第58話 宣誓

 決闘の場所はギルド建物の裏手。

 普段は訓練場として使われている場所だ。

 今も、二十人ほどが訓練の真っ最中だった。


「おう、決闘だ。場所空けろっ」


 ロジャーさんの声に訓練場にいた冒険者たちは動きを止め、訓練場の端へと移動する。


「うっし、始めっぞ」


 中央にはロジャーさんとギルド職員の女性が並び、二人を挟むように反対側に離れる俺と三人。

 そして、それを取り囲むギャラリー。


 ギルド内にいた者たちと、訓練場にいた者たち。

 話を聞きつけて集まってきた者たち。

 総勢、百人近く、その中にはリンカの姿も確認できた。


 冒険者にとって、決闘はなによりの娯楽。

 さっそく、どっちが勝つかの賭けが始まっており、それも盛り上がりに拍車をかけている――って賭けを取り仕切っているのは、『流星群』のジンさんじゃないか……。

 まったく、あの人は……。


 ロジャーさんから話を聞きつけ、前もって準備していたのだろう。

 ジンさんは儲け話とあらば、見逃さないからな。


 とまあ、こんな調子で、俺はギャラリーを観察するくらいの余裕があった。

 俺が負けることは絶対にないと知っているからだ。


 俺がやろうとしていることは、ある意味、反則技だ。

 卑怯と言われるかもしれない。


 だが、冒険者にとって、卑怯もなにもない。

 勝つためには最善を尽くす。

 それが冒険者の流儀だ。


 ガイたちは決闘に備え、各自一本ずつ魔力回復ポーションを飲む。

 だが、魔力は回復せず、ゼロのまま。

 今日の返済分が払い終わっていないからだ。


 ガイの舌打ちする音が聞こえてくる。

 後数本飲めば、今日の返済が完了し、魔力は回復し始める。

 だが、そんなことすら、把握していないようだ。

 この二週間、なにも考えていなかったんだな……。


 ――本当に、底なしのバカだ。


 そんな中、ギルド職員が羊皮紙を広げ、口を開く。


「決闘を始める前に、お互い決闘に賭けるものを明らかに。まずはレントさん」

「俺が勝ったら、今後、俺と俺のパーティーメンバーの5メートル以内に近づかないこと。そして、いかなる攻撃も仕掛けないこと」

「ガイさんたち、よろしいでしょうか?」

「構わねーよ」

「どうせ、勝つのは私たちよ。問題ないわ」

「問題ないですー」

「では、ガイさんたちも賭けるものを――」

「俺たちが勝ったら、俺たちから魔力を取り立てるのをヤメろ」

「レントさん、よろしいでしょうか?」

「ええ、それでいいです」

「では――」


 職員が羊皮紙に書きつけながら、復唱していく。


「――以上。異論がなければ両者、宣誓を。まずはレントさん」


 俺は職員のもとまでゆっくりと歩き、羊皮紙にサインをする。

 そして、人差し指を所定の場所に置き、書かれている内容を読み上げる。


「神聖なる決闘の結果に従うことを、私レントはここに誓約します」


 言い終わると羊皮紙と置かれていた人差し指が光に包まれる。


「宣誓は、なされました。レントさんお戻り下さい」


 俺が元の場所に戻ると、職員が続ける。


「では、ガイさんたちも宣誓を――」


 三人とも、俺と同じように宣誓を済ませ、先ほどいた場所に戻る。

 決闘の誓約は絶対だ。

 もし、それに反する行動を取ろうとすれば、全身に激痛が走り、最悪、死に至る。

 決闘の誓約とは、口約束とは違い、それだけ重たいものなのだ。


「立会人はこの俺、『流星群』のロジャーが務める。大勢見てんだ、無様な姿を晒すなよ」


 ロジャーさんの煽りに、ギャラリーがどっと沸く。


「余計なことは言わないで下さい」と、職員がたしなめるが、ロジャーさんはどこ吹く風だ。

 ロジャーさんも同じように羊皮紙にサインして、人差し指を当てる。


 そして、ロジャーさんが片手を高く挙げると、ギャラリーがしんと静まり返った。

 ガイたちも剣を抜き、杖を構え、臨戦態勢に入る。

 怒りのあまり、開戦と同時に特攻して来そうな勢いだ。


 俺はといえば、力を抜いてリラックスしていた。

 俺が負けることは絶対にありえないから。


「よーし、始めッ!」


 ロジャーさんが手を下ろすと同時に鋭く叫ぶ。


 さあ、万全の準備は整った。

 後は――ぶちのめすだけだ。





   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】

 日が変わると同時に魔力回復の腕輪3つから合わせて3,000MP。

 1時間360の自然回復が13時間分で4,680MP。

 一本で500MP回復するポーションを3本飲んで、1,500MP。


 合わせて、9,180MP


 一日の返済量が11,492MPなので、残り2,312MP。

 ポーションを後5本飲めば、魔力が回復し始めます。


 次回――『決闘(1/4)』


 ざまぁ第1弾始まるよ〜!

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