第44話 ギルド酒場(上)

 ――翌日。


 今日も一日、第1階層でゴブリン・コロニーを壊滅させまくった。

 ダンジョン内のモンスターは倒しても一定時間たてば復活する。

 ゴブリン・コロニーのゴブリンたちは日が変われば復活するので、乱獲しまくっても問題ないのだ。


 昨日はリンカの実力を測るとともに、彼女に自信を持たせるという目的もあったので、戦闘は彼女一人に任せることにした。

 そして、今日は二人の連携練習をした。

 俺はファイアーボール連発で瞬殺できるのだが、あえてそうせず、短剣とファイアーボールを組み合わせた接近戦スタイルで、リンカとの共闘を行った。


 リンカの動きが速すぎるので、それに合わせるのは大変だ。

 今日だけではまだまだ連携不十分。

 明日もゴブリン相手に練習を積む予定だ。


 だが、もし二人が上手く噛み合えば、もっともっと強くなれる――その手応えがしっかりと感じられた。


 夕方になり、ダンジョン攻略を切り上げた俺たちはギルドを訪れる。

 本日の戦利品売却を済ませてから、併設されている酒場へと向かった。

 今日もたんまりと稼いだので、もっとマシな店に行ってもいいのだが、この後に予定が控えているのだ。


 夜はまだまだこれからだが、酒場の席は八割方埋まっており、猥雑な盛況を博している。

 俺たちもその喧騒に紛れ込み、ささやかな祝杯をあげる。


 三人ともお腹ペコペコなので、テーブルが覆い尽くされるほど大量の料理を注文した。

 俺もリンカも「まずは肉から」と、ワイルドボアのもも肉にかぶりつく。

 野性味あふれる肉塊を噛みしめると、濃厚な肉汁が零れそうになる。

 肉を噛み、甘みを感じさせる脂を苦味のあるエールで流し込む。


 ――うん。最高だ!


 エムピーが夢中になっているのは、ギルド名物ギルディアン・ドッグ。

 オーク肉の腸詰めを串に刺したものを小麦粉主体の厚い衣で包み、油で揚げたジャンクフード。


 安定のコナモンだ。

 たこ焼き、お好み焼き、たい焼きとコナモンの魅力に取り憑かれたエムピーは、ここ数日はコナモンばかり食べている。


 豪快にかぶりつくのが正しい食べ方だが、エムピーは小さな口ではむはむはむとかじっている。

 なかなか腸詰めまで辿りつけないでいるが、衣だけでもすでに満足した顔をしている。


「ケチャップついてるよ」


 必死にかぶりついているので、顔中ケチャップとマスタードでベチャベチャだが、夢中になっているエムピーはそれに気がついていない。

 いや、気がついていても、それどころじゃないのか。


 清潔な布でエムピーのほっぺたを拭ってあげると、「むむむむ」とエムピーが唸る。

 お礼を言っているようだが、口いっぱいに詰め込んでいるので言葉にならない。

 俺たちがモンスターと戦う時よりも真剣な顔をしているかもしれない。


 それにしても食べづらそうだ。


「切ってあげようか?」


 ギルディアン・ドッグは腸詰めと衣の二つを同時に食べることで、その真価が発揮される。

 だが、エムピーの小さな口ではそれは不可能だ。


「む??」


 俺の問いかけにエムピーが動きを止める。


「腸詰めと衣、一緒に食べた方が美味しいよ」

「…………(こくこくこく!)」


 喋れないエムピーは全力で首を振る。

 その目はとても輝いていた。


「ちょっと待ってて」


 ギルディアン・ドッグを串から外し、お皿の上でナイフとフォークで細切れに刻んでいく。


「これなら、エムピーでも食べやすいと思うよ」

「マスター、ありがとうございます〜」


 ようやく口の中が空っぽになったようで、エムピーがお礼の言葉とともに俺の顔に抱きついてきた――のだが。


「うん。手がベトベトだから、抱きつくのは止めようね」


 油にまみれた顔を拭き、皿の上の細切れをケチャップとマスタードと混ぜてから、エムピーに皿を渡す。

 それを見るや、エムピーは目をキラキラさせ、皿に突進していった。

 まるで、ゴブリンの群れに突進するリンカのように――。


「ふぅ」


 ひと仕事を終え、リンカに視線を戻すと――。




   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】

 アメリカンドッグ的なヤツです。


 次回――『ギルド酒場(下)』


 食事回続きます。

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