第43話 リンカレベリング(下)

 地面が赤く染まり、息するものが絶え――唐突に闘舞が終わる。

 要した時間は5分。


 リンカはゴブリンの血で真っ赤に染まった死骨剣を振り払ってから鞘にしまうと、俺の方へ振り返る。

 目が合うと、やり遂げた笑顔が返ってくる。

 先程まで悪鬼とも思える殺気を振りまいていたのと同一人物だとはとても思えない。

 きっと、こっちがリンカの本来の姿なのだろう。


 【壱之太刀】の効果が切れたら倒れるという話だったが、リンカは元気そのもの。

 戦いが始まる前よりも元気そうだ。


 その理由は――俺の【自動補填オートチャージ】だ。

 彼女の魔力が少しでも減ると同時に、【魔力貸与】する設定にしておいた。

 だから、彼女の魔力は常に満タン。

 俺のファイアボール連発と同様、魔力が減らなければ技後硬直は起こらないのだ。


「終わりました。この剣凄いです。それに、いつものような疲労感がないです。【魔力貸与】……凄いですね」

「凄いのはリンカのギフトだよ」


 興奮冷めやらぬ様子のリンカ。

 たしかに、剣と俺のスキルの影響は大きいが、彼女のスキル【壱之太刀】も反則級の性能だ。

 能力を上昇させるバフにはいくつか種類があるが、俺が知っているのとは桁違いだ。


「えへへ、ギフトのこと褒められるの久しぶりです」

「それでも、まだ真価を発揮していないんだ。その本領はこれから見せてもらうよ」


 長期戦になればなるほど、リンカの本当の力が発揮される。


「はいっ、がんばりますっ!」

「よしっ、じゃあ、次はもう少し大きいコロニーに向かおう」

「はいっ!」


 その後も討伐するコロニーの規模を上げていったが、リンカは問題なく殲滅していった。

 一日が終わる頃には、リンカはゴブリン130体の大規模コロニーを12分で壊滅できるようになっていた――。


   ◇◆◇◆◇◆◇


 結局、一日で18個のコロニーを潰し、ゴブリン千体近くを退治した。

 先日の俺には少し劣るが、リンカは自分が成し遂げた結果を信じられないでいた。

 彼女は今日、7時間近く【壱之太刀】を発動した。

 2分で魔力が空っぽになっていた今までとは、比べ物にならない。


 その結果――リンカの最大魔力量は10から4つ上がって14になった。

 これまで三年冒険者をやってきて増えたのが2だったから、その驚異的な伸びに、リンカは驚愕していた。


「どうだった?」

「本当に自分がやったのか、今でも信じられないです」

「間違いなく、君の実力だよ。誇っていいよ」

「いえいえ、すべてレントさんのおかげです」

「俺が魔力を貸して、リンカが戦う。それぞれの役割を果たしただけだよ。それに、俺も利息で儲けさせてもらうんだ。気にすることないよ」

「ありがとうございます。すぐに強くなってお返ししますので」


 リンカには利息一割、返済期限なしで魔力を貸している。

 『断空の剣』のヤツらのように、無茶苦茶な利息は課していない。


 今日一日での貸し付けは600ちょっと。

 夜間や休みの日などに、余剰魔力を返済してもらう設定にしているが、現時点のリンカの自然回復では、全部返済に当てても一日30ちょっと。

 だが、返済はそれほど急いでない。

 強くなって最大魔力量が増えれば、余裕で返せるようになるからだ。


 そして、エムピーが中央情報機構ユグドラシルから得た情報をもとに考え出した返済プランによると、一ヶ月もしないで返済できるそうだ。

 なんでも、上手に育てていけば、リンカの魔力量は急激に増加していくとのこと。


 返済不能にならないように調整しながら、リンカを育てていく。

 そこら辺のバランスは完全にエムピー任せ。

 彼女がバッチリと計算してくれるので不安はない。


 エムピーと目が合うと、こちらの気持ちを察したのか、ウィンクが飛んできた。

 その愛くるしさにやられそうになるが、まだ、ひとつ用事が残っている。

 俺がパチンと指を鳴らすと――。


「えっ!?」


 いきなり目の前に現れたエムピーに、リンカが驚きの声を上げる。


 元々、ギフト妖精はギフト保持者本人にしか見えない存在――と伝え聞いていた。

 だが、魔力を取り立てたり、運用したりしたことによって、エムピーはレベルアップした。

 そのおかげで、魔力を貸与したパーティーメンバーにもその姿を見せられるようになったのだ。

 さらにレベルアップすれば、他の人にも姿を見せられるようになるらしい。


 これがギフト妖精一般のことなのか、エムピーが特別なのか、俺には分からない。

 いずれにしろ、本当にリンカにも見えているようだ。


 状況が把握できていないリンカに向かって、エムピーが頭を下げる。


「お初にお目にかかります〜。マスターの魔力運用を一手に引き受けるマジカルプランナー、ギフト妖精のエムピーです〜」

「えっ!? えっ!?」

「リンカさん、これからも一緒にマスターを支えて行きましょう!」

「はっ、はいっ!」


 リンカの返事を聞いたエムピーは、リンカの胸元に飛び込んだ。

 最初は戸惑っていたリンカだったが、すぐに受け入れたようだ。


「この子がギフト妖精ですか……。初めて見ました……。」


 リンカはエムピーの頭を優しく撫で始めた。

 エムピーも「うふふです〜」とご満悦だ。


 どうやら、二人とも仲良くやれそうだな――。





   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】

 そのうち明かされますが、エムピーは特殊なギフト妖精です。


 次回――『ギルド酒場(上)』


 お食事回です。

 空腹時はご注意を!

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