第27話 メルバ大迷宮第3階層

 ――翌日。


 今日は第3階層に挑戦だ。

 このフロアと次の第4階層はDランク冒険者向け。

 第2階層までとは異なり、ここに挑む冒険者は青臭さが抜けた一人前の冒険者。

 彼らのピリリとした緊張感が伝わってくる。


 階層が進み、出現モンスターの強さもワンランク上がる。

 昨日の手応えでは、まだまだ余裕だと判断できる。

 しかし、油断したところをパクっとやられるのがダンジョンというものだ。

 俺も他の冒険者にならい、気を引き締める。


 第3階層はこれまでと打って変わって洞窟型フロア。

 迷路のように入り組んだ細い通路を進み、ところどころにある部屋を攻略していくのだ。


「うわ〜、迷路です〜!! これぞ、ダンジョンですぅ〜!!!」


 第1、2階層は外の世界と似たような風景だが、このフロアはダンジョンならではだ。

 陰気で鬱々とするフロアだが、初めて目にするエムピーは、テンションMAXでノリノリだ。


 薄暗い通路。

 ジメジメとした空気。

 そして、閉塞感。


 一部の冒険者には「この雰囲気が堪らない」と大人気だが、俺を含む大多数の冒険者たちは開放的な屋外型フロアを好む。

 エムピーは少数派なようだ。

 まあ、単に物珍しいだけかもしれないが……。


「あんまり騒ぐと、敵が来ちゃうから程々にね」


 壁や床で音も反響するし、音に敏感なモンスターも存在する。

 このフロアでは不用意に音を立てるのは禁物だ。


『あっ、はい、では、こっちに切り替えますね』

「えっ!? なに!?」


 いきなり頭の中にエムピーの声が響き、俺は頓狂とんきょうな声を上げてしまう。


『説明してませんでした〜。マスターと私は、こうやって念ずるだけで会話できるんですよ〜。言い忘れててゴメンナサイ』

『ほっ、本当?』

『はいっ! マスターもできてますよ〜』

『じゃあ、今日のおやつは?』

『ふかふかのタイ焼き、尻尾までアンコぎゅうぎゅうのやつです〜』

『ほんとだ……』


 半信半疑で念じてみるとバッチリ会話できた。

 これは便利だ。

 ただ、もっと早く教えてくれれば、馬車の中で危ない人を見る視線に晒されずに済んだのに……とも思うが、まあ過ぎたことだ。


『よし、じゃあ、気を取り直して行こう』

『はいです〜』


 この階層は今までとは違う能力が必要とされる。

 複雑な道筋を把握し、構造を予測する知力。

 曲がり角の先で待ち構えている敵に気付く察知力。

 挟み撃ちにも対応できる連携力。


 そして、外とは違う戦い方も必要とされる。

 通路の幅は3メートルほどあり、窮屈とまでは言わない。

 だがそれでも、攻撃に味方を巻き込んだり、味方がジャマして遠距離魔法の射線が確保できなかったり、と戦いにくいのは事実だ。

 慣れてしまえば、それを逆手にして優位に戦えるのだが、今まで連携を意識していなかったパーティーは、戦力を発揮できず苦戦を強いられるだろう。


 そんな事をエムピーに念話で説明しながら進んでいくと、【気配察知】に一体のモンスターがひっかかった。


『おっ、早速のおでましだ』


 前方の右に折れる曲がり角の先、スケルトンがこちらに向かって歩いてくる。

 ここ数日で、【気配察知】の使い方にもだいぶ慣れてきた。

 最初はモンスターと冒険者の区別も付けられなかったが、今ではモンスターの種類も大体わかるようになった。


 ヤツが曲がった瞬間にファイアボールを数発叩き込めば楽勝だが――。


 【気配遮断】したまま、静かに曲がり角の手前まで移動し、腰をかがめて静かに待ち構える。


 スケルトンの弱点は胸部――肋骨の隙間から覗く赤い核だ。

 狙うのはそれなりの技量が必要になる。


 剣を持ったスケルトンは俺に気づかないまま、無防備に角を曲がる。

 ヤツが気付くより先に跳びかかり――。


「――速突クイック・スタブ


 【短剣術】の技で核を一突き。


 スケルトンは魔石と一本の骨を残して消滅した。

 骨はスケルトンがたまに落とすドロップ品。

 魔道具作りにおける基本素材のひとつだ。


『骨さん、さよならです〜』

『ああ、まだ楽勝だな』


 【短剣術】スキルを習得したのはつい一昨日だが、これまで五年間も短剣を使って戦っていた。

 そのおかげで、スキルレベル以上に戦うことが出来る。

 この調子なら、第3階層も余裕を持って攻略できそうだ。


 などと考えていると、エムピーは落ちた骨をじっと見つめてる。


『気になる?』

『はいです〜』

『齧ってみる?』

『絶対に嫌です〜。エムピーは犬じゃないです〜』


 食いしん坊のエムピーならもしかして……と思ったが、心から嫌そうに顔をしかめている。


『ごめんごめん。じゃあ、行こうか』

『はいです〜!』


 その後もスケルトンやその変種どもを倒しながら、一時間ほど進んでいると、【気配察知】に不穏なものが引っかかった――。




   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】

 次回――『囮』


 ヒロイン登場!

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