第7話 リボ払い

「では、ご説明いたしましょう――」


 エムピーは「こほん」とひとつ咳払い。


「貸付対象から【強制徴収】するには様々な方法があります〜。一番単純なのは『一括払い』。一度に全部を徴収する方法です〜」


 うん。それは俺も分かった。


「ですが、これはごく少量の貸付の場合です〜。大抵の場合は、貸付が膨らみ、一度に返しきれない状態になってます〜」


 『断空の剣』三人のMP総量は3,600弱。

 魔力は1時間で1割しか回復しないし、ヤツらが手に入れた『魔力回復の腕輪』もひとつで一日1,000くらいしか回復できない。

 とてもじゃないが、百万もの魔力を一度で返すことは不可能だ。


「そこで、何度かに分けて回収するのです〜。その方法は大きく分けて二つあります〜。『分割払い』と『リボ払い』です〜」


 ふむふむ。

 大事そうなので、しっかり聞いておこう。


「まず『分割払い』ですが、これは支払回数を決めて支払うという仕組みです〜。そして、もうひとつ。『リボ払い』というのは、毎回の支払いを一定の魔力量に固定して支払うものです」


 うん。

 しっかり聞いても、よく分からない。


「どう違うの?」

「ふふっ。マスターはご存じないようですね。説明すると長くなるので詳細はまた時間があるときにします〜。ただ、一言――」


 真剣な顔つきになるエムピーにつられ、俺も話に集中する。


「――『リボ払い』は地獄の入り口。いくら抜け出そうともがいても、決して抜け出せないアリ地獄なのです〜」

「おっ、おう……」


 なにか得体のしれない恐怖を感じる。

 そんなに恐ろしいものなのか、リボ払い……。


「まあ、今のマスターには判断は難しいと思います〜」

「ああ、そうだね」


 違いが分からないのに、どっちか選べと言われても困る。


「ですので、ここは『最適プラン』。私にお任せ下さい〜。マスターにとって、一番望ましい徴収プランを提示してみせます〜」

「ああ、任せた!」


 ここは素人の俺より専門家のエムピーにやらせた方が良いに決まっている。

 仲間に裏切られたばかりの俺だが、不思議なことにエムピーを疑う気持ちはまったく起こらなかった。

 彼女だけは絶対に俺を裏切らない――確信があった。


「うわ〜、それにしても酷いヤツらですね〜。ここまで悪質な債務者は久しぶりです〜。これは手加減無しの『最適プラン』しかないですね〜」


 なんか、よくわからないけど、エムピーは嬉しそうな顔をしている。


「では、ここはもちろん、遠慮なく『リボ払い』で〜。本来、『リボ払い』は相手の同意がないとできないのですが、ヤツらは5年間返済もしなかった上、返済の意志も皆無です〜。こんな悪質債務者の場合は、特例で『リボ払い』が適用可能です〜」

「そっ、そうなんだ……」

「利率はトイチだとすぐにパンクしちゃうので、8%くらいで。後、毎回の支払量はそれに合わせて――」


 ぶつぶつと数字をつぶやくエムピー。

 きっと俺には理解できないような計算をしているんだろう。


「出来ました〜。地獄の返済プランの完成です〜」


 エムピーは満面の笑顔で、物騒なことを言ってのける。


「現在『断空の剣』の借入総量は2,678,078MP。そのうち徴収可能なのは貸付から1年が経過している1,435,837MPです〜」

「うんうん」

「利息は十日ごとに徴収可能量の約8%、つまり、114,924MP」

「うっ、うん……」

「それに合わせて、一日当たり11,492MPを徴収しましょう〜。この量はヤツらの支払可能量の99パーセントです〜。これでヤツらの魔力はからけつで、なにもできなくなるです〜」

「おっ、おう……。よく分かんないけど、毎日11,492MP返ってくるってことか?」

「はい、そうです〜」

「それに、ヤツらは魔力のほとんど全部を俺に徴収されて、魔力は使えないと」

「はいです〜。マスターのことをさんざん虚仮こけにしたロクデナシども。骨の髄までしゃぶり尽くして、地獄を見てもらいましょう〜」

「おっ、おお……」


 エムピーはグーにした右手を高らかに上げる。

 俺よりノリノリだ。

 つられて俺も右手を上げる。


 それを見届けたエムピーはニッコリと微笑むと――。


「では、【強制徴収】しちゃいましょ〜」


 エムピーに指示され、ステータスの【強制徴収】を――グッと強く押す。


〈『断空の剣』に対し、【強制徴収】最適プランを発動します!〉


〈初回徴収531MPを入手! 魔蔵庫に貯蓄します!〉


〈不足分10,961MPは対象のMPが回復次第、逐次徴収いたします!〉


〈スキル習得条件を満たしました!>


〈スキル【魔力運用】を習得しました!〉


 ステータスの告げる声が狭い部屋に響き渡った――。





   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】

 取り立て開始!

 元パーティー視点。レント追放直後の話です。


   ◇◆◇◆◇◆◇


【補足説明】


 断空の剣の状況は


・徴収可能量:1,435,837MP

・利息8%(十日ごと):114,924MP

・一日当たり返済量:11,492MP


 となります。


 彼らの最大MPは三人合わせて約3,600MP。

 自然回復が1時間に1割なので、一日8,500MP使えます。

 それに、魔道具で一日3,000MPくらい補給できます。


 なので、彼らが自由に出来る魔力は一日11,500MPちょっと。

 そのうち、11,492MPを強制徴収するので、彼らが自由に出来るのは一日10MPくらい。

 ロクにスキルも使えない状態です。


 分かる方はすぐに分かると思いますが、このペースで返済を続けていくと……。


 また、パーティーが解散したり、誰かが死亡したりした場合にどうなるかは、そのうち説明されますが、簡単に言えば、パーティー抜けたり、死んだりした程度では強制徴収からは逃れられません。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る