第29話 クアッド・スケルトン

 そんな彼女に向かって、無情にもクアッド・スケルトンが剣を振り下ろす。


 だが、その前に俺は――。


「――ファイアボール」

「――ファイアボール」

「――ファイアボール」

「――ファイアボール」

「――ファイアボール」

「――ファイアボール」

「――ファイアボール」

「――ファイアボール」

「――ファイアボール」

「――ファイアボール」

「――ファイアボール」

「――ファイアボール」

「――ファイアボール」

「――ファイアボール」

「――ファイアボール」

「――ファイアボール」

「――ファイアボール」

「――ファイアボール」

「――ファイアボール」

「――ファイアボール」


 クアッド・スケルトンの一撃が彼女を切り裂く直前――。

 俺が放った無数のファイアボールがクアッド・スケルトンを直撃する。

 ファイアボールは【火魔法】レベル1の魔法だ。

 強敵クアッド・スケルトン相手には微々たるダメージしか与えられない。

 だが、少しの間動きを止めることが出来る。


 そして、小さな塵でもそれが積み上がれば――。


 躊躇は無用。

 クアッド・スケルトンが灰になるまで、無我夢中でファイアボールを撃ち続けた。

 何発放っただろうか――。

 なにも出来ないクアッド・スケルトンは、やがて灰になり、消え去った。


『やったです〜』

『ふぅ〜〜〜』


 ――間一髪だった。


 大きく息を吐き出し、冷や汗を垂らしながら、彼女を見る。

 まだ、息をしている。

 なんとか、間に合った。


『マスター、この子ピンチです〜!』

『ああ、急がないとな』


 勝利の余韻に浸っている暇はない。

 少女は大量の血を流している。

 今にもその命が失われそうだ。

 俺は倒れている少女のもとへ向かった。


「――ヒール」


 倒れた彼女の傷が少し癒えたが、まだまだ全快にはほど遠い。

 そこで俺は――。


「――ヒール」

「――ヒール」

「――ヒール」

「――ヒール」

「――ヒール」


 ――ヒールを連発した。


 彼女の傷はまたたく間に消え去り、傷ひとつない姿になる。


『助かったです〜』

『間に合って、良かったよ』


 俺とエムピーは脳内で喜びを分かち合う。

 一方、少女は――。


「えっ?」


 大きく目を見開く。

 死を覚悟していたところを助けられた上、非常識なヒール連発で全回復したのだ。

 驚くのも当然だろう。


 だが、ようやく落ち着きを取り戻したようで、飛び起きて、何度も頭を下げる。


「あっ、ありがとうございます」

「大丈夫?」

「はっ、はい。傷ももう問題ありません」


 助かった安堵が一段落すると、彼女の顔を絶望が染め上げる。

 信じていた仲間に裏切られ、囮にされたのだ。

 今まで懸命に築き上げてきたものが、足元からガラガラと崩れ落ちていく。

 その絶望は……俺もつい最近味わったばかりだ。


「とりあえず、安全な場所まで移動しよう」

「…………はい」


 クアッド・スケルトンの魔石とドロップ品を拾ってから歩き出すと、彼女も俺の後をついて来た。

 俯いたままで、足取りにも生気が感じられない。

 会話もなく、俺たちは歩き続ける。


 仲間に見捨てられた彼女に、俺は自分を重ねた。

 俺が立ち直れたのは、エムピーと出会えたから。

 彼女には、心の支えとなる相手がいるだろうか……。


 心の中でエムピーに語りかける。


『なあ、エムピーが言っていた「儲けの匂い」って、この子のことか?』

『そうですよ〜。この子は極上の優良投資先なのです〜』

『優良投資先?』

『はいですっ! なにがなんでも、この子を仲間にするべきです〜』

『そっか……』


 エムピーが言うような打算なしでも、この子を放っておく気にはなれなかった。

 その境遇が自分と重なるから……。

 俺の独りよがりじゃないと良いんだが……。


 鉛のように沈んだ空気の中、【気配察知】でモンスターとの遭遇を避けつつ、無事に安全地帯に到着した。

 ダンジョン内には、この場所の様にモンスターが入れない安全地帯が存在する。


 誰もいないのを確認していたので、二人きり部屋に入り、床に座り込む。

 この子のパーティーメンバーたちは、すでに遠くまで逃げ去っていて、居場所を察知できなかった。


「一息つこうか」

「…………はい」

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