第11話 遺伝子操作スキルの代償
「何の音!?」
ユリィは窓が割れる音に驚いて、ベッドから飛び起きた。
「この部屋じゃない?隣の部屋だわ!」
急いで隣の部屋の扉を開けると、沙織ちゃんが床に倒れている!
「沙織ちゃん!お願い目を覚まして!誰が犯人なの!?」
「ん…私は最初の犠牲者じゃないよ。」
私は目を覚まして、ユリィに話し掛ける。
「怪我は無いの?」
「うん…そうか眠っちゃったのか、シゲジィと交代しなきゃ。」
あれ?
「寒い…窓が空いてるの?」
窓を見ていると、無惨に破壊されて破片が辺り一面に散乱している。
「何が起きたの?」
「ガラスの破片を踏まないでね!外に出て確認しましょう!」
私達は玄関の扉まで行き、外に出ようとするが、扉が全く開かない。
「何で開かないの…これはドワーフの結界かしら?」
「ドワーフって、シゲジィが展開したのかな?」
「そうよ…シゲジィが危ない!」
二人で扉を無理矢理、開けようとするけど、ピクリとも動かなかった。
「窓の外を見て!誰かが戦っているわ!」
私は玄関の隣から外を覗き込む。外の世界には暴力の嵐が吹き荒れていた。凶悪な外見のバーバリアンが巨大な棍棒で木々や大地をえぐってる。対する狐面の美少年は素早いステップで大振りの攻撃を交わしながら、バーバリアンをナイフで切り刻んでいる。
刃物は切れ味が悪い。刃は突き刺さる事無く、全身の切り傷から血が滲んで凶戦士が濁血に溺れている。淡い月下の灯火が闇の魂を妖しく照らしていた。
「何よ、あれ」
「怖いよ…ユリィ」
ユリィが私の手を握る。
「少し様子を見ましょう。やり過ごしてからシゲジィを探しに出ましょう。」
私達はひっそりと窓から様子を伺い続けた。
これが遺伝子改変の能力か…非力な老人が強力な戦士に生まれ変わっている。
しかも幾ら切り刻んでも痛みを感じないらしく、動きが鈍ることが無い。奴の活動を停止させるには神経を切断するか、脳を破壊するしかないようだ。
「だが奴が血に塗れているのは気分が良いな」
奴が大振りの棍棒を振るう度に濁血がフィールドに撒かれている。
「小僧が…年季の違いを見せてやるわい」
「何?」
ふと気付くと、俺は爺さんの血潮に包囲される形になっていた。
「まさか…わざと切り刻まれていたのか」
しかも奇妙な事に鮮やかな赤い血液が、次第に黄色く変色して大地に染み込んでいる。
俺は本能で危険を察知して、回避行動に移る!
「カーボンアイアンで串刺しじゃ!」
地面から鈍い光を放つ無数の鋭い針が現れ、俺に目掛けて襲い掛かる!
「避け切れない…」
数本の針が俺の腕や足をかすめ、顔には大きな切り傷を負ってしまった。
「何だ、今の攻撃は?」
あれだけの質量の金属なんて何処から生み出した?
「分かった。血液か」
血液には鉄を含んだ赤血球が大量に含まれている。おそらくその鉄を基に針を精製したのだろう。
「惜しいな、正確には炭素鉄合金じゃ」
純鉄に微量のカーボンを混ぜることで優秀な金属を生成することが出来る。
「しかも悪魔の遺伝子を織り交ぜておるわい」
「何だ…」
顔の切り傷が蠢いている。俺の顔からヒルが湧いて、切り口の血液を吸われているようだ。
「ふん…」
傷口ごとヒルを握り潰して、地面に投げ捨てた。
「ほう、肝が座っておるようじゃの。生き血に蠢くヒルのおぞましさに戦意を失う奴を山ほど見てきたが、キツネのヒンターハルトには通じないようじゃな。」
「嫌がらせにしか、遺伝子操作スキルを活かせないとは…やはりその能力は俺にこそ相応しいな。」
「ワシも誤解していたようじゃ。お主は想像以上に貪欲な男じゃな。」
さあ…どうやって仕留めてやろうか。俺は待ち伏せや、奇襲攻撃を最も得意としている。今みたいに正面から戦うのは苦手なのだ。人はパニックに陥ると知能が幼児並みに低下するという。思いもよらぬ方法で攻撃すると、狩りの成功率は飛躍的に上昇する。
奴の内面は弱い。視界の端に小屋に籠るウサギが見えるな…俺は奴みたいに甘くない。本当の強さを見せてやる。
「ドワーフの翁よ!お前の弱さをさらけ出せ!」
俺はウサギ目掛けて妖狐のナイフを投げ付けた!ナイフは上空で弧を描きながら獲物にジワジワ迫る。
「危ない!!」
バーバリアンは罠に落ちた。戦士が自らの背中を見せたのだ。俺は素早く奴の背後に忍び寄り、闇のナイフを背中に突き刺した。
「ぐっ…」
キルの感触が冷酷な刃を通じて、伝わってくる。
「だが、ナイフはワシの手にあるぞ!」
奴が高らかに宣言して手を掲げると、妖狐のナイフが手の甲に突き刺さっている。良かったな、可愛い女の子を守れて偉いよ。
「お前の負けだ」
闇のエナジーを込めて、ヤツの生命の鎖を断ち切る。
「遺伝子操作スキルは貰ったぞ、スキル転写開始…」
「やらせんぞ…ワシの覚悟を見せてやる。」
バーバリアンが背中を蠢かせて、ナイフごと俺の右手を掴まえた!
「何!?」
振り向き様にバーバリアンの強烈な拳が己の関節を破壊しながら、俺の顔面を捉える。
避ける!間に合わない!拳撃は俺の片眼をえぐり、左の視界が奪われてしまう。
「くそ!距離を取るぞ!」
「キツネのヒンターハルト!ワシと共に滅びよ!」
ドワーフの翁は高らかに跳躍すると木々のスパイクを地面から大量に精製して、自分の身体もろとも敵を貫こうとする!
「道連れにキルを仕掛けるのか!」
手が抜けない!このまま落ちるとスパイクで串刺しだ!
「手が邪魔だ、くそ!」
やるしかないのかよ!自由な左手に妖狐のナイフを持つと固められた右手を切断する。
「ぐっ、跳ぶぞ」
俺は怒りを込めて、バーバリアンの身体を踏み台にして脱出のジャンプをした。不安定な姿勢のまま、受け身も取れず地面に倒れ込むと顔が泥にまみれる。
「目に泥が…光学色彩デバイス起動!」
泥血にまみれて、冷えきった身体が光学色彩に包まれていく。
「逃げないと…何がなんでも」
身体に力が入らない。芋虫みたいにモゾモゾと地面を這うしか事出来ない。
「生き延びてやる…ちくしょう」
血が吹き出す右手は光学色彩で包まれた際に止血されている。だが体力が持つだろうか?
「俺の薬庫まで行けば、大丈夫だ。」
しばらく這いずり回ると一本のオリーブの木が生えていたので、幹にもたれ掛かった。
「データリンク開始…周囲に生命反応無し」
こんなタイミングで襲われたら最悪だな。しかし、弱味を先読みされたのか、黒いフードの人間が隣に立っている。
「誰だ…」
ここはサイバーDIVEの世界だし、人間の幻想など怖くない。恐怖を感じると余計に増幅して投影されるからな。無視しよう。
「失った目と手を取り戻したくないか?」
「ふん…」
「確かに現実の手足は取り戻せないが、ゲームプログラムなら複製可能だ。」
「俺にどうしろと?」
「絶望を受け入れよ」
そういう事か…俺は妖狐のナイフを取り出す。改めて眺めると実に妖艷な刃だ。
俺は首を半分に引き裂いた。首筋から漆黒の霧が吹き出し、空間に離散していく。薄れゆく意識の中、ホムラの炎が俺の身体を焼き尽くす。
これは転生の儀式。俺は現実世界の人間だった。
「何て凄惨な戦いなの…」
狐面の美少年が自らの手を切断して、弾き飛ばされ、バーバリアンは背後と右手にナイフが突き刺さっている。
「何が起きてるの?」
戦いが激しくなると、ユリィが私の視界を遮り、窓の外を見れないようにした。
「見ない方が良い‥」
あんな光景を見せて良いの?分からない…もしかしたら隠した事は間違えなの?
でも優しすぎる沙織ちゃんにあんな光景は見せられないわ。
すると唐突に記憶の断片がフラッシュバックする。
覗いてみたい
狂った世界を
そうか
どちらの気持ちも
掛け替えのない心なんだ
矛盾を抱える事が人間なんだ
ユリィはまた間違えたのね
「ユリィ?」
変だな…ユリィが全く動かないで固まったままだ。
「えい、コチョコチョ」
こんな時に何をしてるんだ私は…
「やっぱり動かないなあ」
死んだふり?なんてね…アハハ
「ドン!」
恐怖に身体がすくむ。玄関から激しい音が聞こえた。
「ガチャガチャ!」
辺りが静寂に包まれる。ユリィ、冗談は止めて早く起きてよ。
「サオリ」
え?私の名前?扉が不気味な叫びをあげながら、開かれている。月の光を背後に浴びて、血塗れの凶戦士が目の前に現れた。ユリィは倒れたまま動かない。
ゆっくりとワタシに近づくと、開け放たれた扉から蛇や蜘蛛の群れが現れ、ワタシを取り囲む。天井から骸骨の死神が現れ、首筋に鎌を当ててきた。
「サオリ」
恐怖の中、差し伸べる手にはナイフが握られてワタシに突き付けられる。
「来ないで!このバケモノ!!」
「あっ」
男は差し伸べた手を引っ込める。しばらく私を見詰めると、静かに後退り、二度と振り返る事無く、その場から立ち去ってしまった。いつの間にか蛇も蜘蛛も消え去り、冷たい鎌の感覚も無くなった。
「助かった」
ほっとして、一息ついた。
「はっ!止めてー!そんなにガトーショコラは食べきれないわー!」
ユリィが寝ぼけている。
「ユリィ!しっかりしてよー!!」
私は思わずユリィの肩を掴んでガクガクと揺らす。
「あぁ…頭がシェイクされるわ」
「沙織はバニラ時々、ストロベリー派だよ」
「そんな天気予報みたいな事言ってるんじゃないわよ…」
さっきまで真っ暗だった部屋がいつの間にかロウソクの灯りで明るくなった。
「ユリィ!怖かったよー!」
「どうしたの?というか外の闘いはどうなったのかしら?」
「あのね、今血塗れの男の人が入ってきたの」
「血塗れ!?それって、外で闘ってた奴じゃないの?」
「そうかも、それで私怖くて、思わずバケモノ!って叫んだら外に出て行ったんだよ。」
「そう、危ない所だったみたいね。じゃあ、もう外に出られるのよね。」
ユリィが玄関を見ると、扉が開け放たれている。
「ドワーフの結界が解除されてるわ、シゲジィを探しに行きましょう。」
「そう!そう!シゲジィだよ!」
シゲジィを探しに行かなきゃ!!私達は急いで外に出て辺りを見回している。
「どうしよう、何処にも居ないよ」
「闇雲に探しても見付かるわけないわね」
「あれ?これって…」
真っ赤な血の後が森の方向へ続いている。
「これは血塗れの男が残した痕跡ね。こっちに行くと、危険かもしれないから避けましょう。」
そう、あの男の人は危ない人なんだ。でも、何か引っ掛かる、何かモヤモヤしている。あの恐ろしい凶戦士の事、どうしても気になる。
「ユリィ…血の跡を追い掛けよう。」
「なんで?危ないかもしれないわよ。」
「お願い、どうしても確かめたい事があるの。」
「そう、分かったわ。」
血の跡は夜の雪原に暗い染みを付けて、哀しみを滲ませている。
童話では、森に迷い込む場面が登場する。彼の地で森は人の世と死者の世界の境界と考えられてきた。一度森に迷い込むと二度と抜け出せないからだ。
まやかしの俗世と死者の世界の狭間でワシは宛もなく漂っていた。
「奴の言う通り…ワシは罪人じゃ」
若い頃、呪われた能力に魅せられて散々暴れ回った。周囲に溶け込めず、ひたすら自分らしさを追い求める日々を過ごす内に、闇の世界に自分の居場所を見つけた。
先の聖戦で、闇の仲間は殆どキルされ、ワシは偶然生き延びた。あの時どうすれば良かった?
答えは無かった。過去に追われ続ける日々にすっかり慣れてしまい、空虚な日々を消費していた。だが天は最期に光を届けてくれた。
「せめて、怖がらせる事無く、居なくなろう。」
野生の獣は決して自分の屍を晒す事はしない。死期を悟ると自然の精霊に導かれて、森の中へ消えていく。ワシは自然が大好きじゃ。今はそれだけで満足していた。
夜の森は不思議な音色を奏でている。風は落ち着き、闇の獣がはしゃぎ出す。そんな中、沙織とユリィは血の跡を辿っていた。
「フクロウの鳴き声を聞いたことある?」
唐突にユリィが口を開いた。
「え?どうだろう、考えた事ないや」
「ミネルヴァがどういう鳴き声してたか覚えてる?」
「うーん…ホーホー?」
「そうね、まさにフクロウの鳴き声よ」
「待って、そういえば小学生の頃下校してると、街中なのにホーホーって鳴き声がしてたよ。もしかしてあれがフクロウの鳴き声だったのかな?」
「それはキジバトの鳴き声よ。」
「えっ、そうだったの?」
「そう、それは全人類が誤解していた世界三大七不思議の一つよ。」
「何?」
「さて、森の奥まで来てしまったわね」
「うん、流石に不安になるよね」
「待って」
ユリィが真剣な表情で私を制止する。
「どうしたの?」
「闇の獣が徘徊してるわ」
私達は木陰に姿を潜める事にした。
「あれはフェンリルね」
九つの尾に双頭の狼で、単独行動している。
「何をしてるのかな?」
「夜は補食の時間よ。闇のエナジーを嗅ぎ付けてここまで来たんだわ。」
フェンリルは地面に落ちている血の跡の匂いを嗅いでいるようだ。
「もしかしてアイツも凶戦士を追い掛けてるのかな?」
「そうね、お腹を空かせた狼は人間を襲うこともあるそうよ。」
「あっ、フェンリルが動き出したよ。」
「行きましょう。」
私達はこっそりと狼の後をつけることにした。
「居たわ、血塗れの凶戦士よ。」
男は世界樹の根元に横たわって、周囲の茂みが彼を取り囲むように生えている。
狼が近づく…食べられるかな?違った、忠犬が主人の傷痕を寂しそうに舐めている。バーバリアンは大きな手で頭を撫でると、怖い表情のまま狼を見詰めていた。
「もしかして…悪い人じゃないのかな?」
そう思うと血塗れの姿が可哀想に想えてきた。私は草影から立ち上がると、彼の元に歩きだす。
彼は私の姿に気付くと、思わず顔を背けて背中を向けてしまった。狼さんは私を見ると吠える事無く、辺りを歩き回っている。
私は道具袋から薬草を取り出して、彼の傷口に当てた。薬草の葉から滲む癒しのジュレが傷口を癒し始めるが、不思議な事に傷口が塞がらない。
「なんでだろう?どんな傷口でも治せるはずなのに」
するとバーバリアンが話し掛けてきた。
「なぜ治療する?怖くないのか?」
「初めは怖かったよ。でも今は傷の方がよっぽど怖い。早く元気になってね」
微かに震える背中はそれより多く語らず、静かに治療を受けている。
「無駄なんじゃ」
「どうして?次は世界樹の蜜を試してみるよ。」
「遺伝子操作スキルは一度発動すると、身体の再生能力が無くなる。二重螺旋に暴力の鎖を結合した結果、生命情報はズタズタで子孫も残せんし、怪我も治らん。
その代わり圧倒的なパワーを手に入れる事が出来るんじゃ。かつて愛した女性も呪われし能力の犠牲となった。だから、もう手遅れなんじゃ。」
私は彼の告白を受け止めながら、世界樹の蜜を塗り始めた。
「もう十分じゃ。覚悟を決めて能力を使ったから悔いは無い。」
治療は無駄だと言われた。だけど私は何かせずにいられなかった。
「私にどうしろっていうの…」
何も出来ない自分が情けなかった。ワタシは俯いて、目から涙が滲んでくる。
「ワシはもうすぐ自然の精霊に導かれる。最期に年寄りの説教を聞いてくれんか?」
ワタシは黙って頷いた。
「大切な事を聞くから、答えてくれ…つまらん物には?」
「波動拳」
「正解じゃ、ククク」
「アハハ…本当にメチャクチャなお爺さんだよ」
ありがとう
そして、さようなら
腕の中のシゲジィは蛍の光に包まれて、消えてしまった。川のせせらぎに蛍は導かれ、その生命を水面に溶け込ませて大地に染み込んでいく。
闇夜の狼が遠吠えで別れを伝え、輪廻の理が死者の森を支配していた。
「オリハルコンは諦める?」
シゲジィのアトリエに着く頃、ユリィは少し驚いた表情で答えている。
「うん、オリハルコンなんて要らないよ。」
「でも武器と防具の強化は出来ないし、クエストは失敗になるわ。それでも良いの?」
「うん」
この経験が失敗だなんて思えない。シゲジィやキツネの狩人も、オリハルコンや遺伝子操作スキルみたいな強さを求めていた。
どうしてそこまで強くなりたいの?沙織にはそこまで思えなくなった。確かにオンラインゲームの世界ではトップランクのプレイヤーだったけど、今となってはどうでもいい。色んな出来事が起こりすぎて、頭の整理が追い付かない。今はただ、落ち着いて休みたい。
そう考えてると、フクロウの鳴き声が聴こえてきた。
「あの声は!」
「ミネルヴァ!!」
音も無く夜空を飛翔する森の守り神は堕天使の主を求めている。シゲジィが怪我を治してくれたからだね…感動の再開だよ!ミネルヴァちゃんはユリィの肩に静かに舞い降りた。
クチバシに何かを咥えている。
「ミネルヴァ、私にお土産かしら?」
暗くて良く見えない…目が慣れてきた。
「これは、ドブネズミの死体?」
親愛の気持ちを込めて、フクロウの大好物を主に献上するミネルヴァちゃんなのであった。
しばらく固まっていたユリィを察してか、ミネルヴァちゃんはドブネズミを離れた草むらに離して来ると再びユリィの元に戻ってきた。
「うーん、ドブネズミを咥えたクチバシなんて汚いわよね。」
「確かにそうだね、不衛生だよ。」
「こんな時はアルコール除菌ね♪片翼をユサユサして…はい除菌シートよ。」
ユリィはアルコール除菌シートで丁寧にクチバシの汚れを拭き取った。
「ミネルヴァ、ご飯は私が用意するから自分で獲物をとらないでね。」
ミネルヴァちゃんは首を傾げて答える。
「分かってくれたのかな。フクロウのジェスチャーは人間には分かりにくいわね。さて、シゲジィのアトリエに戻りましょうか。」
「戻ったらどうするの?」
「何かシゲジィの人となりが分かる物があるはずよ。彼が自然に還る所を見届けたから、色々と整理が必要よ。」
「うん…」
そういえば、どうしてあそこまで親切にしてくれたんだろう?
私達は殆ど会ったことも無いのに
普通は街ですれ違う人達なんて只の風景で、何の気持ちも抱かない。なのに何故?こんなにも気持ちがグラグラする。
「着いたわね、殆ど来たこと無いのに落ち着くわ。」
扉を開けると数時間前の光景とは違う景色が広がっている。何気無く置かれる、家具や工具棚、本にインテリア全てがシゲジィを物語っている。
「意外と整頓されてるわね。」
流石に作業台は少しごちゃごちゃしてるけど、工具棚は綺麗に収納されている。お洋服は殆ど置いてなくて、仕事柄なのか見たことも無い綺麗な鉱石がコレクションされている。
「これは、写真?」
部屋の奥に立て掛けてある額縁に二人の男女が写っている。背は小さいが凛とした表情が印象的な若いドワーフだった。
「男の人がシゲジィで、女の人は奥さんかな?」
しなやかな佇まいで清廉された身なりの女性だった。そして何より、女性はエルフだった。
「あら、ドワーフとエルフは犬猿の中のはずなのに夫婦だったのね。」
「シゲジィが言ってたよ。かつて愛した女性も呪われし能力の犠牲になったって。呪われし能力って、遺伝子操作スキルだよね。」
「子孫を残せない…きっと子供が欲しかったのよ。」
「そっか…」
子供の私には程遠い世界の話だ。ただひとつ分かったことは、シゲジィが奥さんを大切にしていた。家具や本は埃被っているのに、額縁だけピカピカなので、そう思う。
額縁の裏に名前が彫ってある。
「フランツとエルマ」
他には何か無いかな?少し周りを探すと、ノートが置いてあったので、開いてみる。
この本を見る人へ
ワシは加治屋の爺
他人を傷付ける刃しか産み出せなかった
既に未来を残せぬ哀しき獣の贈り物
その刀は風雪刃
闇を吹き飛ばす風雪の灯火
未だ見ぬ愛し子へ
「風雪刃」
これが私の刃だ。
ラビットシノビは新たな装備を手に入れた。
風雪刃:風属性のシノビ刀。風を纏わせ、闇を吹き飛ばす。
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