第42話 リンカレベリング(中)

壱之太刀いちのたち終之太刀ついのたち――斬り結ぶ太刀の下こそ地獄なれ、一歩踏み込め阿修羅道」


 詠唱を終えたリンカはコロニーに向かって疾駆する――。


 スキルの効果で、リンカの身体と手に持つ死骨剣は赤い闘気で包まれている。

 それはまるで血を求める猛獣のようだった。


 リンカが持つ唯一のスキル――【壱之太刀】。

 身体能力を爆発的に高めるスキルだが、二つ欠点がある。


 ひとつ目は燃費の悪さだ。

 発動するのに7MPが必要で、さらに1分経過するごとにMPを1消費する。

 現在の魔力量では最大4分しか戦えない。


 もうひとつは、制御に関して。

 このスキルは一度発動したら、自分の意志では解除できない。

 武器を失うか、魔力を使い果たすか、周囲のモンスターすべてを討ち滅ぼすまで、止まることがない。

 クアッド・スケルトン戦では、武器が折れたことによって強制解除されたのだ。

 その上、解除後は立っていることすらできず、倒れ込んでしばらく動けない。


 なんとも使い勝手の悪いスキルだ。

 普通のパーティーだったら、持て余してしまう。

 リンカがどのパーティーにも馴染めなかったのも当然だ。


 だが、俺がいれば話は別だ。


【魔力貸与】と【自動補填オートチャージ】で、リンカの魔力を常に満タンに維持できる。


 俺の魔力は1分間で20回復する。

 毎分1MP供給することなど誤差のうちだ。

 俺はいつまでも魔力を供給でき――リンカはいつまでも戦える。


 止まらぬ殺戮が始まった――。


 ゴブリンどもが気付くより早く、リンカは一体に迫り、ひと振りでその首をなんなく切り落とす。

 自分の死を悟る前に、ゴブリンは生涯を閉じた。


 ようやく襲撃に気づいた頃には、三つの死体が地面に転がっていた。

 慌てて臨戦態勢に入るゴブリンども。

 だけど、圧倒的に遅すぎた。

 リンカが剣を振るう度に死体が作られる。


 ひとつ。

 ふたつ。

 みっつ。


 ――――。


 鬼神をその身に宿したがごとく、リンカの蹂躙は止まらない。

 散らばっていたゴブリンに駆けつけ、凄惨な笑みを浮かべたまま死骨剣を振るう。

 ゴブリン程度では、一太刀にすら耐えられず、命を散らしていく――。


 狂気を孕んだ虐殺劇だが、俺はリンカの動きに見惚れていた。


 ――美しかった。


 一切の無駄を排除した華麗な舞いに魂が熱くなる。

 自分もそれに加わりたい。

 駆け出しそうになる足を止めるのを、精一杯、堪えなければならなかった。


「カッコいいです〜!」

「ああ、そうだな」


 二人きりになり、今までおとなしくしていたエムピーが話しかけてきた。

 エムピーのことはまだ、リンカに伝えていない。

 今日の夜にでも教える予定だ。


「どう、彼女は?」

「想像以上でした〜。彼女を育てたら、魔力ガッポガッポです〜」


 リンカとパーティーを組み、【魔力貸与】したことによって、エムピーは中央情報機構ユグドラシルから彼女の情報を得られるようになった。

 もともと本能的なカンで察してはいたようだが、それがデータによって、しっかりと裏打ちされたのだ。


 エムピーは相変わらず魔力を増やすことしか頭にないようだが、俺にとっては彼女の成長をサポートできることの方がよっぽど大切だ。

 冒険者を始めたばかりのことを思い出す。

 あの頃は、俺の【魔力貸与】で仲間が強くなっていくのが、ただただ嬉しかった。

 いつのまにか忘れていた気持ちをリンカが思い出させてくれた。


 今度は失敗しない。

 今度こそ、二人で強くなるんだ。


 そう思いながら、俺はリンカの勇姿に見入っていた――。

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