第2話 《魔蔵庫》

 俺のギフト《魔蔵庫》は余剰魔力を蓄えられる。

 魔力は起きている時も寝ている時も一定割合だけ自然回復する。

 寝ている間や休みの日。

 満タンになった魔力はそれ以上回復しない。

 普通だったら無駄になる魔力を、俺は《魔蔵庫》にストックできるのだ。


 容量は俺の最大魔力量と同じ。

 つまり、最大で2倍の魔力を持つことが可能だ。


 そして、使えるスキルはただひとつ――【魔力貸与】。

 俺の魔力を他人に与えるスキルだ。


 「貸与」とあるくらいだから、貸した魔力は返してもらえるものだと思ったが、そうではなかった。

 貸し与えるばかりで、俺にはなんのメリットもないスキルだった。


 俺もモンスターをガンガン倒せるギフトが欲しかった。

 だが、ギフトは選べない。

 神様に定められた運命として受け入れるしかないのだ。


 同い年で《回復士》のエルを加えた俺たちは、四人で『断空の剣』として冒険者活動を始め――快進撃を続けた。

 期待の大物ルーキーという扱いから始まり、先輩冒険者たちをごぼう抜きにし、今では「Aランクに最も近いBランクパーティー」と呼ばれるまでになった。

 Aランクといえば、実質的な冒険者の最高峰。

 俺たちはたった五年で、そこまで登りつめたのだ。


 ――その理由こそ、俺のギフト《魔蔵庫》だ。


 どのギフトにも対応するスキルがある。

 たとえば、ガイの《剣士》は【剣術】、ミサの《魔術士》は【火魔法】や【風魔法】、エルの《回復士》は【回復魔法】や【付与魔法】。


 スキルがあれば、魔力を消費して剣技を発動したり、魔法を使えたりする。

 それらは強力な反面、多くの魔力を消費する。

 魔力が満タンでも数回しか使えず、大事な局面で「ここぞ」と使用するものだ。


 しかし、俺の【魔力貸与】はその常識をひっくり返した。

 最初から俺の魔力量は並外れていた上、余剰魔力は《魔蔵庫》にストックできる。

 俺が大量の魔力を貸し与えることで、ガイたちは惜しみなくスキルを活用し、格上モンスターでも難なく倒すことができた。


 『断空の剣』はありえない速度で成長した。

 とりわけ、俺以外の三人は。


 モンスターを倒して得られる経験値は戦闘への貢献度に比例する。

 貢献度はモンスターにダメージを与えると高くなる。

 なので、回復職や支援職は貢献度が低くなりがちだが、それらのギフトは少ない経験値で成長できるので、さほど問題にならない。


 問題になるのは――ユニークギフト持ちの俺だけだ。

 戦闘中は仲間に魔力を供給するだけで貢献度も低い上に、成長も遅く、魔力量の伸びも小さかった。


 華々しくトップ冒険者へと駆け上る三人とは対照的に、俺の成長は遅かった。

 亀の歩みのごとく、遅かった。

 俺と三人の差はどんどんと開いていき、今では「用済み」と言われるまでだ……。


 他の三人に追い抜かれ――段々と取り残されていった。

 唯一の取り柄であった魔力量も今では彼らのスキル数発分。

 魔力はすぐに空っぽになり、後はロクに戦えない役立たずだ。


「コイツも手に入ったし、オマエの存在価値はゼロになったんだよッ! このゴミクズッ!!」


 ガイが銀色の腕輪をこれみよがしに見せつける。

 ガイだけではない。


「役立たずですー」

「あははっ、惨めね」


 両サイドであざ笑う二人も、お揃いの腕輪をはめている。


 『魔力回復の腕輪』だ。

 先日のダンジョン探索で手に入れたレアアイテム。

 その名の通り、装備者の魔力を回復する腕輪だ。

 回復量や使用回数に制限はあるが、それでも俺の代わりになるとヤツらは判断したのだろう。


 ガイの言う通り、俺は「用済み」だ。

 ただ、俺の存在価値はそれだけではないと自認している。

 戦闘で役に立てない分、自分に出来ることを精一杯やってきた。


 出現モンスターや敵の弱点などの情報収集。

 戦利品の売却や消費アイテムの調達。

 移動時の荷物持ち。

 戦闘中には命がけで、敵を撹乱してきた。


 それなのに。

 それなのに……。






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