間章1 リンカ

第52話 リンカ(1/4)

 本日は4話更新です。


   ◇◆◇◆◇◆◇



 ――死んだと思った。


 パーティーメンバーたちから囮にされ、土壁で出口を封じられた。

 相手は遥かに格上のクアッド・スケルトン。


 最後の頼みである【壱之太刀】を発動させ、なんとか立ち向かう。

 かろうじて致命打は避けていたが、こちらの攻撃は届かず、ジリジリと削られていく。


 【壱之太刀】発動時に感じられるはずの高揚感。

 だけど、味方に見捨てられ、動揺していた私は、それを感じる余裕もなかった。


 後三分。

 後二分。

 後一分。


 一分ごとに魔力が減少し、終わりが近づいてくる。

 それと同時に焦りが生まれる。

 焦りが焦りを呼んで、戦いに集中しきれない。


 それでも、必死に剣を振り続ける。


 ――だが、その剣はクアッド・スケルトンには届かない。


 終わりは唐突だった。


 スキルが解除されるよりも、私の心が折れるよりも、それよりも先に、手に持つ剣がポッキリと折れた。


 ――ああ、私はここで、死ぬんだ。


 【壱之太刀】が強制解除され、私と剣を包む赤い闘気が消える。

 それとともに、全身が固まる。

 スキルの技後硬直だ。


 なにもできない私に、クアッド・スケルトンの四本の剣が迫る――。


 ――死んでもいいと思った。


 これ以上、私のギフト《阿修羅道》に苦しめられるくらいなら、死んだ方が楽になるんじゃないか。

 そんな思いが浮かび、私は抵抗する気力も失った。


 ――こんなギフトじゃなかったらなあ。


 普通のギフトがよかった。

 《剣士》とか、そんな、ありきたりのギフトで良かった。

 もし、そうだったら、どれだけよかったことか……。


 身体を支えることも、もうできない。

 地面に倒れ込む。

 目を閉じる。

 後は、死を待つだけだ。


 だが、その瞬間は――いつまで待っても訪れない。


 不思議に思いながらも、重いまぶたを持ち上げる。


 知らない男の人が戦っていた。

 その手から絶え間なく放たれる火球。


 ああ、死ぬ前に見る夢だろうか。

 私はもう死んでいるんだろうか。


 男の人はクアッド・スケルトンを倒してしまった。

 そして、私の近くに来て――。


「――ヒール」

「――ヒール」

「――ヒール」

「――ヒール」

「――ヒール」


 死にかけていた私の傷が見る見るうちに癒えていく。


「えっ?」


 信じられない光景だが、私は全快し、クアッド・スケルトンは死体になって横たわっている。


「あっ、ありがとうございます」


 まだ頭が追いつかないけど、男の人に助けられたことだけは分かった。

 飛び起きて、何度も頭を下げる。


「大丈夫?」

「はっ、はい。傷ももう問題ありません」


 私を見て、男の人が優しい笑みを向けて来る。


 ――生きてる。助かったんだ。


 あの瞬間は死んでもいいと思った。

 だけど、こうしてみると、生きててよかったと思う。


 そう思うと同時に、パーティーメンバーに囮にされたことを思い出す。


 ――また、捨てられちゃった。


 これで七回目だ。

 しかも、今回は捨て石にされた。

 味方だと思っていた相手に裏切られた。


 ――これもすべて私のギフトのせい。


 どうして、ここまで私を苦しめるの。

 こんなギフトなんかいらないッ!


 絶望に押しつぶされそうになったところで、いたわる声がかけられた。

 久々に聞いた、優しい声だった。


「とりあえず、安全な場所まで移動しよう」


 とくん。

 心臓がおおきく、ひとつ打つ。

 男の人の声は、絶望の淵にいる私に差し伸べられた救いの手に思えた。


「…………はい」


 正直、まだ、誰も信じられない。

 だけど、無意識に口をついたのは肯定の返事だった。

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