第53話 リンカ(2/4)

 ギルドに戻り、元パーティーの事を報告した。

 彼らが奴隷落ちしたことで、裏切られたことへの怒りは多少収まった。

 だが、私の抱える問題は解決していない。

 このギフトがある限りは、決して解決しない。


 途方に暮れている私に、レントさんが誘いの手を差し伸べてくれた。


「俺もつい最近、パーティーを追放されたんだ……」


 えっ? なんで?

 レントさんほど強い人が追放?

 まったく理解できなかった。


 だからかもしれない。

 私はレントさんの誘いを受け、近くの食堂へ向かった。


 Dランクパーティーだった私たちでは行けないような高級店だった。

 運ばれてくる料理の美味しそうな匂いが鼻孔を刺激する。

 同時にお腹がくぅと鳴った。


 【壱之太刀】を使用した後は、いつもお腹が減る。

 気分は最低だけど、身体は正直だ。


「とりあえず、食べよう」


 レントさんの明るい声。

 私を気遣ってくれている気持ちが伝わってくる。

 私はその声に背中を押されて、料理に手を伸ばした。


「リンカは今後どうしたい?」


 どうしたいか……。

 このまますべてを捨てて逃げ出したい。

 それが本音だ。


「正直、今回のことで心が折れました。私の剣と同じように……」


 逃げ出せるのなら、どれだけ楽なことか。

 でも、逃げられない。

 私のギフトがそれを許してくれない。


「でも………………それでも、やめられないんです」


 ユニークギフト《阿修羅道》。

 これが私の呪いギフト


 呪いギフトが私を縛る。

 常に戦いに身を置けと命じる。


 何度も逃げようと思った。

 だけど、無駄だった。


「私のギフトが、許してくれないのです……」


 二、三日もなにもせずにいると、頭が割れるように痛み出す。

 心の中で、声ならぬ声が囁き始める。


 ――剣を取れ。

 ――強敵に立ち向かえ。

 ――その剣を血に染めろ。


 耳をふさいでも聞こえてくる声。

 その声から逃れることは不可能だった。


「私は死ぬまで戦い続けなければならない――運命さだめなのです」


 私が歩く道は血塗られた道だ。

 これまでも、そして、これからも……。

 これが私の呪いギフト


 呪いギフトのことを伝えたのは、レントさんが初めてだ。

 言っても理解されるとは思っていなかったから、今まで誰にも言えなかった。


 レントさんに伝えたのは、もしかしたら分かってくれるかも知れないと思ったから。

 見捨てられた直後で、弱っていたからかもしれない。


 返ってきた言葉は意外なものだった。


「俺もギフトで苦労してきたんだ」


 はっとする。

 じっとレントさんの顔を見る。

 初めて、ちゃんとレントさんの顔を見た。

 笑顔の陰に潜むどこまでも深い陰を垣間見た。


「俺とパーティーを組まない?」


 笑顔で告げるその言葉。

 欲しかった言葉だ。

 なによりも欲しかった言葉だ。


 だけど、やっぱり、尻込みしてしまう。

 なんとか、言い訳しようと、言葉をつくろう。

 やはり、怖いのだ。

 他人を信じるのが、怖いのだ。


 だけど、私の言い訳をレントさんはひとつずつ解決していく。

 怒りをぶつけるでもなく、高圧的に命令するでもなく。

 優しく、誠意をもって、話しかけてくる。


「今すぐ信じろとは言わない。とりあえず、一日で良いから試してみないか?」


 一日で良いから。

 そう言われて、心が揺らぐ。

 ダメなら、ダメでいい。

 ちゃんと逃げ道を残してくれる。

 きっと、これがレントさんの優しさなんだろう。


 一人でいるのは寂しい。

 血塗れになった姿を、自分一人で見るのはもう嫌だ。


「……分かりました」


 私はレントさんの優しさにすがりついた。

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