第18話 メルバ大迷宮
宿屋を出て、まずは冒険者ギルドへ向かう。
拠点変更手続きのためだ。
冒険者は拠点を移したとき、原則として手続きしないといけない規則だ。
それに、この街を拠点として登録していないと、大迷宮に入れない。
ギルドの場所は覚えている。
俺は懐かしい街並みを眺めながら、ギルドを目指した――。
ギルド内はこれからダンジョンに潜る冒険者たちの喧騒に包まれていた。
受付の行列に並び、やがて俺の番が回ってくる。
「いらっしゃいませ。今日のご用はなんでしょうか?」
「拠点変更をお願いします」
受付嬢に冒険者タグを渡す。
「レントさんですね。では、拠点をここメルバに変更致します。ようこそ、迷宮都市メルバへ」
新人冒険者だったら勘違いしそうになる完璧な笑顔を浮かべる受付嬢から、冒険者タグを受け取った。
「情報公開はどういたしましょうか?」
「公開でお願いします」
自分の登録拠点は、他者に公開するかどうか、選ぶことが可能だ。
通常は公開するものなのだが、特別な事情があって隠したい人もいる。
そこで、特定の相手に隠すことも出来るようになっているのだ。
『断空の剣』に俺の居場所を隠すことも出来る。
だが、昨晩エムピーと相談して、公開することに決めたのだ。
前の街を出るときに拠点変更手続きをしなかったのは、時間を稼ぐため。
もう十分に時間を稼げたので、隠す必要はない。
むしろ、「ヤツらが追いかけてきた方が面白くなるです〜」とのこと。
どう面白いのか訊いても、「詳しいことはお楽しみです〜」とはぐらされたが、俺はエムピーの言葉を信じた。
拠点変更手続きを済ませた俺は、店を回って必需品を買い集め、ダンジョンに向かう。
――メルバ大迷宮。
ここら一帯で一番大きく、一番有名なダンジョン。
当然、潜る冒険者数もナンバーワンだ。
街のはずれにある大迷宮の入り口はこんもりとした小さな丘で、ぽっかりと穴が空いている。
人が二人並べる程度の狭い穴に入ると、地下に向かう階段がある。
その階段を十段下り、透明な膜を通り抜けると――その先は異界だ。
地下に降りたはずなのに、そこに広がっているのは自然あふれる広大な空間。
――メルバ大迷宮第1階層。
地上と同じように、青い空には太陽が昇り、地には植物が生え栄えている。
風に乗って運ばれてくる爽やかな木々の香りと、わずかに交じるモンスターの臭い。
「うわ〜、これがダンジョンですか〜」
俺の肩に乗っていたエムピーは、我慢しきれないといった様子で飛び立ち、高い場所から周囲を見回している。
日光を反射して虹色に輝く四枚の羽根を羽ばたかせているが、いつもよりブンブンと揺れているのは、興奮しているからだろうか。
俺が初めてダンジョンに潜ったときは、興奮よりも緊張が強かったな……と、五年前を思い出す。
そして、忘れていた感情を思い出した。
最初は楽しさしかなかった。
経験すること全てが新鮮で、胸をワクワク躍らせていた。
だが……ここ最近は苦しいだけだった。
劣等感に
ダンジョンがこんなにも心躍る場所――エムピーの笑顔がそれを思い出させてくれた。
ここは街の地下とは思えない空間だ。
学者が言うには、「ダンジョンとは地上とまったく異なる別の空間」らしいが、冒険者にとってそんなことはどうでもいい。
モンスターがいて、宝箱があり、冒険が待ち受けている。
それだけで十分だ。
そんな簡単なことも忘れていた――。
「よし、じゃあ、行こうか」
「はいです〜!! れっつモンスター狩りです〜!!」
力強い返事が戻って来た。
張り切っているエムピーだが、戦闘能力は皆無。
敵から攻撃されることもないので、戦闘に関してはいないに等しい。
だけど、隣にいてくれる――それだけで十分だ。
さて、今日はこの場所で実力だめし。
戦闘スキルを得て、どれだけ強くなったか確認だ。
俺はワクワクしながら、歩き始めた――。
◇◆◇◆◇◆◇
【後書き】
次回――『メルバ大迷宮第1階層』
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