第59話 決闘(1/4)

 ――開戦の合図とともに、ガイが剣を構えて突っ込んで来る。


 ミサとエルに動きはない。

 二人とも魔力がゼロであることは確認済み。

 魔力がなければ二人にできるのは、せいぜい杖で殴るくらい。

 【身体強化LV1】を持っている俺には、まったく脅威にならない。


 普通の冒険者なら、後衛職でも多少の物理戦闘の技術は身に着けている。

 だが、この二人は、スキル連発しかできない。

 魔力がない今、足手まといなだけだ。

 俺の挑発にまんまと乗ったのだが、なんで決闘に参加したのか理解に苦しむ。

 本当にバカなんだろう。


「調子のってんじゃねえぞッ! スキルくらい使えなくたって、お前一人くらい相手にもなんねえよッ!!」


 ――作戦もなにもないガイの突進。


『うわ〜、ミジンコ以下です〜』

『だね』


 エムピーも呆れ声だ。

 俺も落ち着いて観察するだけの余裕がある。


 以前だったら、威圧感を感じ、恐怖に身体がすくんでいた。

 だけど……。


 ――こんなに遅かったっけ?


 【壱之太刀】を発動したリンカの動きに比べれば、止まっているようなもんだ。

 力任せの大振りをなんなく躱し、隙だらけの胴体に向かって――。


「――ファイアボール」

「ぐえっ」

『マスター、ナイスです〜』


 想像していたより呆気なく、火球を打ち込むことができた。

 リンカとともに戦い、彼女の速さに慣れたからというのもあるが、バフがないことも一因だろう。


 ガイの戦闘力を支えていたのは、エルの強力な付与魔法だ。

 今までのエルは、俺の【魔力貸与】によって、魔力を気にすることなく、強力な支援魔法を何重にも重ねがけしてきた。

 そして、ガイはそのバフを頼りに、攻撃スキルを打ちまくってきた。

 魔力が枯渇し、その両者が使えなくなると、こんなにも弱くなるのか……。


 単発だが、みぞおちに打ち込まれ、ガイが潰れたカエルのような声を上げる。

 それなりに効いているようだ。


 よく見たら、剣も鎧もボロボロだ。

 修理液リペアリキッドも買えないほど、金に困っているのか?


「ガイっ、大丈夫?」

「大丈夫ですかー」


 ミサとエルが離れたところから、心配そうに声をかける。

 それが耳障りだったので――。


「――ファイアボール」

「――ファイアボール」


 二人に向けて火球を放つ。


「「きゃっ」」


 顔に直撃し、尻もちをつく二人。

 戦闘中なのに、油断しすぎだろ。

 二人の無様な姿を確認してから、ガイへと視線を戻す。


「大丈夫?」

「なッ、舐めんなッ!」

『舐めてんのはそっちです〜』


 無防備に直撃したとはいえ、ファイアボールは初級魔法だ。

 ここ一週間、通常ではありえない数を打ってきたので、覚えたてに比べ俺のファイアボールは数倍の威力になった。

 それでも、一発ではそこまでダメージはないと思うが……。


 さんざん格下だとバカにしていた俺に軽くあしらわれ、怒り心頭だ。

 激高したガイが、剣を振り回す。


 だが、怒りで目の前が見えていないのか、さらに大振りになっている。


 すなわち――。


「――ファイアボール」


 回避するのはなんてことはない。


「――ファイアボール」


 さくっと躱して――。


「――ファイアボール」


 はっと避けて――。


「――ファイアボール」


 剣を避ける度に、火球をぶち込んでいく。


「――ファイアボール」


 俺の動きにギャラリーに動揺が走る。

 非常識なファイアボール連発に困惑しているのだろう。

 リキャストタイムがあるので、同一スキルの連発は不可能――それが常識だ。


 不可能を可能に変えるのは、俺の【魔力出納】だ。

 使う端から魔力を回復させれば、リキャストタイムは無視できる。


 そして、驚愕しているのはガイも同じだった。


「なっ、なんで、お前が魔法を使えるんだよ……」


 俺はニヤリと笑ってみせる。


「それに関しては、お礼を言っておかないとな」

「なんだとっ」

「オマエたちが返してくれた魔力で購入したんだよ」

「なッ!?」

「オマエたちのおかげで強くなれた。ありがとな」

『ありがとです〜』


 小声でしゃべっているので、俺たちの会話はギャラリーには届かない。


「――ファイアボール」

「――ファイアボール」

「――ファイアボール」


 戸惑っているガイに三連発の火球が襲いかかる。


「ぐわっ!」


 回避もままならず直撃し、ガイがうめき声を上げる。


 それにしても……。

 こんなに弱かったとは……。

 勝つだけだったら、例のスキルはいらなかったな……。





   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】

 修復液リペアリキッドは、上質な素材の武具ほど消費量が多くなります。

 リンカが装備している安物の革鎧だと大した量ではないですが、ガイたちは高級装備なので、バカにならない量が必要になります。

 なので、金欠な彼らは装備を修復することもままならないというわけです。

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