第34話 リンカ勧誘(上)

 ティラミさんによる事情聴取は終わり、ついでにクアッド・スケルトン討伐報酬と魔石買い取り金を受け取った。


 合わせて70万ゴル。

 この二日間、モンスターを無茶なペースで乱獲しまくったが、討伐報酬はそれを上回っている。

 予想外の臨時収入だ。

 たった一体でこんなに貰えるとは、イレギュラーはそれだけ脅威なのだろう。


 ――残念なお知らせもある。


 リンカの荷物は、囮にされた際にヤツらに奪われた。

 そして、ヤツらは逃走途中に、スケルトンの集団に遭遇。

 リンカのだけではなく、自分たちの荷物すらも、ほとんどがダンジョンに置き去りになったのだ。

 長時間経過した物は――死体も含め――ダンジョンに吸収される。


 パーティーメンバーが有罪になった結果、本来ならその所持品はリンカのものになる。

 だが、それすらも失われてしまった。

 拠点に多少の蓄えはあるだろうが、Dランクパーティーなので、それもたかが知れている。


 一方のリンカといえば、クアッド・スケルトン戦で剣は折れ、革鎧もボロボロだ。

 仲間に裏切られ、装備品を失い、金銭的に困窮している。

 冒険者としての再起を図るのは極めて困難な状況だ。


 自分一人の力では……。


 聴取室を出た俺とリンカは、そのまま冒険者ギルドを後にした。

 あれだけ大騒ぎになったのだ、もたもたしていると他の冒険者が話を聞こうと寄って来るだろう。


 ――勧善懲悪。


 不条理な死と隣りあわせの冒険者たちは、正しき者が報われ、悪しき者が裁かれる話が大好物だ。


 ギルドを出て少し歩き、俺は立ち止まる。

 普通だったら、ここでサヨウナラだ。


 だけど、ここで俺は一歩踏み込む。

 ずうずうしく、厚かましく、恩着せがましい。

 そんなこと百も承知の上で、彼女の懐に入り込む。


 彼女のためであり、俺のためでもあった。


「さてと、この後予定は?」

「……いえ、なにも」

「だったら、ちょっとつき合って欲しい。話があるんだ」


 俺は努めて明るく、軽く振る舞う。

 俺もエムピーの明るさに救われたからだ。

 深刻になろうと思えば、いくらでもなれる。

 でも、それは……良いことじゃない。


「…………」


 リンカは警戒するが、断りの言葉は出てこなかった。


 信頼していた仲間から裏切られた直後だ。

 いくら命を救われた相手とはいえ、出会ったばかりの俺を信じられる心境ではないだろう。

 かと言って、助けられたという恩義がある以上、無下にも出来ない。


 その葛藤の結果が――沈黙だ。


「それに、今後どうするにしろ、その格好じゃどうしようもないでしょ?」

「…………」


 傷だらけでかろうじて形を保っている自分の鎧を見つめ、リンカは沈黙を続ける。


「リンカのおかげで臨時報酬も入ったんだ。食事くらい奢らせてよ」

「いえ、これ以上ご迷惑をお掛けするわけには参りません」

「なに、乗りかかった船だ。最後までつき合わせてよ」

「どうして、そこまでして下さるのですか?」


 リンカの問いかけにしばし躊躇した後、意を決して口を開く。


「俺もつい最近、パーティーを追放されたんだ……」

「えっ!?」


 軽い調子から切り替える。

 笑顔の奥底から真剣さを覗かせる。


「俺の愚痴を聞いてよ。リンカの愚痴も聞くから」

「…………」

「お互い話して、すっきりしよう」

「……わかりました。お願いします」

「こちらこそ」


 了承を得て、俺たちは手頃な食堂に向かった――。

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