第17話 再出発の朝

 冒険者としてやっていく意志をエムピーと再確認した後、いよいよ、スキル購入の時間だ。

 通常、スキルはギフトから与えられるもの。

 自分では選べない。


 それなのに、魔力と引き換えにだが、自分で選べるのだから、興奮しない方がおかしい。


「それで、マスターはどのような冒険者になりたいのですか〜? それを教えていただければ、こちらでオススメプランをお示しできますよ〜」

「そんなことまでしてくれるの?」

「はいっ! 魔力運用に関することでしたら、どんな些細な問題でも、マジカル・プランナーである、このエムピーにすべてお任せあれ〜」


 エムピーは自信満々にドンと胸を叩く。

 頼もしい味方だ。

 無性に愛しくなり、俺はエムピーの頭を撫でる。


「えへへ〜、マスターの手、暖かいです〜」


 照れたようにはにかむエムピーに俺も心が癒やされる。


「じゃあ、こんな感じで頼むよ――」


 もし叶うなら、どんな冒険者になりたいか。

 この五年間。幾度となく夢想してきた。

 だから、自分にとっての理想像は明確に描ける。

 その理想像をエムピーに伝えていく。


「わっかりました〜。では――」


 取るべきスキルをエムピーに決めてもらう。

 しばし考えこんだ後、エムピーは俺のステータスを操作し始めた。


「出来ました〜。まだ全部は購入できてませんので、残りは魔力が貯まり次第、自動購入されるようにしておきました〜」

「本当にスキルが増えている……」


 ステータスに並ぶ、購入したばかりのスキル。

 信じられない思いだ。


「明日が楽しみですね〜」

「ああ、本当にありがとう」


 じんわりと視界が歪む。


「だっ、大丈夫ですか、マスタ〜!!」

「ああ、大丈夫。嬉しすぎるだけだからっ」


 溢れ落ちるものを手で拭い、心配しているエムピーに笑顔を向ける。


「じゃあ、今日は早く寝よう」

「はいですっ!」


 スキルを試すのは明日だ。

 今日出来ることはもうない。

 後は、魔力が貯まるのを待つだけ。

 魔力が貯まる度に俺は強くなれる。


 輝かしい明日を夢見ながら、俺は早々と床についた――。


   ◇◆◇◆◇◆◇


 ――翌朝。


「おはよ〜ございます〜」

「あっ、ああ、おはよう」


 目を覚ますと枕元にちょこんとエムピーが座り、こちらを覗き込んでいた。

 朝起きた時、すぐ隣に誰かがいる――未だに慣れないが、エムピーの無垢な笑顔を見ているうちに、次第と心が幸せで満ちていき、それとともに心が落ち着いていった。


 昨晩は興奮で寝つけないかとも思っていたが、疲れていたのかすぐに眠りに落ち、ぐっすりと眠れた。


 おかげで、体調もばっちり。

 絶好の冒険日和だ。


 ステータスを確認してみると、スキルが2つ増えていた。


 エムピーが言った通り、俺は強くなった。

 そして、これからもどこまでも強くなる。


 今日は俺の再スタートの日――。


 ドキドキで破裂するんじゃないかと心配になるほど胸は高鳴り、踏み出される足は羽毛のように軽い。

 飽きるほど繰り返してきた朝の身支度も、まるで神聖な儀式のようだ。

 質素な聖餐を済ませた俺は、確信に満ちた足取りで宿屋を出発した――。





   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】

 どんなスキルを入手したのか?

 お楽しみに!


 次回――『メルバ大迷宮』


 ダンジョン攻略前にちょっと寄り道です。

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