第2章 メルバの街

第11話 断空の剣2:異変《上》

 ――レントを追放してから数日後。


 この数日、『断空の剣』は散々な目に遭っていた。

 レントの【強制徴収】のせいで、冒険者の生命線である魔力が底をつきっぱなしだったからだ。

 Aランクに近いBランクとはいえ、それはスキルを使いこなしてこそ。


 魔力不足でスキルがロクに使えない状態では、Cランク程度の実力――いや、それ以下かもしれない――しか発揮できなかった。


「クソっ。また、赤字だッ!!」


 魔力が自然回復しないので、彼らは魔力回復ポーションで魔力を回復させるしかなかった。

 最初の一、二本は飲んでも魔力が回復しなかった。

 回復するなり、返済に当てられるからだ。

 魔力が回復するのは一日の返済量である11,492MPを返し終えてから。


 なので、依頼をクリアするためには、高額な魔力回復ポーションを大量に消費するしかない。

 そして、その金額は依頼報酬を上回るほど。


 依頼をこなせばこなすほど、彼らの資金は目減りしていった。


「ごめんなさい。私のせいで……」


 ミサが申し訳なさそうに頭を下げる。

 剣士であるガイは、スキルを使わなくても多少は戦える。

 だが、魔術士であるミサは、魔力がなければ何も出来ないに等しい。


「私もですー」


 それは、回復士であるエルにとっても同じこと。


「一体どうしちまったってんだッ?」


 魔力が枯渇し、ポーションをがぶ飲みしないと回復しない。

 それも、三人同時にだ。

 魔力回復ポーションの大量摂取は体調不良を引き起こす。

 一日の限界は5本と言われているが、連日、それに近い量を飲み続け、吐き気や頭痛、めまいと戦いながら、依頼をこなして来たのだ。


 病気を疑い医者にもかかったが、「そんな病気はない」と一蹴された。

 呪いの可能性も考えたが、呪術士も同じように否定するだけだった。


「ねえ、やっぱりレントのせいじゃない?」


 ミサの言葉。

 MPが回復しない事態に陥ってから、何度か発せられた質問だった。

 だが、その度にガイは否定した。


 そして、今回も――。


「そんなはずはねえだろッ! 今までだって借りっぱなしで、『返せ』って言われたことなんかなかったぞッ!!」


 ――ガイたちは知っていた。


 これまで自分たちがレントから魔力を借り続けていたことも。

 そして、どれだけ借りているのかも。

 なぜなら、冒険者タグにその事実が歴然と刻まれているからだ。

 ガイはステータスを確認する。


□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□


名前:ガイ

年齢:19

性別:男


ギフト:上級剣士(B)

MP :0/1,171

冒険者ランク:B

パーティー:断空の剣


【パーティー借入魔力量】

 レント:2,678,078MP


□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□


「ほらっ、実際にこの数値は変わってないッ! もし、ヤツに魔力を返したんだったら、減っているはずだッ! 前に返した時だってそうだっただろッ?」


 ガイの言う通り、借入魔力量はレントを追放した日からまったく変わっていない。

 だから、ガイはミサの考えを否定してきた。

 ガイの言葉にはそれなりの説得力があったので、ガイに否定されると他の二人もそれ以上は何も言うことが出来なかったのだ。


 ――ガイたちは知らなかった。


 自分たちの魔力がレントへの返済にあてられている事を。

 そして、それは元本の返済ではなく、利息への支払いにあてられているだけという事を。

 徴収される以上に自発的に返済しないと、いつまでも利息を払い続けるだけである事を。


 ――ゆえに、ガイたちは選択を誤った。


 もし、この段階で正しい選択をしていれば、底のないアリ地獄から抜け出すことが出来たのだ。

 しかし、『リボ払い』を知らない彼らが、その道を選ぶことはなかった――。




   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】

 リボ払いの怖いところ。

 借入額が大きくなりすぎると……。


 毎月定額返済しているから、返している気になっていても、それは利息を返しているだけで、借入額は減っていない。


 つまり、いつまでたっても借金がなくならないんですね。

 ガイたちは今まさに、この状況です。

 わりと崖っぷちな彼らはどう動くんでしょう?

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