第50話 リボ払いの恐ろしさ

「ああ、説明しておりませんでした〜。ゴミ虫が返し終わる日は――」


 エムピーはふふっと極悪な笑みを浮かべる。


「――永遠に来ませんよ〜」


「えっ?」


 一切の容赦が感じられない態度だった。

 俺に向けられたものではないと分かっていても、背中に冷たいものが流れる。


「……えっと、どういうこと?」


 ガイたちは毎日、着実に返済しているはずだ。

 エムピーが言わんとすることがつかめない。


「マスター、元本と利息は知っていますか?」

「ええっと……」


 なんとなくは分かっているが、自信がない……。


「念の為に説明いたしますが、元本とはマスターが貸与した魔力の総量です。『断空の剣』には2,678,078MP貸し付けております〜」

「うん、そうだね」

「強制徴収が可能なのは貸付から1年経ってからなので、現在徴収可能なのは、そのうち1,435,837MPなのです〜」


 エムピーが言ったことは冒険者タグで確認できる。


□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□


 【貸付状況】:


 ・『断空の剣』:


  貸付量  :2,678,078MP

  徴収可能量:1,435,837MP


□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□


「この徴収可能量に対して、10日ごとに8%の利息がかかるんです〜」

「ということは、放っておいたら100日で1.8倍になるってこと?」

「いえ、そうではないんです〜」

「えっ? 違うの?」

「はいです〜。マスターが言ったのは単利の場合です〜」

「単利?」

「はいっ! 利息には単利と複利があるのですが、魔力徴収の場合は複利になるのです〜」

「うっ、うん……」


 頭の中ではてなマークがいくつも浮かぶ。

 隣のリンカもポカンとしている。


「きちんと説明すると大変ですので、簡単に言いますと――利息にも利息がかかるのです〜」

「????」

「一例ですが、まったく返済しなかった場合、100日後には約2.16倍。一年後には16倍。限界いっぱいのトイチに設定した場合には、30倍以上になりますです〜」

「「えっ!?」」


 貸したものが一年で30倍以上!?!?


「まあ、これはまったく返済しなかった場合の話です〜。ダニ虫どもも、多少は返済しているので、そこまでにはならないのです〜」

「そっ、そう」

「ただ、小バエどもが必死になって返済しているのは、利息だけなのです〜。元本はまったく減っていないのです〜」


 十日ごとの利息が114,927MP

 一日ごとの返済が11,492MP。

 返済量を十倍すると……利息と等しくなる。


「あっ!」

「ふふふっ。分かっていただけましたか?」

「あっ、ああ」

「ですので、バイキンどもが返済し終わる日は、永遠に来ませんです〜」

「「…………」」


 俺とリンカは顔を見合い、震え上がる。

 【強制徴収】の怖さをあらためて実感した。


「恐ろしいギフトです……」


 リンカが震え声でささやく。


「大丈夫なのです〜。リンカさんからはこんな取り立てはしませんです〜。マスターを裏切らない限りはなんの心配もないのです〜」

「…………」


 リンカは震えたまま、コクコクと頷く。

 まあ、もとからリンカはそんなことはしないだろうが、借りている身としては、十分に恐ろしい話だろう。


「まだ、ギリギリ間に合いますです〜。ですが、明日こそが最後のチャンスなのです〜」

「最後のチャンス?」

「明日の対面で心を入れ替えないと大変なことになりますです〜」


 涼しい笑顔で告げるエムピー。

 背筋が凍り付きそうな冷たい笑みだ。


「ミジンコ以下の脳みそで理解できるとは思いませんが、このままだと10日後に下痢便野郎どもの終わりが確定します。後は死ぬまで奪い続けられるだけ。すべてを失ってもらいますです〜」


 エムピーはいつも通りの口調で死刑宣告を告げる。

 どうして10日後に終わりになるのか――その理由までは分からなかったが、それが事実であることだけはしっかりと伝わってきた。


「でも、そんな一方的でいいのか? ヤツらに同情はしないけど、なんかズルい気がするよ」


 状況も分からないまま、一方的に魔力を奪い続けられる。

 フェアでないと思うのは、俺だけだろうか?




   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】

 リボ払いは絶対にやめましょう!


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