に阻まれ、俺には届かない。


 やがて――。


「うっ、嘘だろっ……」


 疲れきったガイの手から剣がこぼれ落ちる。

 地面にぶつかり、カランという音を立てる剣は、無茶な攻撃のせいでボロボロに刃こぼれしていた。

 もう少し続いていたら、真っ二つに折れていただろう。


「オマエたちの攻撃で俺を傷つけることはできない」


 ガイは力なく膝をつく。

 ようやく、勝ち目がないことを悟ったのだろう。






   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】

 切羽詰まった債務者は、なにするか分かりませんからね。

 失うものが無い相手ほど怖いものはないです。

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