第49話 レントの疑問

 やがて、俺もリンカも落ち着きを取り戻した。

 リンカの目は赤く充血している。

 きっと、俺も似たようなものだろう。


 心の奥底に溜まっていたおりを出しきってスッキリしたのは良かったのだが、感情が爆発した姿を見せてしまい、お互い気恥ずかしい。


 それを誤魔化すかのように、グラスに満ちたワインを一息で流し込む。

 本来は、表面のきらめきを目で楽しみ、香りをで、舌で転がし、ゆっくりと喉を滑らせる――それが正しい味わい方だ。

 冒涜する飲み方でワインと生産者に申し訳ないが、今はそんな余裕もない。


 「ふぅ〜」と長い溜め息とともに、豊かな自然を感じさせる葡萄の残り香が鼻から抜ける。

 乱暴に扱われたワインが最後の抵抗を示したのだろう。


 贅沢な方法で気持ちを入れ替えた俺は、何事もなかったかのように話題を振る。


「いよいよ、明日だ」

「はいです〜。汚物に鉄鎚です〜!!」

「レントさんを追放したヤツらなんか、ぎゃふんと言わせましょう!」


 リンカにも『断空の剣』のことは伝えてある。

 毎日、鬼の取り立てをしていることも。

 彼女は俺以上にノリノリで、エムピーと意気投合していた。


 明日、ガイたち『断空の剣』の三人を乗せた馬車がこの街に到着する。


 ――ヤツらとは追放以来の再会だ。


 計画はすでに立ててある。

 明日はそれを実行するだけだ。


 追放する際、散々に虚仮こけにしてくれた。

 エムピーと出会えて、立ち直ることが出来たが、あのときの屈辱は決して忘れない。


 追放されたその日から始まっているが、ヤツらには地獄を見てもらう。

 今後も地獄は続くが、明日はその地獄のうちのひとつ。

 絶望に染まるヤツらの顔が拝めるのだ。


 一切の容赦はしない。

 借りたものを返さないとどうなるのか、その身に刻み込んでやる。

 この地獄はヤツらが全部返済するまで終わらない――。


「マスター、その悪い笑顔、素敵です〜!!」


 どうやら、顔に出ていたらしい。

 俺は慌てて普通の笑顔を浮かべる。

 エムピーは褒めてくれたが……。


「ごめん、怖がらせちゃった?」

「いえ、怒るのも当然ですっ! 私も元パーティーメンバーが奴隷落ちして胸がスカッとしましたから」


 同じ追放仲間として、リンカも共感してくれたようで安心した。

 とはいえ、二人がいるのに暗い空気になるのもあれだ。

 話題を変えるため、気になっていた疑問をエムピーに尋ねてみる。


「ところで、ヤツらはいつ返済し終わるんだ?」


 実のところ、取り立てプランに関してはエムピーに任せっきり。

 エムピーはリボ払いがどうとか、トイチがどうとか言っていたが、正直、細かいところはまったく理解していないのだ。


 俺が理解しているのは――。


 ヤツらに貸してある魔力の総量は2,678,078MP。

 そのうち現在徴収可能なのは1,435,837MP。

 利息は10日ごとに8%。

 一日の徴収量は11,492MP。


 ――以上だ。


 そして、気になっていたことがひとつある。


 【強制徴収】を始めてから三週間。

 毎日1万ちょっとの返済があり、合計20万以上の魔力が返済されたことになる。

 それなのに――総貸付量は初日からまったく減っていないのだ。


 一体どういう仕組みなのか?


「ああ、説明しておりませんでした〜。ゴミ虫が返し終わる日は――」


 エムピーはふふっと極悪な笑みを浮かべる。


「――永遠に来ませんよ〜」




   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】

 次回――『リボ払いの怖さ』


 リボ払いの怖さが明らかに。

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