第33話 ギルド聴取

 『流星群』がギルドから立ち去り、傍観している冒険者たちがざわめきを取り戻す。


 冒険者は刹那的な生き物。

 明日、生きている保証はない。


 だからこそ、背中を預ける仲間には絶大な信頼を寄せる。


 仲間への裏切り。

 ましてや、囮として捨て石にする。


 それは――絶対に許されない行為だ。


 怒気を孕んだ視線が、床に座り込んだ三人に集中する。

 一人一人の放つ圧力はロジャーさんほどではない。

 しかし、数が数だ。


 これだけの冒険者全員を敵に回した恐怖に晒され――。

 三人はようやく、自分たちのやらかした事の大きさを知る。

 周囲の視線から逃げるように俯いてしまった。


 そこに追い打ちをかけるのは――。


「さて、なにか弁解はありますか?」

「「「…………」」」


 ギルド職員の女性がキツい目で問いただす。

 リンカのパーティーメンバー三人は黙るばかり。

 死んだと報告されたリンカ本人が姿を現し、その上、俺という第三者の証人付きだ。

 今さら、どう言い訳しても通じないと悟ったのだろう。


 だが、彼らから反省の意は感じられなかった。

 それどころか、恨みがましい視線をリンカに送っている。

 まったく、本当にクズどもだな。


「では、別室でお話ししましょう」


 別の職員が三人を連行して行った。

 三人とも、死んだ目をしていた。


「遅ればせながら、冒険者ギルド・メルバ支部職員のティラミと申します」


 ティラミと名乗るギルド職員が軽く頭を下げた。


「レントさん、被害が出る前にクアッド・スケルトンを討伐したこと、および、冒険者を救助したこと、ギルドとして感謝致します」

「いえ、当然のことをしたまでです」

「リンカさんも無事でなによりでした」

「すべてはレントさんのおかげです」

「お二人からもお話を訊きたいのですが、少しお付き合い願えますか?」

「もちろんです」

「はい」


 質問のかたちをとっているが、それが強制であることくらい誰でも分かる。

 俺としても、ちゃんと真相を伝えておきたいので、最初からそのつもりだ。

 ティラミさんに連れられて、俺とリンカは別室で聴取に応じることになった――。


「――なるほど。聴取は以上です。ご協力ありがとうございました」


 そう言われて、透明な水晶玉から右手を離した。

 隣に座るリンカも同じようにする。


 この水晶玉は発言の真偽を判定する魔道具だ。

 真実であれば青く光り、虚偽であれば赤く光る。

 もちろん、聴取の間、水晶は青く光り続けていた。


 今頃、リンカのパーティーメンバーたちも聴取を受けている。

 その水晶は青いのか、赤いのか……。


「あの三人はどうなるんですか?」


 リンカがおずおずと尋ねる。


「無理矢理、仲間を囮にしたこと、そして、ギルドに虚偽報告を行ったこと。どちらも重罪です。犯罪奴隷として死ぬまで鉱山で働かされるでしょう」


 ヤツらはその行いに相応しい罰を受けることになった。

 即座に死刑にはならなかったが、犯罪奴隷として使い潰される。

 どっちがマシとは言えないだろう。


「そうですか……」


 彼らの末路を聞いても、リンカは表情を変えなかった。

 一体、なにを感じているのか。

 俺には知る由(よし)もなかった。

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