第12話 断空の剣3:異変(下)

「でも、この問題を解決しないと、貯金は減っていくばっかりよ」

「…………ッ」


 ミサの言葉にガイは黙り込む。

 認めざるを得なかったからだ。

 あまり賢くないガイでも、ここ数日でそれを悟っていた。


「あのゴミクズのせいよっ!! まったく、抜けてまで姑息な妨害をするなんて、信じらんない卑怯者ねっ!!!」


 鬱憤が溜まっていたミサが、ついに爆発した。


「他の手段もないですー。ミサの言う通りに、あのクソ虫を見つけ出すですー」


 エルが同調する。


「クソっ、レントの奴めッ! 見つけたらぶっ殺してやる!!」


 二人に触発され、ガイも考えを変える。

 この際、レントのせいなのかどうかはどうでも良かった。

 ただ、この怒りをレントにぶつけられればそれでいい。

 そう思ったからだ。


「まずは、冒険者ギルドに尋ねてみましょうー」

「ああ、そうだな。行くぞッ」


 三人は怒りに突き動かされ、ギルドへ向かった――。


「レントの居場所を教えろッ!」

「レントさんですか? 少々お待ちください」


 ギルドの受付カウンター。

 ガイは乱暴な物言いで受付嬢を問いただす。

 あらくれ者揃いの冒険者を毎日相手にしている受付嬢。

 表情を変えず、淡々と自分の仕事をこなすだけ。

 情報端末――冒険者たちの情報が記録されている魔道具だ――を手際よく操作していく。


 冒険者ギルドには拠点登録という制度がある。

 色々な街を転々とする冒険者が今どこで活動しているかを明らかにするためだ。

 第三者に秘匿することも可能だが、普通は公開しており、ギルドに照会すれば、それを知ることができる。


 しばらくして、ギルド嬢は端末から得られた情報を告げる。


「レントさんの拠点は変更されていませんね」


 通常、街を離れるときには、拠点変更手続きを行うものだ。

 移転先で手続きをしても問題はないのだが、道中なにが起こるか分からない。

 なので前もって行き先をギルドに告げておくのだ。


 だが、レントはあえて手続きをしなかった。

 エムピーの入れ知恵だ。

 「この街にまだいるかも」と思わせ、時間を稼ぐのが目的だった。

 そして、それは上手くいった。


「ちっ、行くぞッ!」


 すっかり策に嵌ったガイは、二人をつれてレントの捜索を始める。


 ギルドに併設された酒場にいる冒険者たちに声をかけ。

 レントが立ち寄りそうな場所を虱潰しにして。

 宿屋を片っ端から調べて。


 ――だが、すべて空振りだった。


 日が暮れても、レントの居場所を掴めない。

 それも当然、レントはすでにこの街を離れているのだから。


 ギルド酒場にて、酔っ払ったガイは荒れていた。


「クソっ、レントの野郎ッ!!」

「抜けた後も迷惑をかけるなんて、本当に最低っ!!」

「早く死ねばいいですー」


 ガイの怒りに二人も同調する。

 三人は周りの目も気にせず、レントへの怒りをぶちまける。

 そんな彼らに対し、周囲の冒険者たちは白い目を向けていた。


 レントの追放は、すでに冒険者たちの間で知れ渡っていた。

 ガイたちが自慢気に、まるで手柄ででもあるかのように、あちこちで吹聴していたから。


 そして、レントがもうこの街にいないことも。

 冒険者の中には、馬車で旅立つレントの姿を見かけた者もいたからだ。

 ただ、それをガイたちに教える者は誰もいない。


 自分たちの立場に天狗になり、周りを見下す三人。

 情報収集のため、ギルド職員や他の冒険者と良好な関係を築き上げてきたレント。

 どちらの味方をするかは明らかだった。


 ガイたちがレントの移転を知るのはしばらく先のこと。

 レントが新しい街で拠点変更手続きをした後だった――。




   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】

 日頃の行いですね。


 次回――『旅立ち』


 レント視点に戻ります。

 落ちぶれる元パーティーとは対照的に、レントは新しい気持ちで再出発です。

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