第5章 『断空の剣』との対決

第56話 再会

 ――翌日。


 いよいよ、『断空の剣』と再会する日が来た。

 時刻は昼下がり。

 ヤツらの乗った馬車が、先ほどこの街に到着したことはエムピーが確認済み。

 変な場所で遭遇しても嫌なので、早々とヤツら対決することにした。


 ヤツらは俺の居場所を突き止めるため、まずは冒険者ギルドを訪れるに違いない。

 そこで俺はギルド内でヤツらを待ち構えることにした。

 リンカは巻き込みたくないので、少し離れた場所で待ってもらっている。


『マスター、予想通り、ヤツらはまっすぐこっちに向かっていますです〜』

『いよいよだね……』


 債務者情報を把握できるエムピーには、ヤツらの動きは筒抜け。

 依頼情報掲示板を眺めているふりをしながら、俺はヤツらの到着を待つ。


 そして――。


『入って来ましたよ〜』


 入り口に背を向けている俺には見えないが、ヤツらの接近をエムピーが教えてくれる。


『気づいたようです〜』

『ああ』


 三人の乱暴な足音が近づいてきて――。


「おいっ! レント!」


 俺の背にガイが汚い声が浴びせかける。

 久々に耳にするが、やっぱり聞くに堪えない不快な声だ。

 一拍置いてから、今気がついたかのように、ゆっくりと振り向く。


「なにか用?」

「なッ!!」


 とぼけた態度の俺にガイは怒りをあらわにする。

 相変わらず沸点の低いヤツだ。


「こんなとこまで逃げやがって、この卑怯者がッ!!」

「なっ、なによっ! その態度はっ!!」

「卑怯者のくせに生意気ですー」


 ガイに続いてミサとエルも喚き立てる。

 昔は綺麗だと思っていた二人の顔も、怒りに駆られた今は呪いの仮面のように醜悪そのものだった。


 どうして、俺はこんなヤツらを信じていたんだろう。

 こんな醜いヤツらを――。


「なにか用?」


 ヤツらの言葉には耳を貸さず、俺は同じセリフを繰り返す。

 平静を装ってはいるが、内心で怒りが暴れているのは俺も同じだった。


 平気だと思っていたはずが、ヤツらの顔を見たら追放されたときの屈辱が再燃する。

 かつてないほどの怒りが湧き上がるが、俺はそれを無理矢理抑えつける。


 今は怒りを爆発させるよりも、「なにも思っていない」というとぼけた態度の方が効果的だから。

 そして、予想通り、俺のなに食わぬ態度に三人は激高する。


「分かってるだろッ。俺たちの魔力を奪ってるのはオマエなんだろっ」

「この泥棒っ!」

「薄汚い盗人ですー」

「はっ?」


 コイツら、反省するどころか、逆ギレか。

 ほんと、クズだな。


「奪う? 泥棒? 盗人?」


 一切の容赦はしない。

 同じパーティーを組んでいた仲間なんかじゃない。

 コイツらは借りたものを踏み倒そうとする悪質な債務者に過ぎない。


 いきなり態度を変えた俺を見て、三人が怯む。

 こんな俺の姿を見るのは初めてだろう。


 仲間だと思っていたから、これまでは思うところがあっても、事を荒立てないようにしてきた。

 だが、俺をこんな風に変えたのは、オマエたちだ。

 他人に容赦のない怒りをぶつけることを教えてくれたのは、オマエたちだ。


「それはオマエたちだろう。俺はオマエたちに魔力を【譲渡】したんじゃない。【貸与】したんだ」

「「「…………」」」

「いつまでたっても返そうとしないから、強制的に取り立てただけだ」

「ちっ……」「なっ……」「うっ……」


 三人とも自覚はしているみたいだ。

 それを反省に活かせば、こうはならなかったのにな……。

 だが、もう、タイムアップだ。


「うっせえっ! 決闘だっ! オマエが負けたら、今すぐに止めろッ」

「そうよっ。決闘よっ!」

「逃げるんじゃないですよー」


 決闘。

 ついに、開き直りやがった。


 ガイの言葉に俺は驚いて――いなかった。

 予想通り、いや、期待通りの言葉だったからだ。

 期待していた言葉を引き出せたことに、俺は緩みそうになる口元を引き締める。


 決闘の言葉にギルド内がざわめく中――。


「おー、決闘か?」


 向かい合う俺たちに第三者の声がかかる。



   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】

 次回――『立会人』


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