第3話 決別

 仲間だと思っていたのは俺だけだったようだ――。


 ぞんざいな扱いを受けるのは俺が至らないから。

 彼らに並び立てるようになれば、昔みたいに俺のこと認めてくれる。

 俺たちは幼馴染なんだから。


 ――そう信じて、今日まで頑張ってきた。


 いつか追い出される日が来るのではないかとビクビクしながら、それでも必死になってやって来た。


 だけど……。


 ゴミを見るような、心底人を見下した目線。

 人を人とも思わぬ罵詈雑言。

 それが、一緒に戦ってきた仲間に対する態度かよッ!


「分かった。パーティーを抜けるよ。今まで世話になったな」


 どうやっても、コイツらとの関係は修復不能。

 こっちからも願い下げだ。

 無駄な反論はせず、追放を受け入れることにした。


 だが――。


「おいおい、ずいぶんと偉そうだな」

「お荷物だったくせにー、なにカッコつけてるんですかー??」

「ちゃんとお礼も言えないなんて、無能な上にバカなの? 生きてる意味ないわね」

「…………」

「ほら、ちゃんと言い直せ。『今までパーティーに置いていただいて、ありがとうございます。役立たずの無能で、ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした』ってなッ!!!」

「もちろん、土下座ですー」

「ちゃんと床に顔をくっつけて言うのよ。アンタにキスしてくれる相手なんて汚れた床くらいなんだから。プー、クスクス」


 クビになる覚悟は出来ていた。

 三人に比べて、俺の力が劣っていることも自覚していた。

 ミサが俺からガイに乗り換えた時点で、その日は遠くないと分かっていた。


 だが、このやり方はあまりじゃないか。

 追放するにしたって、五年間パーティーに貢献してきた相手に対する、それなりの扱いってものがあるだろッ。


 ヤツらが強くなれたのは、間違いなく俺の《魔蔵庫》のおかげなんだからッ!!!

 散々、俺の《魔蔵庫》に寄生してたくせに、用済みになったらポイ捨てかッ!!!


「…………」

「オイ、黙りこんでるんじゃねえよッ!」

「言葉わからないんですかー??」

「なに、プルプルしてんのよ。キモッ!」

「「「あははははははっ」」」


 コイツらは最初から、俺の言葉なんか聞く気がない。

 なにか言い返してもムダだ。

 かといって、ヤツらが要求する謝罪なんか出来るかッ!

 怒りで血が沸騰しそうだ。


 そんな俺を指差して、三人はあざ笑う。

 道化師だ。

 無様で惨めな道化師だ。


 まな板に載せられた魚だって、もう少し敬意を払われるだろう。

 それ以下の扱いだ――。


 無言の俺に業を煮やしたガイが立ち上がり、俺に歩み寄る。


 ――ドスッ。


 腹に重い衝撃。

 ガイの拳がめり込んでいた。


「うっ……」

が高えんだよッ!」


 ガイは俺の頭を掴み、ガンガンと何度も床に叩きつけ、そのまま押さえつける。

 ガイの筋力にあらがえない俺は、されるがままだった。


「あはっ、お似合いですー」

「あら、ラブラブじゃない。床ちゃんもアンタのことを気に入ったみたいよ。もう、つき合っちゃえばいいじゃない」

「「「あははははははっ」」」

「…………」

「最後のチャンスだ。感謝と謝罪の言葉、さっき俺が言ったように言ってみろ。少しでも間違えたら、ボコボコだぞ」


 くっ……。

 ここで逆らっても、ボコボコにされた末に、同じことを言わされるだけだ……。


「……今までパーティーに置いていただいて……ありがとうございます…………役立たずの無能で……ご迷惑をおかけして……申し訳ありませんでした」


 屈辱に耐えながらも俺が言い切ると、ガイは満足したようで嘲笑を浮かべる。


「とっとと消えろッ!」

「バイバイですー」

「二度と視界に入らないでね」


 あまりの悔しさに涙がこぼれそうになる。

 だが、涙を見せれば、コイツらを余計に喜ばせるだけだ。

 俺は必死で涙をこらえ、痛みの中、立ち上がる。


 コイツらの顔なんか、一秒でも見ていたくはない。

 大きな笑い声を背中に浴びながら、俺は宿屋を飛び出した――。




   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】

 ヘイト回はここまで。

 レントのギフトが覚醒します!

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