第31話 偽りの報告
「たっ、大変だッ!」
三人組の冒険者が冒険者ギルドに駆け込んできた。
先頭の剣士風の男が大声で叫ぶ。
周囲の視線が剣士に集中する中、ギルドの女性職員が声をかける。
「いったい何事ですか?」
問いかける女性職員に、剣士は緊迫した様子で報告する。
「イレギュラーだ。第3階層にクアッド・スケルトンが現れたんだッ!」
クアッド・スケルトンは本来、第4階層に出現する有名モンスター。
男の話が本当なら、一刻も早く対処しなければならない事態。
女性職員の顔色が変わった。
冒険者たちの間にも動揺が走る。
「少々お待ちを」
女性職員は慌ててカウンター内に戻り、第3階層の地図を持ち出す。
「場所はどこですか?」
「ああ、ここだ」
剣士が地図の一点を指差した。
「分かりました。緊急依頼を」
職員は別の男性職員に緊急依頼を手配するよう伝える。
「しっ、至急、手配します」
男性職員に伝わったのを確認すると、女性職員は剣士に向き直る。
「皆さんは、無事でしたか?」
「ああ、それなんだが……」
拳を震わせながら、剣士が告げる。
「俺たちは四人パーティーだ」
今、ここにいる彼らは三人だけ。
女性職員だけでなく、周囲の者も事情を悟る。
「俺たち三人はなんとか逃げ延びたのだが、仲間の一人が……」
きつく閉じられた瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちる。
「自分から囮になって、俺たちを逃がしてくれたんだ。ちくしょうッ!」
剣士は近くのカウンターを殴りつける。
「リンカは本当に、良い子だったのよッ!」
魔法使いの女性が叫び声を上げる。
もう一人、ヒーラーの男は困惑した顔で黙り込んでいた。
「では、そのリンカさんは……」
「ああ、今頃もう……」
嗚咽混じりで声をひねり出す。
王都の劇場の舞台俳優顔負けの演技に、誰も疑いを持たなかった。
それに、リンカの実力は知れ渡っており、悪い意味で有名だった。
ギルドにいた誰もが、この話を聞いて、リンカの生存は絶望的だと認識した。
「リンカさんですね。ただいま生存を確認しますので、お待ちください」
女性職員は持ち場に戻り、端末を操作する。
端末は離れた場所にある冒険者タグでもその情報を読み取り、持ち主の生死を確認できる。
その結果に女性職員の頬が緩んだ。
「朗報ですっ! リンカさんはまだ生きてますっ!」
クアッド・スケルトン遭遇から、彼らが帰還するまでかなりの時間が経過している。
現時点で生存している以上、危機は脱したと見て間違いない。
女性職員の言葉にギルド中がわっと沸く。
間違いなく死んだと思われていた冒険者の生存報告。
他人のことであっても、よく思われていない相手のことであっても、喜びを分かち合いたくなる情報だ。
早くも、ジョッキを掲げ乾杯している者や、手を叩いて興奮している者もいる。
そんな中――。
「えっ!?」
一人困惑している男がいた。
報告した剣士だ。
本来誰よりも喜ぶはずが、剣士の顔に浮かんだのは、驚愕、焦燥、不安。
残りの二人のメンバーも動揺を隠せない様子だ。
熟練のギルド職員はそれを見逃すはずもない。
剣士に問い詰めようとしたところ――。
「じゃあ、とっとと助けに行かないとな。俺たちが行ってくる。手続きは任せた!」
すくっと立ち上がった一人の美丈夫(びじょうふ)。
続いて、男の仲間たち。
この街で最高位、唯一のAランクパーティー『流星群』の面々だ。
「俺たちがクアッド・スケルトンを倒して、その子を救ってくる」
『流星群』のリーダーであるロジャーが自信満々に宣言する。
わあああっ。
ギルド全体に歓声が巻き起こる。
彼らに任せれば、問題ない。
ギルド内は一転してお祭り騒ぎとなった。
そんな中、水を差すような冷たい声が入り口から聞こえてきた。
「その必要はない」
◇◆◇◆◇◆◇
【後書き】
次回――『真の報告』
レント視点に戻ります。
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