第57話 立会人

「だっ、誰だっ、オマエは……!?!?」


 ガイは怒りとともに闖入者に振り返り、その人物を見て言葉を失った。


「面白そうな話だな。俺も混ぜろよ」

「…………」


 人を喰ったような態度の男は――『流星群』リーダーのロジャーさんだ。

 Aランク冒険者であるロジャーさんのことは当然ガイたちも知っている。

 突然の大物の登場に、ガイたちは戸惑っていた。

 頭が追いついていないガイに向かって、ロジャーさんは言葉を続ける。


「俺が立会人をしてやるよ。文句ないよな?」


 ロジャーさんが強い視線でガイを射すくめる。


「あっ、ああ……」


 ガイは気圧され、深く考えずに頷いてしまう。


「レントも良いか?」

「ええ、もちろんです」


 俺も当たり前のように頷く。


 ロジャーさんは、さもたまたま居合わせたかのような振る舞いだが、これは茶番だ。

 この前、ロジャーさんたちと飲んだときにしたお願い――それこそが決闘の立会人だった。


 つまり、これは全て俺の――正確には、俺とエムピーの筋書き通りだ。


 ロジャーさんが問いかける。


「それでお互い、なにを賭けるんだ?」


 ようやく落ち着きを取り戻したガイは俺を睨みつけてきた。


「俺が勝ったら、俺たちから魔力を奪うのを止めろ」

「奪う……ねえ。俺は正当な取り立てをしてるだけだが?」

「ごちゃごちゃ言ってんじゃねえッ。御託はいいから、オマエは黙って頷けばいいんだよッ!」

「そうよそうよっ!」

「そうですー」

「分かった。それでいい」


 俺の言葉に三人が歪んだ笑みを浮かべる。

 人間の醜さを凝縮した笑みだった。


「んで、レントはなにを賭ける?」

「俺が勝ったら、今後、俺と俺のパーティーメンバーに関わるな」


 全然釣り合っていない条件だ。

 だが、それでいい。


 俺が本当に欲しいのは、賭けの報酬ではない。

 大抵のものは、俺のスキルで奪える。

 それは後から真綿で首を締めるように、じっくりと時間をかけて奪っていけばいい。


 この決闘で奪うのは、ヤツらのプライドだけだ。

 衆目の前でヤツらをぶちのめす。

 さんざんに虚仮こけにしてくれたヤツらへの復讐、第一弾だ。


「オマエはそれでいいか?」

「なんでもいいぜ。どうせ、俺の勝ちだからな」


 ロジャーさんの問いかけに、ガイは余裕の笑みを返す。

 俺が勝つことは絶対にないと確信しているのだ。


 その考えは正しかった。

 少し前までは。

 だが――もう手遅れだ。


 だから、俺も余裕たっぷりに続ける。


「それと、後から他の二人にごちゃごちゃ言われるのも面倒だ。三対一で構わないから、一緒にかかって来いよ」

「なッ!? 舐めんじゃねえ」

「フザケるんじゃないわよっ!」

「レントのくせに生意気ですー」


「おう、じゃあ、訓練場ウラいくぞ。ギルドのねえちゃん、手続きよろしくな」

「はっ、はい」


 ロジャーさんが歩き出すと、様子を伺っていた冒険者たちが道を開いた。


「おい、決闘だってよ」

「『流星群』のロジャーが立会人だってよ」

「大事じゃねーか」

「よく見りゃ、あれ、『断空の剣』じゃねえか」

「ほんとだ。昔、見たことある」

「仲間割れか?」

「一人の方はちょっと前から、この街にいるぞ」

「ああ、俺も見かけた顔だ」

「囮騒動のときのヤツじゃねえか」

「この前、ロジャーさんとナミリアさんと一緒に飲んでたぞ」

「へえ〜、なんか面白そうだな」


 ギャラリーが好き勝手にしゃべる中、俺はロジャーさんの背中を追う。

 ガイたちもぶつぶつ文句を言いながらついて来る。

 そして、ギルド中の冒険者たちもゾロゾロと後を追って来る。

 リンカもその中に紛れ込んでいた。


 ――よしっ、思い通りだ。


 これがロジャーさんに立会人を依頼した理由だ。


 そこそこ名の売れている『断空の剣』とはいえ、この街を離れて二年以上。

 俺たちを知らない者も多い。

 俺たちの決闘というだけだったら、ここまで注目を集めることはなかった。


 だが、ロジャーさんを巻き込んだことによって、意味が変わってくる。

 ロジャーさんはこの街の最強パーティー『流星群』のリーダーで、誰もが知っている大物中の大物だ。


 ロジャーさんが立会人を引き受ける決闘となれば、誰もが注目する。

 こうして、ギャラリーが後をついて来るように――。

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