第28話 囮

 【気配察知】が少し離れた部屋から複数の気配を感じ取る。

 強そうなモンスターが一体、それに複数の冒険者。


『……なんか、ピンチみたいだな』


 数で優っている冒険者の方が押されている。

 そして、このモンスターは――。


 考えるより先に身体が動いた。


『行くぞっ!』

『行きましょうっ! 儲けの匂いがしますです〜!!』


 気配の先に向かって走る――。


 部屋が近づくと、誰かがこちらに向かって駆けて来た。

 大声で怒鳴りながら走る、三人組の冒険者だ。


「なあ、いいのか?」

「しゃあねえだろ、誰かが犠牲になるしかなかったんだ」

「いままでお荷物で、散々迷惑かけてきたんだ。囮になって役立てたんだから、アイツも満足だろうさっ」

「ホントよ、アイツがいなければ、私たちはもっと強くなってたのよ」

「ああ、その通りだ。アイツが足を引っ張らなければ、俺たちは今頃Cランクだったはずだ。こんなところで苦戦なんてしてなかったぞ」

「せめて、最後くらいは役に立ってもらわないとねっ」


 冒険者たちが俺に気づき、次々に叫びを上げる。


「おいっ、ジャマだ、どけッ!」

「どいてよねっ!」

「アンタも逃げた方がいいぞ」


 端に寄って道を空けた俺に構わず、三人は死にもの狂いで逃げ去っていった。

 【気配察知】で、まだ一人がモンスターと戦っていることが分かる。


『もう、礼儀のなってないヤツらです〜』


 ぷんすかなエムピーだが、それどころではない。

 状況から判断すると――。


「チッ、アイツら、仲間を見捨てたのかッ!」


 強く奥歯を噛み締め、俺は駈け出した。

 間に合ってくれよ……と願いながら。


 戦闘が行われている部屋の入口にたどり着き――。


「なっ!? そこまでするのかッ!!!!」

「塞がれてますです〜!」


 入り口を塞ぐように設置された土壁。

 土魔法で人為的に作られたものだ。

 逃げ出したヤツらの中に魔法使い風の女がいた。

 そいつが作り出したに違いない。


 モンスターから逃げるための時間稼ぎではない。

 囮が逃げられないようにしたのだ。


「腐ってやがるッ!」


【気配察知】で中にいる人の位置を確認し――。


「――ファイアボール」

「――ファイアボール」

「――ファイアボール」


 三連発の火球で土壁を粉々に砕くと、部屋になだれ込む。

 中では戦闘の真っ最中だった。


 四本腕の骸骨モンスター。

 クアッド・スケルトンだ。

 四本の剣を操る強敵。

 通常のスケルトンの何倍も強い相手。

 本来なら、この階層には出現しないモンスターだ。


 対するはポニーテール少女。

 刃こぼれの著しい直剣を正眼に構えている。

 無数の傷を負い、スカイブルーの髪は血で染まり、装備している革鎧もボロボロだ。

 だが、それでも、諦めることなく立ち向う。


 両者は目まぐるしく位置を変えながら、激しく打ち合う。

 下手に飛び込んでもジャマになるし、ファイアボールだと彼女に当たってしまうかもしれない。

 助太刀するタイミングを見計らいつつ、両者から目を離さない。


 襲いかかるクアッド・スケルトンの連撃。

 少女剣士は朧(おぼろ)に赤い光を纏った剣で巧みにさばいていく。


 彼女より先に限界を迎えたのは、彼女の剣だった――。


 クアッド・スケルトンの剣撃を受け止めた剣は、音を立てて半ばから折れてしまった。


「なっ!?」


 動揺する彼女は固まってしまい、続く斬撃をもろに喰らって、その場に倒れる。

 息も絶え絶えで、反撃する体力も気力も残っていないようだ。


 そんな彼女に向かって、無情にもクアッド・スケルトンが剣を振り下ろすッ――。

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