第51話 明日への備え
「いえ、マスターが気に病む必要はないです〜」
「どうして?」
「今まで返す機会はいくらでもあったのです〜。それを無視し続けていた肥溜めどもがすべて悪いのです〜」
「返す機会があった? でも……」
俺のギフトが進化する前、《魔蔵庫》だった頃には【強制徴収】は使えず、こちらから返済を迫ることはできなかった。
「たしかに《魔蔵庫》では、マスターから返済要求はできませんです〜。しかし、借りた魔力を返すことはいつでも可能でしたよ〜」
「えっ?」
「借りた当人のステータスには、いくら借りているか表示されています〜。そして、そこから自発的に返済することも出来るんです〜」
「そっ、そうなのかっ?」
「はいっ。思い当たるフシはございませんか?」
遠い記憶――冒険者に成り立ての頃の記憶をたぐり寄せる。
「……………………あっ!!」
そういえば、不自然なタイミングで魔力が回復したことがしばしばあった。
そのときは深く考えなかったけど、あの時、三人の誰かが俺に借りた魔力を返していたのか……。
昔のことで、すっかり忘れていた……。
「便所コオロギも最初のうちは返済していたんです〜」
「そうだったのか……」
「ですが、そのうち返さなくても問題がないと気付き、それからは返済しなくなったのです〜」
「…………」
「人間なんてそんなもんですよ〜」
アイツら、分かってた上で、返済しなかったのかッ!
俺からいくら魔力を借りているか分かっていながらも、俺を追放しやがったのかッ!
あんな屈辱的な仕打ちまでしてッ!
怒りと同時に、俺はあることに気がついた。
「もしかして、返済額と利息が等しくなるようにしたのはわざと?」
「そうです〜」
以前のエムピーの言葉を思い出す――。
――一日当たり、彼らの返済可能量の99パーセントほど、11,492MPを徴収しましょう〜。
毎日の取り立て量は11,492MP。
10倍するとちょうど10日ごとの利息に等しくなる。
これはヤツらがギリギリ返済可能な量だ。
だが、これは利率を8%に設定しているからだ。
――利率はトイチだとすぐにパンクしちゃうので、8%くらいで。
利率を限界いっぱいの10%に設定したら、利息すらも返済しきれないことになる。
生かさず殺さず、ギリギリまで搾り取るってことか……。
「一応、クソ虫にも選択肢は与えておいたです〜」
「そうなの?」
「返済にあてられるのは自分の魔力に限らないです〜」
「というと?」
「魔力回復ポーションで回復して返済にあてることもできたです〜」
「ああ、なるほど……」
「まあ、手持ちの魔力回復ポーションも無駄遣いしたみたいですけどね〜」
「…………」
「最初から素直に全力返済にあてていれば、一年もかからずに全部返済できたんですよね〜」
「…………」
少しでも申し訳ないという気持ちがあったら、エムピーが言うように全力で返済したはずだ。
だけど、ヤツらはそうしなかった……。
俺の中で、なにかが固く凍りついていく。
「そう。なら、容赦する必要は一切ないね」
「はいです〜!! マスターのその姿、しびれます〜!!!」
今までは心の片隅に甘い部分があった。
ヤツらが魔力を返済してちゃんと謝れば、許してしまうかもしれない――そういう思いが残っていたようだ。
だが、そんなものは今、粉々に砕かれ、消え去った。
骨の髄まで、命が擦り切れるまで取り立ててやる。
――そう、決意した。
心の中、暖かさが失われていく――。
不意に、リンカが俺の手をギュッと握りしめる。
「だっ、大丈夫ですよ、レントさん。私がついてますっ!」
「りっ、リンカ……」
彼女の手から暖かさが伝わってくる。
ナニかに飲み込まれそうだった俺。
人としての大切なものを失くしそうだった俺。
そんな俺をリンカが引き上げてくれた。
おかげで、俺はなんとか踏み留まれた。
「ありがとう、リンカ」
「いえ、なんか、レントさんが遠くに行っちゃいそうで……」
「大丈夫。もう、大丈夫だ。助かったよ」
「よかったです〜」
リンカがいなかったら、危なかった。
背筋を冷たい汗が伝わる。
あのままだったら俺は……。
今でも震えが収まらない。
「マスター、大丈夫ですか〜?」
「ああ、問題ないよ。決心もついた。明日のための準備をしよう」
「では、例のスキルを買っちゃいましょうです〜」
明日、ヤツらと対面する。
そのための準備だが、大した手間ではない。
ただひとつ、スキルを購入するだけだ。
このスキルさえあれば、ヤツらを簡単に返り討ちにできる。
15万MPと高額だったが、この一週間でそれも貯まった。
後は指を動かすだけだ。
俺はステータスをいじり、目当てのスキルを購入した――。
◇◆◇◆◇◆◇
【後書き】
一応救済ルートはあった、という話です。
ちなみに、「一年もかからずに全部返済できた」というのは休みなく全力で稼いで、一切無駄遣いせず、魔力回復ポーションに全額ぶっこめば、最短で……という理論上の話です。
今回で第4章『新パーティー結成』完結です。
次から4話、間章1『リンカ』始まりです。
パーティー加入前後のリンカの心境が語られます。
◇◆◇◆◇◆◇
【宣伝】
2023.9.1 以下2作品が連載中です。
こちらも是非お楽しみください!
『変身ダンジョンヒーロー!』
ダンジョン×配信×変身ヒーロー
https://kakuyomu.jp/works/16817330661800085119
『主人公? 悪役? かませ犬? 俺が転生したのは主人公の友人キャラだっ!』
鬼畜ゲーに転生し、ゲーム知識とプレイヤースキルで無双ハーレム!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます