第4話 覚醒

 拠点を飛び出した俺は、手頃な宿屋に転がり込んだ。

 一人部屋を取り、俺はベッドに寝転がる。


「痛ててて……」


 ガイにやられた怪我はポーションで回復したが、にぶい痛みが消え去るには、もう少し時間がかかりそうだ。


 安宿の汚い天井。

 屈辱的な追放宣告。

 怒り。

 恨み。

 そして――今後の不安。


 どうしようもない思いで、俺は冒険者タグを掴む。

 軽く魔力を流し込むと、冒険者タグは本人にしか見えないステータスを空中に浮かび上がらせる。

 俺はそれをじっと見つめた。


□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□


名前:レント

年齢:19

性別:男


ギフト:魔蔵庫(S)

MP :471/1,210

魔蔵庫:  0/1,210

冒険者ランク:D

パーティー:――


□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□


 パーティー表示は空欄。

 ついさっきまで表示されていたパーティー名『断空の剣』が消えている。

 パーティーメンバーの過半数が同意すれば、メンバーを追放することが可能だ。

 ヤツらは早々と俺をパーティーから抹消したようだ。


 俺とヤツらの差は冒険者ランクに如実に現れている。

 冒険者ランクは冒険者の総合的な強さを表すものだ。

 その理屈は知られていないが、ギフトを成長させたり、モンスターを倒したり、ダンジョンを攻略したりすると、その結果に応じて自動的に上昇していくのだ。


 15歳で成人の儀を受け、冒険者を始めるときは最低のFランク。

 そこからスタートし、E、D、C、B、Aと上がっていく。

 その上に、SやSSなどがあるが、これは歴史に名を残すような雲の上の存在。

 一般的な冒険者にとってはAランクが最高ランクだ。


 ガイたち三人はそのAランクに後少しで手が届きそうなBランク。

 最年少Aランク到達記録を更新しそうな勢いで、周囲からはその先も期待されている。


 それに対し、俺の冒険者ランクはD。

 ようやく一人前と認められるランクで、この年齢としては十分優秀な部類だ。

 だが、三人と比べると、絶望的な差を感じてしまう。


 そして、頼みの綱であるギフト《魔蔵庫》。

 ギフトの性能を現すギフトランク自体はSと文句なしの高さなのだが……。

 他人を利するばかりで、俺にはなんのメリットもない。


 《魔蔵庫》の強みは魔力量の多さだ。

 魔力を他人に貸与することしかできないので、魔力量がそのまま戦力に直結する。


 俺の魔力量は同ランク帯の他の冒険者に比べると圧倒的だ。

 そのおかげで、最初のうちはパーティー内で大活躍。

 『断空の剣』が急成長できたのは、間違いなく俺の《魔蔵庫》のおかげだ。

 だが、俺の成長は遅く、徐々にヤツらと引き離されていった。


 今の最大MPは1,210とAランク冒険者に匹敵するほど。

 Dランク冒険者の平均が50MPであることを考えれば破格の値だ。

 だが、Aランクに近いヤツら三人も同じくらいある。

 俺の全魔力を与えても、彼らの最大スキル数発分しかない。

 今の俺では、すぐにガス欠になってしまうのだ。


 だから、追放されるのは仕方がない。

 だけど――ヤツらの態度だけは絶対に許せなかった。

 一言でも「今までありがとう」とねぎらいの言葉があれば、俺は円満にパーティーを脱退しただろう。


 だが、一言あるどころか、真逆の態度。

 まるでゴミを捨てるかのようだった。


 許せない。

 許せない。

 許せない。


 ヤツらが今の位置に立てるのは、俺が魔力を貸与し続けてきたからじゃないかッ!

 貰うだけ貰って、後は、ポイッ!


 ――許せるかッ!!!


 俺はかつてない怒りとともに、冒険者タグを強く握りしめる。


「俺の魔力を返しやがれッ!!!」


 その瞬間、俺の頭の中に聞き慣れない声が鳴り響いた――。


〈ギフト進化条件を満たしました!〉


〈《魔蔵庫》が進化して《無限の魔蔵庫》になりました!〉




   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


 冒険者ランクは冒険者としての総合的な強さ。

 ギフトランクはギフトの有能性・レアリティーを現すものです。


 ギフトランクが高くても、冒険者として弱ければ冒険者ランクは低いです。

 また、今回のレントみたいに、特定の条件を満たすと、ギフトはよりランクの高いギフトへと進化していきます。

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