第39話 断空の剣8:剥がれたメッキ(下)

 馬車を襲った三体のハイオーク。

 そのうち二体は『双頭の銀狼』によって打倒され、残るは一体。

 その一体は『断空の剣』を一方的に蹂躙していた。

 為すすべもなく地べたに倒れ込む『断空の剣』の三人。

 かろうじて一命は取りとめてはいるが、全身傷だらけ。


 ハイオークはとどめを刺さんと大鎚を振り下ろす。

 そこに割り込む二つの銀の影。


 短い銀髪の剣士デストラが三人の前に立ちはだかり、直剣で重い一撃をしっかりと受け止める。


 その間に、斥候男がハイオークを短剣で突き、長い銀髪のシニストラが直剣で斬りかかる。

 後衛職の二人は三人に任せきったとばかり、後方で待機。


 『断空』相手には三対一でも余裕だったハイオークだが、今度は形勢逆転――『双頭』の三人に押されている。


 三人ともスキルによる大技は使わないが、巧みな剣技と連携でハイオークに攻撃の隙を与えない。

 着実にダメージを蓄積していき――。


 短い銀髪がハイオークの左腕を。

 長い銀髪がハイオークの右腕を。

 同時に斬り落とす。


 二人はそのまま飛び上がり――。


「「――シルバーシザース」」


 二人の声が重なり、二本の直剣がハサミのように交差する。

 ハイオークの頭部が胴体と別れ、地に転がった。


 しんと静まり返った場に――。


「戦闘終了」「警戒解除」


 『双頭』両リーダーの声が響き。

 一瞬の空白の後、乗客たちが歓声を上げる。


 二人の護衛騎士が『双頭』の面々に近づき、謝意を述べた。


「助かりました」

「さすがは『双頭の銀狼』です」

「それに引き換え……」


 護衛騎士の冷ややかな視線がガイたちに注がれる。


「これが期待の星『断空の剣』ですか」

「評判は当てにならないものですな」

「Dランク冒険者でも、もう少しマシでしょう」


 『双頭』の誰もなにも言わなかったが、その表情は騎士の言葉を肯定していた。


 ――『断空の剣』はスキル頼りの力押しだけ。


 一部の冒険者の間ではそう囁かれている。

 それをやっかみだと否定する者たちもいたが、その言葉の正しさを、まさに今、彼らは証明してしまった。


「スキルが使えなくなったって噂は本当だったみたいだな」

「にしても、弱すぎです」

「Bランクならハイオークくらい、スキルなしでも倒せるだろ」


 『双頭』の面々の言葉は事実だ。

 そもそも、スキルは連発するものではなく、ここぞという場面の切り札だ。

 「スキルが使えないので戦えません」ではお話しにならない。


 自分たちの実力で着実にひとつずつランクを上げてきたBランク冒険者なら、それが当然。

 『双頭』も今回は最速で倒す必要があったためスキルを使用したが、ハイオーク程度スキルを使用しなくても時間をかければ安全に倒せる相手だ。


 それなのに――。


「セリカ、回復してやれ。最低限でいい」


 短い銀髪のデストラが回復職の女性セリカに命じる。

 セリカとしては本意ではない。

 できるならば、このまま三人を置き去りにしたいくらいだ。


 だが、リーダーの命令は絶対。

 しぶしぶと三人にヒールをかけた。


 言われた通り、最小限の回復に留める。

 大きな怪我は塞がったが、小さな傷はそのまま。

 立ち上がるのですら苦痛を伴う状態だが、セリカの知ったことではない。

 彼女にはそれ以上の情けをかける気はなかった。


「ほらっ、さっさと起きろッ!」


 斥候男が横たわったままの三人を足蹴にする。

 他の二人も――。


「いつまで寝てるんですか」

「早く馬車に乗り込みなさい」


 急かすのはなにも意地悪だけではない。

 多少、その気持ちもあるが、騒ぎを聞きつけたモンスターが襲ってくる前に、いち早くここを離れる必要があるのだ。

 ガイたちもその事は知っているはずなのだが……。


 痛みに顔をしかめ、のろのろと起き上がったガイたちを、『双頭』のメンバーは無理矢理、馬車に押しこむ。


「キミたちは奥で酔っ払っていれば良い」

「戦力としては期待しないので、ごゆっくりどうぞ」

「ザコはでしゃらばず、大人しくしてろ」


 乗客たちも同じように侮蔑の視線を投げかける。


 だが――。


「クソっ……」

「むっ……」

「…………」


 項垂れた三人はすごすごと背中を丸めることしか出来なかった――。




   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】

 ぷちざまぁ完了!

 本命のざまぁはメルバに着いてから。

 お楽しみに!


 次回、レント視点に戻ります。


   ◇◆◇◆◇◆◇


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1万字弱で頭からっぽにして気軽に読めるラブコメです。

すきま時間や寝る前のおともにどうぞ!

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