第7話 ラビットシノビのキャンプ

「沙織ちゃん、もう暗いから今日はキャンプして、明日に街へ帰ろうか。」

「はーい」

 ゆっくり大地に降り立って、フカフカの芝生を足元で確かめながら今夜のキャンプが始まった。

「さて問題です。キャンプの定番といえば何でしょう?」

「はい!キャンプファイヤーです!」

「正解!じゃあ大きな薪を探すわよ。」

「うん!さあ何処に落ちてるかなあ♪」

 辺りは日が沈んで、すっかり夜だけど、うっすら木々が見える。見上げた夜空に満月が輝いていた。

「月明かりかあ、夜なのに凄く明るい」

 夜は普段出歩けないから、凄く楽しい。しばらく散歩していると木々の側に薪になりそうな枯れ木が落ちていたので、何本か拾って戻った。

「沙織ちゃん、この辺りは薪が沢山落ちてるわね。」

 ユリィの側にドッサリ大きな薪が積んである。どうしたら、こんなに沢山拾えるんだろう?

「さあ、此処に積み上げましょう。」

 私達は交互に木を積み上げてキャンプファイヤーの土台を組み上げて行く。

「沙織ちゃん上手だわ。もしかしてキャンプに慣れてるの?」

「そんなことないよ、キャンプなんてしたことあるかなあ?」

 ママも私もアウトドアに関心がある訳じゃないけど、不思議とやり方が分かる気がする。誰かに教えてもらったのかな?

「覚えてないや」

 ユリィは細心の注意を払いながら組み木を一本抜いている。

「あーっ!抜いたら崩れちゃうよ!」

「大丈夫よ、あと少しで…良し。さあ、次は沙織ちゃんの番だよ!」

「止めとくよ。せっかく組み上げたのに、崩れちゃ嫌だもん。」

「そう?楽しいのに、ジェンガ」

 結局、身長の高さより少し大きなキャンプファイヤーの土台が完成した。

「木が所々抜けてるけどね」

「じゃあ火をつけようか」

「火ならユリィの出番ね!キャンプファイヤーの醍醐味は着火の瞬間だわ!」

「ユリィの闇魔術は火を操れるもんね。」

「良い?見ててね…」

 ユリィは急に大人びた雰囲気で唇に指を重ねて、木に囁くように吐息を吹きかける。吐息は紅色に輝いて広がり、木に触れると微かに燃え始める。じんわりと火の輝きが増していくと、延焼の連鎖が全てを呑み込んでしまう。オレンジの灯りが辺りを照らして、キャンプファイヤーが完成した。

「綺麗だなあ。暖かいし」

 夜は少し冷えてくるから、火の側は心地良い。

「キャンプファイヤーって本当にキレイね。覗き込みたくなるわ。」

 ユリィはそう言うと火の側に顔を近づけて、今にも火に飛び込みそうな気配だ。

「ユリィ!危ないよ!」

「ハッ…いけないわ」

 ユリィは踵を返して火から離れた。私は直ぐにユリィの傍に行って、火傷してないか確かめる。

「良かった。どこも火傷してないみたいだね。火に近づきすぎると火傷しちゃうよ…熱くないの?」

「熱い?なんの事?」

 えっ…あんなに火の側に近づいたのに熱くないのかな?

「やだ、衣装にススが付いたかしら」

 ユリィは服をはたいて汚れを落としている。そうか、ダラクノダテンシの加護があるから、火に耐性があるのかな。

「なんだ」

 そうだよね、人間なんだし、火の中で平気な訳ないよね。

「あっ!火の勢いが弱まってきたかな。薪を足さなきゃね。」

 ユリィは追加の薪を燃やし始めた。

「あっ、私もやりたいな」

 物を燃やすのって、意外と楽しいよね。家じゃ何かを燃やすことなんて出来ないから、余計にワクワクするのかな。

「沙織ちゃん!どんどん燃やそう!もう少しで火の柱が建つよ!」

 確かに火の勢いが強くなってきて、夜空に向かってオレンジの柱が建っている。

「よーし!もっと薪を投げ込めー!」

 私達はありったけの薪を投げ始めた。

「もう少し、もう少しで何かを掴めそうなの。火柱…そうだわ!」

スキルポイントMAX!!

「スキル発動…バーニングトーテム!」

 ユリィはキャンプファイヤーの隣に巨大な火柱を出現させた!

「凄ーい!ダラクノダテンシの新しいスキルだ!」

「やったわー!ユリィの新たな可能性よ!この強大な魔力…ホムラの神に栄光あれー!バーニングトーテム!バーニングトーテム!もひとつオマケに、バーニングトーテム!」

「またやり過ぎてるー!」

 辺り一面に巨大な火柱が乱立して、今にも山火事に発展しそうだ。

「ユリィ!嬉しいのは分かるけど、落ち着いてー!」

「ハッ…しまったわ」

 ユリィは落ち着きを取り戻して、巨大な火柱を消してくれた。


ダラクノダテンシは新しいスキルを覚えた!

スキル バーニングトーテム

効果 巨大な火柱を出現させて攻撃する。同時に以後、ホムラ系魔術の威力を増幅させる。

「さて、そろそろ寝ようか」

 キャンプファイヤーの勢いは弱まり、焚き火のように穏やかな温もりと、安心を与えてくれる。

「そういえば、どうやって寝ようか?」

キャンプ装備なんて持ってきて無いし、どうしよう…

「大丈夫よ沙織ちゃん、私がテントを持ってるから」

 ユリィは片翼に手を突っ込んで、モゾモゾと何かを探している。

「あったわ、はい、どうぞ」

 折り畳み傘のような物を投げると、直ぐに大きく膨らんでテントが出来上がった。

「凄いじゃん!」

「さあ、早速入りましょう。」

 テントの中には大きな寝袋が二つ並んで置いてある。寝返りが打てる位ゆとりのある寝袋みたいだ。

「じゃあ寝袋に入ろうかな」

 私達は衣装を脱いで、丁寧にハンガーに掛けた。

「あっ…フカフカしてる」

 素肌からサラサラとした感触が伝わってくる。

「沙織ちゃん、上を見てみてよ♪」

「上?あっ…」

 上空は満天の星空だった。テントの上部が透明な素材で出来ていて、夜空を見渡せる大きな窓みたいだ。

「夜の空ってあんなにキラキラしてるの?」

 見たこと無い景色だった。普段の暮らしではまず見ることが出来ないんだろうなあ。

「ユリィ、星がキレイだね」

「そうね、知ってる?あの星に到達するまでどの位の時間が必要か」

「理科の時間に習ったと思うけど、忘れちゃったな」

「光の速度で百万年。つまりあの星は過去の姿で、今を生きる私たちは、星の光から見ると未来の姿なのよ。百万年に星の輝きが地球に向けて出発した頃…人類すら誕生する前にどんな祈りを星の瞬きに託して送り出したのかしらね」

「よく分かんないや」

 余りにも途方も無い話で想像もつかない。私は百合ちゃんとゲームをプレイ出来れば、それで満足だった。だけどサイバーDIVEの世界に来てから驚きの連続だ。きっとこれからも、不思議な事に沢山出会うのかな?

 隣のユリィを見てみると、瞳に星空が映りこんでいる。私と同じ景色を見ているんだよね。

「ねえ、星座って分かる?テレビの占いで見かけるよね、うお座とか、いて座とかさ」

「分かるわよ」

「じゃあここで、星座当てゲームだよ!沙織が指差す方角に何の星座があるか、当ててね」

「面白そうね、良いわよ」

「じゃあ、あっちの星座は何でしょう?」

「うーん、カシオペヤ座とかオリオン座じゃないかしら?」

「正解です!ユリィに1ポイント!」

「いつの間にかクイズ大会になってるわね。」

「先に3ポイントをとった方が勝ちだよ。」

「よーし、じゃあ次はユリィが問題を出すわね。私の星座は何でしょう?」

「ふたご座かな」

「正解!よく分かったわね。沙織ちゃんに1ポイント!」

「ユリィの事はは何でもお見通しだよ♪」

「じゃあ、沙織の星座は何でしょう?」

「うお座!」

「不正解!正解は…ウオズラオヤジ座でしたー♪」

「えーっ!?当たるわけ無いわよ」

「フフフ…じゃあユリィのポイントを奪うから沙織が2ポイントね」

「何よそのルール」

「じゃあユリィに問題です!私がフォームナイトでプレイする時に多用するテクニックの名前は何でしょう?」

「は?フォームナイトって何よ?」

「制限時間は10秒です。」

「あーっ!えーっと…あれよ、あれ」

「時間切れでーす♪正解はオートエイムでした♪」

「沙織ちゃんが何を言ってるのか、さっぱり分からないわ」

「ラスト問題よ。ちなみにユリィが負けそうだから、最後の問題だけ、ポイントは100万ポイントよ♪」

 ルールが滅茶苦茶だ!

「問題です!私達が一番楽しみにしてる事は何でしょう?」

「そんな簡単よ♪」

「簡単だよね♪」

 せーの!

「暗黒獣を使い魔にする!」

「レア武器をゲットする!」

 バラバラじゃんか…

「不正解ー!100万ポイントは没取でーす!」

「罰ゲーム!くすぐりの刑!」

「ぎゃー!止めてー!昔からこちょこちょは苦手だからー!」

 くすぐり合ってると、すっかり疲れてきた。

「はあ、疲れた。もう寝ようか」

「そうね…お休みなさい」

 私達は満天の星空に見守られながら、倒れるように眠りについた。


 翌朝は気持ちの良い目覚めだった。心地良い寝袋から一歩外に出ると少しヒンヤリした朝の爽やかな風がワタシを包み込む。

 ユリィはまだ寝てるみたいだ。寝相が悪いのは相変わらずだけど、寝袋に包まれてるお陰で少しマシだ。

「顔を洗いたいな…」

 辺りを見回すと少し先に澄んだ泉があったので、行ってみる事にした。周囲から木々のざわめきと鳥のさえずりが聴こえてくる。自然のオーケストラに浸りながら泉のほとりにやって来た。泉の水面は青空を鏡のように写し出している。少し水深が深いので、表面の水をすくって顔を洗ってみる。

「冷たくて気持ち良いな」

 パチャパチャと洗ったけど、タオルが無いことに気付いた。仕方ないので少し顔をぬぐって、そのままテントに戻る事にする。

「おはようー」

 ユリィはもう着替えて、テントの側に佇んでいる。

「向こうに綺麗な泉があったから、顔を洗ってくれば?」

「そうね、気が向いたら顔でも洗おうかしら」

 気が向いたら?相変わらず良く分からないや。私もラビットシノビに着替えて、キャンプファイヤーの後片付けを始めようとした。

「ゴミとかは無いみたいだね」

 ビニール袋とか容器の燃え残りも無いし、全部自然の物なので放っておいてよさそうだ。ユリィはワンタッチでテントを畳んで、後片付けは終わった。

「じゃあ、街まで歩こうか」

「昼頃には着くといいね」


 暫く歩くと、朝から何も食べていない事に気が付いてしまった。

「ユリィ…お腹が空いたね」

「そうなの?じゃあ何か食べれそうな物を探してみましょう」

 ユリィが宙に手をかざすとマップがプロジェクションされた。どうやら、マップの情報を元に食べ物を探してくれるみたいだ。

「えーと、近くに森林があるわね。ここなら、木の実や果実が採れるかもしれないわ。」

「でも、森林って魔物に出会いそう…危なくないかな?」

「大丈夫よ、もし魔物が出たら覚えたてのスキル…バーニングトーテムで丸焼きにしてあげるわ!こんがり焼きあげて、ミディアムレアよ。美味しそうでしょ?」

「確かに…うん、良いアイデアだね」

「決まりね、じゃあ近くの森林に行ってみましょう。」

 草原から少し離れた場所に森林地帯が広がっていた。森の入り口には小さな鳥が群れで木々に留まっている。

「あの鳥を食べるには小さすぎるわね…ねえ、沙織ちゃん。貴方はお肉好き?」

「うん、好きだよ」

「普段はどんな種類のお肉を食べているの?」

「そうだなあ…牛さんのお肉が一番美味しいかな。もちろん、豚とかニワトリのお料理も好きだよ。」

「あぁ…なんてことなの」

 ユリィは大げさなリアクションで地面に膝を付いている。

「ダラクノダテンシはグルメ界のファンタジスタなのよ。そんなありふれた食材を大切な沙織ちゃんに食べさせたく無い…よーし!待っててね、とびきりスペシャルで特別な食材を見付けてみせるわ!待っててね、沙織ちゃん!」

「うん…ありがとう」

 どうしよう…ユリィの気持ちは嬉しいけど、凄く張り切っている。また暴走して、やり過ぎないように注意しなきゃ。

 不安な私には目もくれず、特別な食材探しを開始するユリィなのであった。


「何処に行ったんだろう…」

 私が少し目を離した間にユリィは森の奥まで進んでしまったらしい…すっかり見失ってしまった。

「はぁ…心細いなあ」

 森の中は薄暗いし、いつ恐ろしい魔物と出くわしてしまうかもしれない。怖い魔物といえば…きっと、闇夜に光る真っ赤な瞳がいつの間にか私を捉えていて…振り向くと牙を向けてくるんだ!

「なんてね…考えすぎだよ」

「ガサガサ」

 あれ?木々の茂みから物音が聞こえる。気になって、音が聞こえた周囲を見てみると、そこには想像した通りの真っ赤な瞳が私の方を見ている。

「嘘でしょ…まさか、本当に魔物が居るの?」

 怖い…でも、走って逃げると追いかけて来るかもしれないし、ここは慎重に後ずさりしよう。

「ガサガサ…ガサガサ!」

 魔物の物音が激しくなる…今にも飛び出してきそうだ。

「きゃあ!」

 恐ろしさの余り、声を上げてしまった。私の声に反応して、何者かが茂みから顔を出す!なんと、そこには!

 眼帯を外して瞳を真っ赤に輝かせている、ユリィが居た。

「なんだ…脅かさないでよ。心臓が止まると思ったじゃんか…」

「…」

「ユリィ?」

 なんだか様子がおかしい。目が血走っているというか、焦点が定まっていない。顔も火照っているし、普段は艶やかなロングヘアーもボサボサになってしまっている。

「大丈夫?」

「お肉…美味しいそうな…ウサギ!!」

「ぎゃー!!」

 ケダモノのような勢いでユリィが私に襲い掛かってきた。

「ラビットシノビ…アクセルモード!」

 私はスキルを使って後方に跳躍して、飛び掛かってきたユリィを避ける事が出来た。

「ユリィ!どうしちゃったの?私の事が分からないの!?」

「沙織ちゃん…お肉…食べさせたい…」

「ん?もしかして…私の事を本物の兎だと勘違いしているの?」

「お肉…美味しいそうな…ウナギ…」

 うわごとの様に私に食べさせたい食材の名前を呟いている。

「でもね…ウナギじゃないよ。私はウサギ!兎の忍者、ラビットシノビだよ!」

 私は素早くユリィに接近すると、シノビ刀を構えて攻撃の態勢を取った。

「覚悟!当て身!」

 軽快な音と共にユリィの首筋に衝撃を与えた。

「はっ…ここは何処?ユリィは誰?」

「自分の名前を言えてるよ…良かった、正気に戻ったみたいだね。」

 様子が変だったユリィはすっかり元通りになったようだ。

「沙織ちゃん、さっきここに丸々と太った、美味しそうなウサギが居たんだけど、見かけなかった?」

「…見てないよ」

 はっきり言いたい事がある。私はそこまで太ってないもん!


「キノコを食べた?」

「そうよ、そこら辺の木の根元に色の青紫色のキノコがニョキニョキ生えていたから味見したの♪」

「青紫色のキノコ…明らかに毒キノコじゃん。何でそんな危ない物を食べようとするの…」

「沙織ちゃん、グルメは常に探求心が求められるのよ。危険を冒してまで何を望むのか…それは好奇心、どんな味か気になるよね!」

「そうかなあ…私は普通で良いよー」

「はあ、全く…そのままじゃつまらない大人になっちゃうわ。少しはユリィを見習ったらどうなの?私の事が羨ましいでしょ?」

「羨ましくないよ」

 私ははっきりとしたNOという意思表示をする。

「まあ、その内にユリィが言ってることが正解だって分かるわよ♪おかげで、幻想的な景色を見る事が出来たし…」

「幻想的な景色って…」

「なんだかフワフワした気分になってね、目の前がグラグラしてるように見えるの。歩いてるのに空を飛んだみたいな気分になって…目の前のウサギさんに襲い掛かりたくなっちゃうの♪」

 ユリィが食べた青紫色のキノコって…毒じゃなくて幻覚を見る効果があるのかな…何にしても、危ないから絶対に食べさせないようにしなきゃ。

 決意を新たにして、再びユリィと一緒に食材を探し始めるのであった。


「あれ?森の中に湖があるね…」

 食材を求めて、さらに森の奥へ進むと、拓けた場所に大きな湖があった。

「凄く透明で綺麗な水面のようね…あっ、魚が泳いでるわよ!」

 ユリィが指さした先に両手で抱えきれそうなサイズの魚が泳いでいるのが見えた。

「沙織ちゃんはお魚好き?」

「うん、お刺身とかたまに食べる事あるよ」

「決まりね、あの魚をご飯にしましょう。」

「でもさ、お魚ってどうやって捕まえるのかな?釣りとか?」

「そうね…釣りとか網を投げるとか…素潜りして槍で刺して捕まえるとか、色々な方法があるわ」

「どうしようかな」

 魚釣りなんてしたこと無いし、そもそも釣り竿が無い。たぶん木を使えば釣り竿を作ることも出来るけど、私には無理だ。

「沙織ちゃん、ラビットシノビはウサギの忍者なんだよね?何か忍者らしい特別な道具は持ってないの?」

「そっか…」

 今までラビットシノビが持っている道具を確認してなかったね…何か魚釣りに役立つ装備があれば良いんだけどな。

「ユリィ、ちょっと待ってね。」

「分かったわ。じゃあ、ユリィは沙織ちゃんとは別の方法で魚を取って来るわ。」

「どうするの?」

「フフフ…」

 ユリィは得意げに漆黒の片翼を揺さぶると、翼の中から小さな槍を取り出した。

「これで魚付きをするわ!湖に飛び込んで、水中を自由自在に泳ぎ回る…ユリィは今日から人魚なのよ!」

「え?水の中に入るの?」

「もちろんよ…えい!」

 ユリィはやる気満々で湖に飛び込んでしまった。

「大丈夫かなあ…」

 水中の中にも魔物が居るかもしれないし、私は水に濡れるのは嫌だから魚付きは止めておこう。

「さて、何かアイテムを探さなきゃ…」

 ラビットシノビの装束には収納が多かった。腰には小道具を入れておけるポーチが両脇についているし、袖の中や服の裏地にもアイテムを隠し持てる構造になっていた。

「これは便利だなあ…何か戦いのときに役立ちそう」

 そんな調子で腰のポーチを探っていると、手のひらに収まる大きさの竹筒が出て来た。

「何だろう、これ。あれ?竹筒から焦げ臭い匂いがする。」

 私が鼻を竹筒に近づけると、途端にくしゃみが出てしまった。

「くしゅん!」

 何かの粉が鼻孔にまとわりついてしまったようだ。これは何だろう?

「あっ…何か紙が挟まってる」


説明書:バクレツ火薬入りの竹包

敵に向かって投げると大きな爆発が起きる。


「バクレツ火薬…これって爆弾なんだね」

 これは頼もしい武器になりそうだ…だけど、肝心の魚釣りには役に立たないのかな?

「沙織ちゃん!助けてー」

「ユリィ!?」

 湖に飛び込んだはずのユリィから助けを求める声が聞こえた。急いで水中を覗き込むと、大きなサメのような魔物に取り囲まれている!

「襲われてるんだ…助けなきゃ!」

 私は咄嗟に湖の中に飛び込んだ。しかし、水中に入ると体が鉛のように重くなり、目の前が真っ暗になる感覚に襲われる。

「しまった、私って泳げないんだった…」

 水中でもがくけど、一向に前に進むことが出来ない。ユリィの元に行きたいけど、どうしても体が浮かんでしまい、湖の底に行けなかった。

「このままじゃ、駄目だ!」

 泳ぐことを諦めて、水中から出ようとする。もがいて少しずつ進むと、ようやく岸に流れ着いた。

「どうしよう…このままじゃユリィが…」

 再び水中を覗き込むと、サメのような魔物が大きく口を開けて、ユリィに嚙みつこうとしているのが見えた!

「危ない!!」

 その時、周りの景色がゆっくりと流れるような感覚に包まれた。この感覚に覚えがある…ポンデゲーターと戦った時に同じ出来事を経験している。

 一刻を争う状況なのに、とても冷静だ。どうすれば潜らずに水中の魔物を倒せるのだろうか?

「そうだ…」

 手に持っているバクレツ火薬入りの竹包を見てみる。これを水中に投げ込めば、爆発の衝撃で魔物を倒せるかもしれない。

「えい!」

 思い切り竹包を水面に投げ込むと、大きな水しぶきを上げて湖の奥底まで沈んで行く。

「…ズドン!」

 暫く時間が経つとバクレツ火薬が水中で爆発して、大きな轟音と共に巨大な水柱が立った。

「やったの…ユリィ!無事なの!?」

「…無事じゃないよ!もう少しで丸焦げよ…純白のお肌が真っ黒に焼けるところだったわ…」

「あはは…ごめん」

「よいしょ」

 ユリィは平気そうな様子で水中から出てきて、濡れた片翼を乾かしている。

「沙織ちゃん、何で私に爆弾を投げたの?私の事を嫌いになっちゃったの?」

「違うよ!ユリィがサメの魔物に食べられそうになってたから…助けようとしたんだよ。」

「食べられる?アハハ!それは勘違いね、沙織ちゃん。」

「え…どういう事?」

「あのサメは敵じゃないわ。ドクターフィッシュって知ってる?古い角質を食べてくれる美容に良いお魚なんだけど、彼等もその仲間なの。」

「って事は食べられていた訳じゃなくて…」

「食べてたのは私のお肌よ、おかげでツルツルになったわ♪」

「なんだ…」

「それにほら、見て」

 ユリィが湖を指さしている。水面には先ほどの爆発によって、気を失った湖の魚達が浮かんでいた。

「食べ物が手に入ったわね♪」

「…何か、複雑な気持ち」


ラビットシノビは新しい道具を発見した!

アイテム名 バクレツ火薬入りの竹包

効果 敵に向かって投げると大きな爆発が起きる。

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