第8話 断空の剣1:忍び寄る破滅

 ――一方、レントを追放した『断空の剣』の三人。


 彼らは祝い酒とばかり、普段は頼まない高級なワインを開け、大盛り上がりをしていた。


「それにしても、見たか? アイツの無様なツラ」

「惨めです〜。ああはなりたくないです〜」

「ホント、せいせいしたわ」


 あははは、と楽しげに笑い合う三人。

 そこで、ガイがミサに意地悪な問いかけを発する。


「でも、本当にいいのか? 昔の思い人だろ?」

「もう、止めてよ。アイツのスキルがレアだったから、唾つけといただけよ。それなのに、まったくの期待はずれだったわ」


 ミサは汚物を見るように顔をしかめる。


「ひでえな、おい」

「ひどいですー」


 三人とも悪びれた様子もない。

 罪悪感など、少しも感じていなかった。


 たしかにミサはレントと将来を誓い合っていた。

 だが、それは打算以外の何物でもなかった。


 元々同じ農村で育った、レント、ガイ、ミサの三人。

 冒険者になった頃、ミサはどちらかといえば、ガイの方がタイプであった。

 レントの平凡な顔立ちも、消極的な性格も、彼女の好みではなかった。


 そんな彼女がレントに言い寄った理由――それは成人の儀でレントに与えられた、Sランクのユニークギフト。

 その将来性に、飛びついただけだ。

 都合の良い相手の一人として繋ぎとめておいただけだった。


 当然、恋愛感情など皆無。

 抱き合うことはおろか、キスすら交わしたこともない。

 あの手、この手で純情なレントを転がして、一線を越えさせないようにしながらも、自分に惚れさせてキープしていただけだった。


 純情だったレントは、すっかり騙された。

 ミサがレントを愛していると思い込み――用済みになって捨てられた。


「アイツに恋愛感情なんかこれっぽっちもなかったわ。私が愛してるのは、ガイ、あなただけよ」

「嬉しいこと言うじゃねえか」


 ガイはそっとミサの肩を抱き寄せる。

 ミサのガイに対する想い――これもまたガイがAランク冒険者になりそうだという打算に他ならない。

 だが、「自分こそが英雄」と思い込み、そんな自分に女が惚れるのは当然と考えているガイが、それに気付くことはなかった。


「私も愛してるのはガイだけですー」

「そうかそうか」


 もてはやされ、浮かれきったガイ。

 反対側から媚を売るエルの肩も合わせて抱く。

 疎ましい幼馴染を追い出し、両手に花の状態のガイは有頂天になっていた――。


 そして、祝宴が盛り上がっている最中――三人は同時に違和感を覚えた。

 急に身体が重くなった気がしたのだ。


「ん?」

「どうしたの、ガイ?」

「ん、ああ、ちょっと疲れが来たようだ」

「あらー、私もですー」

「そうね、私もよ」


 その理由はまさに今、レントが【強制徴収】を発動したからなのだが、そんなことは思いも至らない三人は疲れのせいだと判断した。


 注意深い冒険者であれば、今の違和感が急激な魔力減少時に起こる不調であると気づいただろう。

 そして、念の為に冒険者タグでステータスを確認したはずだ。

 しかし、彼らはそれもしなかった。

 慎重さが欠けているのか、酒に酔っているせいなのか、それとも、レントを追放できた喜びに浮かれているのか――。


「そろそろ、切り上げるか」

「そうね」

「はいですー」


 邪魔者がいなくなったので、今夜は三人で楽しい夜を過ごすつもりでいた。

 だが、突然の不調に、その気持ちも失せてしまった。


 早々と自分たちの部屋に引き上げることにした三人。

 彼らが自分たちに襲いかかった異変に気がつくのは、翌日になってからだった――。

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