第37話 断空の剣6:剥がれたメッキ(上)

 ――ガイたちが馬車旅を始めて四日目のこと。


 高速馬車は旅程を縮めるため、普通馬車よりも危険度の高いルートを通る。

 今、馬車が通っているのは深い森を貫く街道。

 この旅で一番危険なところだ。


 とはいえ、馬車のルートとして採用されているくらいなのだ。

 モンスターに襲われる事態は滅多に起こらない。

 他の場所より多少、警戒を高めるくらいだ。


 だが、その滅多にない事態が、今、起ころうとしている――。


「ハイオークだッ!」


 御者の叫び声とともに、馬車が急停車する。


「んあっ?」

「なっ、なによっ!?」

「私の眠りを妨げるのは誰ですー」


 眠りこけていた『断空の剣』の三人が急制動に目を覚ます。

 昼間っから酔い潰れて、眠りこけていたのだ。

 のんびりと緊張感のない目覚めだった。


 乗客たちからの非難する視線が突き刺さる。

 『双頭の銀狼』からも呆れが伝わってくる。

 彼らだったら、酔っ払っていようと、寝ていようと、モンスターの接近に御者より早く気がつき、すぐに臨戦態勢を整えて飛び出している。


 今回、その役目は『断空の剣』だ。

 だからこそ、彼らはハイオークに気づいていながらも、動かないでいたのだ。

 最悪、ハイオーク三体くらい自分たちだけでも退けられる自信があったので、お手並み拝見というわけだ。

 そして、初動の段階で、すでに失望していた。


 そこに、護衛騎士の怒声が響き渡った。


「ハイオークが三体ッ! 至急、応援頼むッ!」


 金属鎧を纏った巨体のハイオーク。

 その手には大鎚が握られている。


 通常のオークならDクラス相当のモンスター。

 だが、その上位種であるハイオークはBランクパーティーが当たらなければ倒せない強敵だ。

 その強敵が三体も――。


 しかし、幸運にも馬車にはBランクパーティーが二つ。

 どちらも名高いパーティーだ。

 護衛騎士の声はそこまで悲観的でなかった。


「ほらっ、さっさと降りろよっ、最後尾さまッ!!」


 『双頭の銀狼』の斥候男が蹴り落とさんばかりの勢いで、ガイに詰め寄る。


「うっせー、今行くところだッ!!」


 飛び出すガイに続いて、ミサとエルも馬車を下りる。

 『双頭の銀狼』の五人はその後に続いた。


「この場は君に任せるよ」と長い銀髪のシニストラ。

「指示を出してくれ」と短い銀髪のデストラ。


 ガイは近寄ってくる三体のハイオークを目視で確認し、皆に伝える。


「右は『双頭』。左は俺たち。騎士は真ん中、倒す必要はない。俺たちが倒すまで持ち堪えろッ!」


 しょっぱなで躓いたガイだが、指示を出すのには慣れている。

 そして、その指示は妥当なものであった――それを実行できるのであればだが……。


 指示に従い、『双頭』の五人は右側のハイオークへ向かって駆け出し、取り囲んで戦闘を始めた。


 二人の護衛騎士は長槍を前に突き出し、ハイオークに備える。

 指示通り、足止めして時間を稼ぐ作戦だ。


 そして――。


「エル、支援魔法だ。攻撃力を上げてくれ」

「魔力が回復してないので、無理ですー」

「ちっ、ミサ――」

「私だって空っぽよ。魔法打てないわよッ!」

「クソっ!!」


 責める視線を二人に送るが、魔力切れはガイも同様。

 やけっぱちでハイオークに向かって駈け出した――。





   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】

 ガイたちもBランクなので楽勝だね(すっとぼけ)


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