第9話 オリハルコン発掘!装備を強化しよう♪
翌朝は曇天で少し薄暗い、寒い朝だった。ユリィは私より早起きでダラクノダテンシの衣装に着替えて、窓から外の景色を眺めてる。
私はベッドの温もりから抜け出す事に躊躇しつつ、モゾモゾと動いていた。
「あら、雪かしら」
「えっ…雪!」
私はベッドから飛び起きて、窓の外を眺めて見る。うっすらと淡い粉雪が空を舞っているようだ。
「なんだ、積もってないだ」
最近雪が積もったのは、いつだろう?しばらく雪を見てないからたまには見てみたいな。
「沙織ちゃん…パンツがずれてるわよ」
「ぎゃー!見ないでー!」
「ラビットシノビは雪のように真っ白な、ふんどしを締めていた。」
「ウソだよ!信じないでね!」
誰に言い訳してるんだろう…
「寒い‥早く着替えなきゃ」
私はラビットシノビの衣装に着替えて、少し遅めの朝食を食べるために部屋の外に出た。
「そういえば、エレベーターはどうなっているんだろう」
「ハムガットちゃんは元気かしら」
エレベーターを見てみると、「冬眠中」とだけ表示されてた。
「ハムスターって冬眠するんだね」
「今日は雪が降るほど、寒かったから…」
エレベーターは動いていないようなので、階段を降りて一階のカフェまで行った。 席に座ってホットチョコレートを飲んでいると、ユリィが話し掛けてくる。
「そういえば、ラビットシノビの衣装って薄着よね」
「身軽になるために必要なんだよ」
「衣装の隙間から腋とか背中が触れるわ。」
ユリィが肌を撫でてくる。
「ぎゃー!だからコチョコチョは止めてー!」
「こんな隙間だらけじゃ、今日は寒いんじゃないかしら?」
確かに外は冬模様だし、部屋からカフェまで来る時も少し寒かった。
「何か冬服みたいな装備は無いのかな?」
「そうね、マップを見てみるわ。あら、セレクトショップがあるわね」
「セレクトショップ?何それ」
「色々なアイテムを買えるお店よ。」
アイテム…そういえば回復アイテムとかパラメーター強化アイテムを買ってなかったね。
「じゃあセレクトショップでお買い物しようか」
「ここならお洒落なアイテムがありそうね」
「お洒落なアイテム?」
薬草とか瓶に入った飲み薬にお洒落なんてあるのかなあ?
「じゃあ行きましょうか」
ユリィはティーカップを置くと席を立った。
「私も行くよ」
私達はカフェから出てセレクトショップに向かう事にした。
「お洒落なアイテム…」
ピンク色の薬草?猫耳鉱石?それとも…
「沙織ちゃん、さっきから何ブツブツ言ってるの?ほら、セレクトショップに着いたわよ」
大通りの一番目立つ場所に高級感溢れるお店が見えてきた。
「お洒落なアイテム店だ。」
どうしよう、何かイメージと違うし、こんなお店でお買い物したことなんて無いよ。
「いらっしゃいませー♪可愛いウサギの忍者さん♪」
ポニーテールの優しそうなお姉さんが出迎えてくれた。
「あっ、あの!お洒落なアイテム下さい!」
「お洒落なアイテム?そうねえ…こんなアイテムはどうかしら?これ!ハダカデバネズミのブローチよ!」
目の前に全身無毛の豚鼻で出っ歯のネズミが型どられたアクセサリーを突き付けられた。
「何よこれ…こんな不気味アクセサリーなんて闇魔術師でも装備したくないわ。沙織ちゃんも嫌よね?」
「可愛いー!!着けてみて良いですか!?」
「えーっ!!」
沙織ちゃんはラビットシノビの左胸辺りにハダカデバネズミのブローチを着けている。
「お似合いですわー♪」
「そうかなぁ、エヘヘ」
「お客様!他にもこんなアイテムはいかがですか?」
完全に獲物を狙うハゲタカの目付きになった店員さんが次の商品を薦めている。
「こちら!ダイヤモンドスノードームです!」
水晶の中にキラキラしたラメが舞うお城がデザインされている、小型の置物だ。
「これは素敵なアイテムね。クリスマスプレゼントとか誕生日プレゼントにもピッタリのお洒落なアイテムだわ。」
「沙織にも見せて、じーっ…」
沙織ちゃんが水晶に目をピッタリと付けて覗き込んでいる。
「ユリィ、この小さくてキラキラした人は誰だろうね?」
「キラキラした物なら粉雪に似せたラメじゃないかしら…って人?」
「うん、ほら見てよ」
「じゃあユリィも、じーっ…」
良く見るとキラキラしたラメは人の形をしている。
「右目…右目が疼くわ!堕天使の魔眼発動よ!さあ、真の姿を見せなさい!」
ユリィは眼帯を外して、妖しく光る堕天使の魔眼でキラキラした粒の正体を見破ろうとしている。
「あっ」
そこには無数の全身脱毛して、ツルツルの小太りオジサンが生まれたままの姿でキラキラと輝いていた。
「ぎゃー!!目が腐るわー!あのリアルなポコタマちゃんは何なのよ!?」
「ポコタマちゃん?」
「はっ!何でもないわ!沙織ちゃんは絶対に!見ちゃダメだからね!!」
「えーっ、ユリィだけズルいなあー」
「この光景だけはユリィが墓場まで持っていくわ」
結局スノードームは店員さんに突き返して、ハダカデバネズミのブローチだけ装備することにした。
「それで、本題の冬服装備を探さないと」
「ところでさ、アイテム屋さんで服を探すのって変じゃないかな?」
「セレクトショップはお洒落な服屋よ。勘違いしてる?」
「?」
セレクトショップの品揃えは豊富でシックなダークコートにロング丈ニットワンピース等がトレンド商品のようだ。
「うーん、これが良いかなあ」
クローゼットから一着のポンチョを取り出した。冬毛のユキウサギ柄でピンクのモフモフに包まれた衣装だった。
「良いじゃん!試着してみなよ♪」
私は試着室に入ってサイズや着心地を確かめると再びユリィに見せた。
「どうかな?似合う?」
そこにはお気に入りのウサギのパーカーに身を包んだ、沙織ちゃんが居た。
「似合うわよ」
「これ温かくて可愛いね。これにするよ。」
「ユリィは欲しいアイテム無いの?」
「そうね」
ユリィは店内をしばらく見渡すと、一つの置物を手に取った。
「このフクロウの時計を頂こうかしら」
メンフクロウが彫り込まれた木製ヴィンテージ置時計でかなり古びている。
「埃被ってるよ。まだ動くのかな」
「まだ動きそうよ、それに魔力を感じるわ。この先きっと、役に立つ。」
「じゃあこれも貰おうか」
私達は三つのアイテムを手に入れて店の外に出た。
ラビットシノビはハダカデバネズミのブローチとユキウサギポンチョを装備した。
ダラクノダテンシはフクロウ時計を装備した!
「じゃあ次のクエストを探そうか」
「そうだね、じゃあカンティーノ酒場に戻るわよ」
私達は寒風吹く中、足早に酒場へ入店した。
「えーと次のクエストは何があるかなあ」
私達は看板に保存されたクエスト募集を確認している。
「これなんてどうかしら?オリハルコンの発掘依頼よ」
「オリハルコン?それって色んなゲームに登場する鉱石だよね」
「そうよ、オリハルコンは装備の強化に必要な鉱石だから、手にいれて武器と防具を強化しましょう」
「なるほど!じゃあ次のクエストはそれを受けよう♪」
「店員さん、このクエストを受注したいので手続きをお願いします。」
「はーい、ちょっと待ってね。判子を押して…判子を押して…判子を押して…
判子を押して…判子を押して…判子を押して…これでクエスト受注完了出来ました。」
なんか判子を押す回数が増えたような気がする。
「ありがとうございます。じゃあ行ってきまーす。」
「はーい、気を付けてねー♪」
こうして次の目標はオリハルコンの発掘に決まった。私達は街の外に出てから、目的地をマップに表示する。
「ここから北の方角にしばらく進むとグレートアパタイト山脈があって、そこの麓がオリハルコンの産出地みたいね」
「北の方角って事は此処より寒いよね」
「ええ、良質なオリハルコンは極寒の地でのみ発掘できるのよ。丁度、冬服装備が手に入って良かったわ。ユキウサギポンチョは快適かしら?」
「うん、これ一着で全然寒く無いんだよ。ユリィは寒くないの?」
「ええ、御覧の通り漆黒のゴシックロリータ衣装は寒さに強いのよ」
ユリィはくるりと一回転して、ポーズを取る。
「じゃあ北の方角に向かいましょう。パンパカパーン♪ユリコプター♪」
私達はユリコプターを装備して、空を進む事にした。ユリコプターの高度はそんなに高くない。だいたい10メートルの低高度を飛んで行くと、地上を観察しながら進むことが出来る。
透過する白銀のススキ達が朝露に反射して、幻想的だ。鏡面のような泉が青空に溶け込んで、大地と天界が一つになっている。セキレイの群れが私と並んで飛び、可愛い鳴き声で私を歓迎してくれる。
「ユリィ、鳥達が一緒に飛んでるよ。凄く素敵な空の旅だね!」
「沙織ちゃーん、早くコイツら追っ払ってー」
隣を見るとユリィが真っ黒なカラスの大群に囲まれて、空の旅を満喫していた。
「何でユリィだけ…可哀想」
「もう!いくら闇魔術師だからって黒い鳥は嫌よ!」
ユリィは翼からCDを取り出して、光の反射でカラス達を追い払っている。
「ピカピカを喰らいなさい!フラッシュ!!」
目映い光でカラス達は退散して行った。
「ふう、これで安心ね。沙織ちゃんばっかりズルイわ!ユリィも素敵な鳥と一緒に空を飛びたい!ホムラの神々よ、我に大空の使い魔を遣わせなさい!」
その時、ユリィの片翼がモゾモゾと動き出した。
「あら…何かしら?」
ユリィが手を伸ばすと、可愛いメンフクロウが顔だけ覗かせている。
「ユリィ!フクロウだよ!」
「フクロウ…あの置時計かしら」
ユリィが指で撫でると、顔を180℃反転させて後ろを覗いている。
「すごーい!顔が無くなった!」
「フクロウは森の賢者と呼ばれる賢い鳥だから、きっと周囲を警戒しているのね。ほら、出ておいで」
ユリィが腕を伸ばすと、メンフクロウが出てきて腕の中に止まっている。
「主人の命令を良く聞く使い魔のようね。いいわ!これからダラクノダテンシ第一の使い魔にするわ!」
「やったー!じゃあ名前を決めないとね♪」
「メンフクロウだからメンちゃんはどうかな?」
「そんな普通の名前じゃ、ダラクノダテンシに相応しくないわ。そうね、この子の名前は!プエルトリコヒメエメラルドメンフクロウよ!」
「長いよ!」
「知らないの?世界一長い名前の鳥よ、世界一の闇魔術師にピッタリの名前だわ」
「もう少し短くしないと、呼ぶのに苦労するよ」
「冗談よ、では改めて。ミネルヴァにするわ。」
「ミネルヴァちゃん?賢そうで良い名前だね♪おいでーミネルヴァちゃん。あれ?私の腕に止まってくれないの?」
「凄くプライドの高いフクロウのようね。主人以外の命令は聞かないみたいだわ。ダラクノダテンシが命じる…ラビットシノビの肩に止まりなさい!」
ミネルヴァちゃんは首を傾げたまま、動く気配を示さない。
「あら、動かないわね」
「まあその内、懐いてくれるかな?宜しくね!ミネルヴァちゃん♪」
ダラクノダテンシはメンフクロウのミネルヴァを仲間にした!
ミネルヴァちゃんはユリィの肩がお気に入りみたいで、彼女の定位置となっている。常に首をクルクル回して面白いな。
しばらく北の方角に進むと景色が変わって、北欧のような景色になってきた。植物は少なくなり、所々針葉樹が生えてるだけの殺風景な森林地帯だ。
「さて、そろそろ目的地ね」
「あの木の側に降りようか」
私達はユリコプターの高度を下げて、一面の雪景色の大地に降り立った。
「雪がこんなに積もってるよ」
深い場所は下半身が埋るほどの厚くてサラサラな雪が積もっている。
「ねえ、雪に飛び込んでみようよ♪」
「どういう事かしら?」
「こういう事だよ!脱兎の跳躍からの、スノーダイブ!」
私は垂直に背面飛びをして、深い雪に飛び込んだ。
「どう!ウサギ型の穴が空いたでしょ!」
サクサクの雪に綺麗なウサギ型の穴が空いている。
「ユリィも天使の雪型作ってよ!」
「もちろんよ!ユリィのモダンアートを御覧なさい♪」
「堕天使の跳躍からの…スノーダイブ!」
「あっ!そっちは雪が浅いかも」
「ウソー!?緊急回避!!」
「ウソでしたー♪安全に飛び込んでねー」
ズボッ
「うーん、我ながら見事な出来映えだね」
新雪の平原に謎のミステリーサークルが刻まれている。
「さて、オリハルコンは何処に眠ってるのかな?」
「誰じゃー!ワシの庭で騒いでおる奴はー!?」
「あっ、ごめんなさい」
「ん?お爺さん何処に居るの?」
周囲を見渡しても、声の主が見当たらない。
「下じゃ!下!」
視線を落とすと膝の高さと同じ身長のお爺さんが立っている。
「お主ら、クエストを受けに来た冒険者じゃろ?ワシはドワーフ属のシゲジィ。齢三百歳を越えている、鍛冶屋じゃ。」
「あの、宜しくお願いします。」
「うむ。それで土産は何処じゃ?」
「お土産?」
「ワシへの挨拶じゃ、ほれ下さいな」
「ユリィ…ちょっと来て」
私達はお爺さんに聴こえないように、ヒソヒソ話を始めた。
「なんか頑固そうなお爺さんだね」
「ええ、ここはユリィに任せて、長老への接待も得意分野の一つよ。お爺様♪ご挨拶が遅れました。闇魔術師のユリィと申します。」
ユリィは片翼から包装されたお土産箱を取り出している。
「良かったらこちら、つまらない物ですが」
高級そうなお土産箱をお爺さんに手渡そうとしている。
「つまらん物には!!波動拳!!」
「ぎゃー!!お土産がー!!」
シゲジイのアルティメット波動拳がお土産を時空の彼方へ吹き飛ばした。
「何するのよ、シゲジィ!お土産を粗末にするなんて、グルメ界のファンタジスタが許さないわ!」
「お土産を粗末?良く見なさい。吹き飛ばされたお土産が何処に飛んだのか!」
シゲジィは宙に時空の彼方の光景を写し出した。
「これは…貧しい子供達が食べている。」
ユリィのお土産はスラムの子供達が美味しく食べて、皆幸せそうだ。
「どうじゃ?無駄にはしてないぞ?」
「流石ね。参ったわ」
「さて、冗談はここまでにして。お主らオリハルコンを探しているんじゃろ?オリハルコンは少し特殊な鉱石でな、一人じゃ発掘出来ないから助手を募集しておいたのじゃ。報酬にはスペシャルな鉱石を用意しておるぞ。どうじゃ?」
「はい!スペシャルなオリハルコン欲しいです!」
「良し!着いて来なさい!」
ドワーフ属のシゲジィがパーティーに加わった!
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