第9話 強制徴収実行

〈『断空の剣』に対し、【強制徴収】最適プランを発動します!〉


〈初回徴収531MPを入手! 魔蔵庫に貯蓄します!〉


〈不足分10,961MPは対象のMPが回復次第、逐次徴収いたします!〉


〈スキル習得条件を満たしました!>


〈スキル【魔力運用】を習得しました!〉


 ステータスの告げる声が狭い部屋に響き渡った――。


 脳内に一気に流れ込んできた情報量の多さに俺は戸惑う。

 そんな俺に向かって、エムピーが飛びつき――。


「マスター、初徴収おめでとうございます〜」


 抱きつくというよりは、そのサイズゆえ、俺の顔にしがみつくという表現の方が適切だった。

 頬に触れる細い銀髪がくすぐったい。


 ともあれ、自分のことのように喜んでくれるエムピーを見ていると、ささくれだっていた心が自然と癒えていく。


「これでヤツらからMPを取り返せたのか?」

「はいです〜。ステータスでご確認あれ〜」


□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□


MP   :513/1,210

【魔蔵庫】:531/∞

冒険者ランク:D

パーティー:――


□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□


「おっ、本当に増えてる!」


 それと同時にひとつの疑問が浮かぶ。


「でも、さっきは一日1万ちょっと徴収するっていってなかった?」

「そうです〜。でも、彼らの現在の魔力ではこれが限界です〜。ないものは徴収できないのです〜。残りは彼らの魔力が回復次第に徴収するです〜」

「ああ、そういうことか」


 今日の冒険を終えてからまだ2時間。

 ヤツらの魔力もまだ2割ほどしか回復してないもんな。


「今頃、ヤツらの魔力は空っぽです〜」

「バレないかな?」

「ヤツらは間抜け揃いなので大丈夫です〜」

「よく分かるね。エムピーはアイツらに会ったことがないよね?」

「《無限の魔蔵庫》支援妖精である私は、中央情報機構ユグドラシルに債務者の信用情報を照会できるんです〜。信用情報を照会した結果、ヤツらが現時点で気づいていないと判断いたしました〜」

「へえ、そうなんだ」


 エムピーが言っていることは、正直、よく分からんかった。

 だが、相手はギフト妖精。

 俺が知らない不思議な力を使えるんだろう。

 そう思うことで、自分を納得させる。


「マスターにご提案があります〜」

「なになに?」

「早めにこの街を離れ、遠くの街に移動すべきです」

「ああ、それは別に構わないけど、どうして?」


 俺としても、元パーティーのヤツらとは顔を合わせたくない。

 明日にでも、この街を発とうと思っていたところだ。


「いくらボンクラといえど、数日中には自分たちの身に何が起こったか気付くでしょう」

「そうだね」


 さすがに、毎日MPがゼロになってたら、どんなバカでも気がつくだろう。


「そうしたらヤツらは、マスターを探すはずです」

「ああ、そっか……」


 ヤツらのことだ、理不尽な事を言って、「取り立てを止めろ」とか言い出すだろうな……。

 だが、俺の取り立ては正当な回収行為だ。

 なんと言われても止めるつもりはない。

 それこそ、ヤツらがどんな地獄を見ようとだッ!


 ただ、ムダにヤツらに絡まれるのも面倒だ。

 エムピーの言葉に従おう。


「今のマスターではヤツらに襲われたら勝てません」

「ああ、さっきも力でねじ伏せられたばかりだ……」


 土下座強要と、屈辱的な謝罪の言葉。

 あの恥辱を俺は一生忘れないだろう。


「しかし、三週間後のマスターであれば、逆に返り討ちです〜。今は時間を稼ぐべきです〜」

「そうなのか?」


 いきなりそんなに強くなれるのか?

 俺は半信半疑だった。


「はいっ! そのための新スキル【魔力運用】があるのですっ!」


 エムピーの言葉に、俺はさっきステータスが告げた声を思い出した。


〈スキル【魔力運用】を習得しました!〉


 さて、どんなスキルなんだろう?




   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】

 中央情報機構ユグドラシルは万能です。

 知ろうと思えば、今日のパンツの色まで分かります。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る