第48話 リンカの成長

 ロジャーさんとナミリアさんと話をした翌日。


 メルバの街に来て七日目。

 リンカとパーティーを組んで三日目だ。


 今日も一日、ゴブリン・コロニーを壊滅させまくった俺たちは夕方に帰還した。

 今は、宿屋の部屋に戻り、三人で夕食をとっているところ。

 この三日間、予想外に稼げたので、奮発していつもより2ランクくらい高い料理をテイクアウトしてきたのだ。


 リンカの食欲に合わせ、料理は十人分。

 エムピーにはコナモンのフルコースだ。

 ワインも一本1万ゴルの高級品。

 貴族が飲むようなものとは比べられないが、冒険者にとっては破格の値段だ。


 ご馳走と美酒のおかげで、会話も弾み、緩やかな時間が流れる。

 明日はいよいよ、ガイたちとの対決の日。

 嵐の前の凪いだ海のように、穏やかで静かな時間だ。


「この三日間よく頑張ったね」

「リンカちゃん、頑張りましたです〜」


 リンカは本当に頑張った。

 彼女は囮にされた過去を振り切って、前を向いて歩き出した。

 それに、初めて体験する【壱之太刀】の長時間使用。

 肉体的にも精神的にも厳しかったろうが、彼女はそれを見事乗り越えた。


 その結果――831,500ゴル。

 この三日間で稼ぎ出した金額だ。

 Dランク冒険者一人の3ヶ月分の稼ぎに迫るほどだ。

 リンカにとっても、俺にとっても、今までの稼ぎとは桁違いの額だ。

 しかも、リンカはまだまだ底知れない。

 今後、どう成長するのか、楽しみで仕方がない。


「はいっ! レントさんのおかげです」

「そうですっ! マスターは凄いのです〜!」


 元気いっぱいのリンカを見ていると一日の疲れなんか簡単に吹っ飛んでしまう。

 初日は追放のことを少し引きずっていたが、今では完全に吹っ切れたようだ。

 戦闘中は鬼神が如き闘気を振りまき近寄りがたいが、今の姿は快活な普通の女の子。

 彼女の底抜けの明るさに俺もだいぶ救われている。


 そして、エムピーはなんでも俺をべた褒めする。

 俺は【魔力貸与】していただけで、活躍したのはリンカなのに。


「レントさんっ!」

「はいっ!」


 いきなり、かしこまった調子に切り替えたリンカにつられて、俺も居住いを正す。


「報告したいことがありますっ!」

「報告?」


 なんだろうか?

 エムピーは察しているようで、隣でニコニコ笑顔を浮かべている。

 債務者の情報はエムピーの前では丸裸同然だ。


「実は、今日、冒険者ランクが上がりましたっ!」


 差し出された冒険者タグに表示される「冒険者ランク:E」の文字。

 三年間変わらなかった、最低ランクのFから卒業したのだ。

 三日間でゴブリン五千体以上も狩ったからなあ……。

 最大魔力量も出会った時の10から24まで伸びている。


「これもすべてレントさんのおかげですっ!」


 リンカは大きく頭を下げる。


「レントさんは、これまで誰も認めてくれなかった私を仲間にしてくれました」


 瞳がうるむ。


「ずっと恨んでいたギフトの価値を見出して、スキルの真の力を教えてくれて、私を強くしてくれました。そして――」


 細められた瞳の端から一筋の涙が伝う。


「私も冒険者として活躍できる――自信を持って言えるようにしてくれました。本当にありがとうございました」


 言い切ると同時に涙腺は決壊。

 止めどなく涙が流れ出る。


 エムピーが気遣うように、優しく頭を撫でている。

 一方、俺は動けずにいた。


 なぜなら――。


 俺も号泣していたからだ。


 リンカから向けられたストレートな感謝の気持ち。

 長い間忘れていた感情だ。


 嬉しかった。

 ただただ、嬉しかった。


 俺の力で、リンカを救えた。

 そして、それを感謝してもらえた。

 それが、無性に嬉しかった。


 ガイたちも最初の頃は、素直に感謝してくれた。

 俺のおかげで強くなれると。


 だが、いつしか、それは当たり前のこととなり――。

 強くなったヤツらは、もう「用済み」と俺を切り捨てた――。


 俺は支援職だ。

 仲間を助けるのが俺の仕事だ。

 【魔力貸与】で仲間を育てる。

 それが――俺の存在価値だ。


 でも、それだけじゃダメだ。

 俺も強くならなければならない。

 じゃないと、また、追い越され、「用済み」になってしまう。


 今度は失敗しない。

 今度こそ、リンカと一緒に強くなるんだ。

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