第45話 ギルド酒場(下)

「えっ!?!?!?」


 リンカはエムピーと同じように口いっぱいに料理を詰め込んでおり、テーブル上の料理は3分の1が消えていた。


 おかしい。

 テーブルいっぱいに頼んだはずだ。

 なのに、この短時間で……。


 俺の視線がリンカとテーブルの間を行ったり来たりしていると――。


「あっ……ごめんなさい。お腹、空いてたので、つい」


 リンカはポッと顔を赤らめ、恥ずかしそうにしている。

 どうも静かだと思ったら、一心不乱に食べていたのか……。


「いや、びっくりしただけだよ。遠慮せずに食べて食べて。足りなかったら追加で頼むから」

「昨日もそうでしたけど、こんなに長時間【壱之太刀】を使ったことがなかったので……。やたらにお腹が空いちゃうんです……」


 いやはや、スキルの影響かも知れないが、リンカがこんなに食いしん坊だったとは……。

 今後、食費のことも計算に入れないとな……。


 ともあれ、俺もお腹が空いていたので、会話もそこそこに、途中で追加オーダーをはさみつつ、三人で食べまくった――。


「ふ〜、ごちそうさま」

「ごちそうさまです。とっても美味しかったです。こんなにお腹いっぱい食べたの初めてです〜」

「ごちそうさま〜」


 リンカもエムピーも食べきった満足感で幸せそうだ。

 それは俺も同感だったが、エムピーが食べていたギルディアン・ドッグのお皿――それを見て、どうしても放っておけなかった。


「ねえ、エムピー。ギルディアン・ドッグは美味しかった?」

「はいです〜。とっても満足しましたです〜。ソースこそコナモンの最強のパートナーと思ってましたが……ケチャップも侮りがたしです〜」

「……そう。良かったね。だけど、エムピー、君は一番大切なことを忘れているよ」

「えっ!? なんですか!?」


 エムピーがギルディアン・ドッグを食べるのはこれが初めてだ。

 気がつかなくても仕方がない。

 だけど、俺は――どうしても見逃すことが出来なかった。


「エムピー、ギルディアン・ドッグのどこが美味しかった?」

「えっと〜、お肉と衣を一緒に食べて、ケチャップとマスタードの組み合わせが最高でした〜」

「そうだね……」


 たしかに、4つの味が奏でるハーモニーは至高と言える。

 だが、ギルディアン・ドッグの真の魅力はそこではない。


「ギルディアン・ドッグの一番美味しいところはそこじゃないんだ」

「そっ、そうなんですか〜?」

「私も知りません」


 二人とも、キョトンとしている。

 俺はギルディアン・ドッグが刺さっていた串を取り上げ、二人に見せつける。


「ここ。串に残った根本のカリカリ部分。ココこそが、ギルディアン・ドッグで一番美味しい場所だ。むしろ、ココを食べるためにギルディアン・ドッグが存在していると言っても過言ではない」

「えっ!?」


 エムピーが驚いた顔をする。


「説明は不要。食べてごらん」


 そっと差し出された串。

 エムピーはおそるおそるカリカリ部分に噛りつき――。


「!?!?!?!?!?!?」


 目を見開くと、ハムスターみたいにガジガジと噛りだした。

 一心不乱に噛り続け、それを食べ終わると――。


「マスター。やっぱりマスターは凄いです〜。カリカリこそ、人類が生み出した至高の宝。カリカリこそ真実っ!!!」


 少し大げさだが、その気持ちはよく分かる。


「分かってくれて、嬉しいよ」

「わっ、私も食べてみたいです」


 リンカも慌てて追加オーダーを頼むことになった。


 ――そんなこんなで、食事もあらかた終わる。


「ねえ、リンカ、俺はこの後『流星群』のロジャーさんと待ち合わせしてるんだ。リンカなら、ロジャーさんも受け入れてくれると思うけど、どうする? 一緒する?」

「えーと…………」


 悩む様子のリンカだが――。


「ごめんなさい。誘ってもらえたのは嬉しいんですけど……。やっぱり、他の人はまだ怖くって……」


 元パーティーに置き去りにされたせいか、リンカはまだ人間不信気味だ。

 俺は受け入れてもらえたけど、まだ、他人とはあまり関わりたくないのだろう。


「ううん。無理することないよ。ゆっくりやっていこう」

「はいっ!」


 というわけで、リンカは一足先に宿に戻ることになった。

 その後も、エールでちびちび喉を潤していると――。


【後書き】

 カリカリ最高!


 次回――『『流星群』ロジャー(上)』

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