144 常識崩壊のピクニック

「何……これ?」


 20代半ばの女冒険者は、目の前の光景が信じられず、目頭を強く押さえていた。


 ルトワラ・マリナヴィタ。

 中原帝国最西部の都市クロイツを根城として活動するAランク冒険者だ。


 中原の西のどん詰まりとも言われるクロイツだが、中央山嶺には多様な魔物が棲息してる。死火山である竜ヶ峰の影響か、火属性の強力な魔物が多く、狩るには危険を伴うが、実力のある冒険者にとっては悪くない稼ぎ場でもあった。


 とはいえ、単なる命知らずではクロイツでは長生きできないと言われている。

 群れればAランクパーティでも壊滅しかねないと言われるファイアウルフ。

 Sランクでなければ逃げろと言われるフレイムロックギガント。

 基本的には無害だが、機嫌を損ねると強力な炎の雨を降らせてくるという炎サボテンフレイムカクタス

 それらの危険な魔物を見分け、不意の遭遇を避ける能力。

 遭遇してしまった場合にはそれまでの獲物を放り捨ててでも逃げ出す見切りのよさ。

 わかりやすくまとめれば、危機管理能力ということになるだろうか。

 遭遇した魔物を漫然と狩っているだけの考えなしの冒険者には備わっていない能力だ。


 ルトワラは鼻の利く冒険者だった。

 といっても、獣人のように物理的に嗅覚が優れているというわけではない。

 事実、ルトワラは人間である。

 ルトワラの「鼻」とは、危険の気配を察知していち早く逃げ出す能力のことだ。

 何かがおかしい。

 漠然とでもそう思ったら、ルトワラは間違いなく引き返す。

 冒険者の中には、それを臆病と笑う者もいた。

 が、ルトワラが引き返した道をそのまま行った冒険者が二度と帰ってこなかったという例は、枚挙に暇がないほどだ。

 ファイアウルフに食い散らかされ。あるいは、フレイムロックギガントに叩き潰され。フレイムカクタスに焼きつくされ。そうして発見された者はまだ幸運だったと言える。多くの者は、どこでどう死んだかすらわからないのだから。


 クロイツの冒険者ギルドのギルドマスターが、ふらりと訪れたSランク冒険者のシェルパに彼女を指名したのも、その「嗅覚」に期待してのことだった。


 ルトワラは、山に入る前から嫌な気配を感じていた。

 火山としては死んでいると言われていた竜ヶ峰が突如活性化したことで、山から感じられる気配は錯綜したものになっていた。


 こんな状態の山には入らないに越したことはない。ルトワラはそう思ったが、誰かが様子を見に行かねばならない以上、それは自分の仕事だとも思った。

 ルトワラはクロイツの街に恩義を感じていたし、この山のことを誰よりも知っているのは自分だという自負もあった。その自負は客観的な評価とも一致しているはずだ。

 Sランクだかなんだか知らないが、どこから来たのかもわからないよそ者に、この難しい山のことがわかってたまるか。そんな意地があったことも否定できないだろう。


 顔合わせの場にやってきたのは、端的に言って子どもだった。

 いや、十代半ばは超えているだろうから、ギリギリ大人と言えなくもない。

 本当にSランクなのかと疑ったが、エドガーと名乗った少年が妖精を連れているのを見て、ひとまずは納得しておくことにした。エドガーは、少々ぼんやりしたところがあるような気もするが、その物腰はルトワラから見ても隙のないものだった。


 山に入る準備を整えて、少年と妖精とともにルトワラは中央山嶺へと足を踏み入れた。

 1時刻も行かないうちに、これは相当ヤバいと思い始めた。

 ルトワラは警告する。

 悪いことは言わない。様子を見るにも危険過ぎる。今日のところは引き返すべきだと。


 ギルドマスターも、エドガーに対し、シェルパであるルトワラの言うことに耳を貸すよう要請していた。

 だから、ルトワラは自分の警告が受け入れられることを疑ってもみなかった。


 が。


「大丈夫。こっちでなんとかするから、先に進もう」


 エドガーはあっけらかんとそう言った。

 ルトワラは激怒した。

 山ではシェルパに従うものだ。

 たとえSランク冒険者だろうと、この山に棲む強力な魔物に単体で対抗することは不可能だ。

 そう言い募るルトワラに、


「何かあったら俺が守ります。もしどうしても進みたくないというなら、ここまででも結構です」


 ふざけんじゃないわよ! そう言いたくなったが、ぐっとこらえた。

 相手はSランク冒険者だ。腕に自信もあるだろう。そのプライドに逆らってもいいことはない。

 本当に危険になったら迷いなく逃げ出すことを固く約束させ、ルトワラは襲い来る悪寒と戦いながら山道を案内する。


 感心させられたのは、エドガーという少年の体力だ。

 ルトワラでさえ、空気の薄くなる山中での行動は疲労との戦いだ。にもかかわらず、世間話では貴族の生まれだという少年は、息ひとつ荒らげる様子を見せない。むしろルトワラの方が先に疲れて、休憩を要求することになってしまった。

 少年はバツが悪そうに言った。


「忘れてた。普通の人は疲れるんだったな」


 まるで自分は疲れることなんてないと言わんばかりの言いように、Sランクの傲慢を感じる。Aランクのルトワラはいい気分がしなかった。


 休憩が終わる。

 動き出そうとしたところで、妖精――メルヴィが声を上げた。

 と同時に、ルトワラの「鼻」も異常を感じていた。

 が、それをエドガーに伝える必要はなかった。彼もほぼ同時に異常を感じ取ったらしく、あたりに油断のない視線を向けている。

 挙句、


「ルトワラさんの鼻は大したもんだね」


 などとうそぶくから腹が立つ。


 襲ってきたのはファイアウルフの群れだった。

 ファイアウルフは単体ではBランクとされるが、一人狼ローンウルフなど滅多にいない。大多数は群れで行動している。冒険者がパックと呼んでいるその群れは、通常6から8体のファイアウルフによって構成されていた。パックはかなり高度な連携行動を取ってくるため、その脅威度はSランクとも言われている。

 つまり、通常の冒険者であれば出くわした瞬間に逃げ出すべき相手だ。


 とはいえ、ここにはSランクの冒険者と、その連れだという妖精がいる。

 ファイアウルフの1パックであれば、なんとか処理することができてもおかしくない。


 が、


「2……いえ、3パックいる!?」


 ルトワラが緊張した声を上げる。

 3パック――18体から24体。普段は行動をともにするはずのないファイアウルフのパック同士が連携している。

 ルトワラが山に入り始めて以来、こんな事態は初めてだ。


「ほんと、大したもんね。正確には、火属性の狼型の魔物が合計で21体いるわ。3グループに分かれてるわね」


 メルヴィが淡々とそう言った。

 が、その内容にルトワラは驚く。いかに妖精とはいえ、正確にファイアウルフの数まで指摘していたからだ。


「ならわかるでしょう!? 撤退しましょう!」


 ルトワラが提案するが、エドガーとメルヴィは顔を寄せあって話していて聞いていない。

 その内容に耳を澄ませて、ルトワラは硬直した。


「どっちがやる?」

「数が多いから面倒よね。ジャンケンで決めましょう」

「よし、ジャンケン、ポン」

「……負けたわ」

「じゃあ、メルヴィの担当で」

「アスラがいれば一発だったんだけどね」

「ああいう群れ系の魔物は威圧するだけで従えられるからな、あいつ」


 気楽に話しながら、メルヴィが前に出た。

 その動きが引き金になった。

 ファイアウルフの第一波がルトワラたちに襲いかかる。

 その狼たちの目の前に、虚空から小さな箱が出現した。

 第一波の狼たち1体1体の前にひとつずつ、である。


「――スペル開放:《アブソリュート・ゼロ》!」


 メルヴィの声とともに、小さな箱が青く光った。

 箱から猛烈な冷気が噴き出した。

 数メテルは離れているのに、凍えそうに感じるほどだ。

 冷気の生み出した霧が晴れる。

 そこに残されていたのは、氷漬けになったファイアウルフたちだった。


 ルトワラが驚いている間に、ファイアウルフの第二波が襲ってくる。

 が、それはファイアウルフの氷像を何体か追加したに過ぎなかった。


 立て続けに仲間がやられ、ファイアウルフたちが狼狽する。

 そのファイアウルフたちの前にも小箱が現れる。

 次の瞬間には残りのファイアウルフたちもすべて氷漬けになっていた。


「何……これ?」


 ルトワラが呆然とつぶやいた。



 ◇


 ルトワラさんのおかげで、俺たちの登山は順調に進んでいた。

 山の空気が美味しい。竜ヶ峰の頂上から細い噴煙が立ち上っているのが見えるが、噴火したというわりにはその量は少なく見える。それどころか、空は綺麗に晴れ上がっているくらいだ。

 俺はつい、上機嫌で足を早めてしまい、ルトワラさんに休憩がほしいと言われてしまった。


「忘れてた。普通の人は疲れるんだったな」

「レディにはちゃんと気を使いなさいよ!」

「メルヴィだって忘れてたろ」


 メルヴィと掛け合いをやりながら休憩を取る。


 休憩、という概念が、ここ数年よくわからなくなってきた。

 俺は【不易不労】で疲れない。

 もちろん、前世の経験で人間は疲れるものということはわかっているし、「疲れ」の感覚も知ってはいる。

 が、この世界に転生してから早17年。その間疲れることがなかったものだから、前世ではしょっちゅう実感していたはずの疲労の感覚を忘れつつあった。

 レベルアップによる成長や、転生者・杵崎亨を倒したご褒美で「アトラゼネク神族」とやらにされたことも相まって、どんどん人間離れしてきたような気がする。


 そんなわけで、休憩と言っても、どれくらい休めば回復するものなのかがよくわからない。

 ルトワラさんの様子を見て、大丈夫そうなことを確認してから立ち上がる。


 と同時に、周囲を魔物に囲まれつつあることに気づく。


「メルヴィ」

「わかってるわ」


 その後、メルヴィと相談の結果、現れた魔物の相手はメルヴィに任せることになった。

 メルヴィはアルフェシアさんの作ったスペルボックスを使った。

 20体を超えるファイアウルフが分子振動を停止させる凍結の魔法によってこちこちになる。

 魔物だけに、氷が溶けたら動けるかもしれない。メルヴィは念のため、氷のつぶてで狼たちの頭を撃ち砕いていた。身体の芯まで凍っているらしく、狼たちの頭は衝撃で粉々に砕け散っていく。


 何やら顎が落ちそうなほど驚愕しているルトワラさんに確認すると、ファイアウルフの毛皮は耐火性のあるよい素材になるそうだ。俺とメルヴィで手分けして、次元収納にしまうことにした。ルトワラさんがまた驚いている。


 最近、俺は力を隠すことをやめていた。

 転生者であることは既に知る人ぞ知る事実となっている。

 それなら多少・・隔絶した実力を見られてしまっても今さらだ。

 実力を見せつけることで、身内に危害を加えようという気を起こさせないという狙いもある。もっとも、俺の身内も、俺ほどではないにせよ大概チートな能力の持ち主ばかりとなっているので、俺がかばってやる必要があるのかというと微妙なのだが。

 ……また、だからこそこうして夜逃げ同然の旅に出られたとも言える。


 その後、山道を進む度に、ルトワラさんから「嫌な予感がする」と言われたが、俺とメルヴィはそれを無視して進んでいく。

 やがてルトワラさんも諦めたのか、俺たちに何も注意しなくなった。……悪いことをしてしまったかもしれない。



 ◇


 エドガーが、フレイムロックギガントと対峙する。

 見えたら逃げろと言われるSランクの魔物だが、ルトワラはもはや注意する気にもならなかった。


 ファイアウルフを退けた後も、エドガーとメルヴィは快進撃を続けていた。

 いや、彼らにとってはそれは快進撃ですらない。普通のことだ。しごく当然のことであるかのように、クロイツの冒険者が裸足で逃げ出すような魔物の群れを蹴散らしていく。麓へ逃げられることを嫌って、1体も逃さず殲滅する念の入れようだ。


 そして、ついに現れた。

 この山のヌシとも呼ばれる強力な魔物――フレイムロックギガント。

 簡単にいえば、身の丈4メテル近い溶岩の巨人、ということになる。

 見た目では鈍重そうだが、身体が大きいぶん歩幅が広く、見つかってから逃げ切るのはレベルの低い冒険者には難しい。さいわい、索敵能力が高くないので、見つかる前に見つけ、接敵せずに逃げ出すのがギルド推奨の対応策だ。なお、逃げ帰った後は、ギルドに見かけた場所を通報することが義務とされている。


「随分低いところまで降りてきてるわね……」


 ルトワラのつぶやきに、珍しくエドガーが反応する。


「なるほど、普段はもっと高いところにいるのか。まぁ、こんなのが低いところにいたら山に入れないよな」

「火山が噴火した影響かしらね」


 相変わらずのんきなやりとりをする少年と妖精。


「今度はエドガーの番ね」

「しょうがないな。放置して、麓まで降りてこられたら厄介だ」


 エドガーの言葉に、ルトワラは青くなった。

 たしかに、この強力な魔物がクロイツの街のそばまで降りてくることがあったら大変だ。

 珍しくまともなエドガーの言葉にルトワラが深く頷く。

 が、その次の瞬間に、少年はまたも信じがたいことを言った。


「じゃ、さくっとやってくる」


 さくっと、やって、くる?

 ルトワラは思考停止状態に陥った。



 ◇


「――来い、フレイムロックギガント!」


 足元の手頃な石を投げつけて、俺はフレイムロックギガントを挑発する。

 溶岩の巨人がこちらを向く。俺をロックオンしたらしく、フレイムロックギガントが地響きを立てて迫ってくる。

 この距離からでも十分やれるが、あえて魔法は使わず、フレイムロックギガントを待ち受けた。

 風を引きちぎって放たれる拳。

 俺は、その拳をめがけて自分の拳を突き出した。

 巨大な溶岩の拳と俺の拳がぶつかり合う。普通だったら拳がやられるどころか身体ごとぺちゃんこにされているだろう。が、〈スピリチュアルエルダー〉による錬気が俺の拳を鋼以上に硬いものにしている。


「思ったより硬いな」


 俺はつぶやきながら身をひねり、背中からぶつかるようにして、フレイムロックギガントに重い肘を叩き込む。

 フレイムロックギガントが飛び跳ねた。いや、俺の攻撃で弾き飛ばされたのだ。

 そこここに突き出している岩を砕きながらフレイムロックギガントが転がっていく。

 優に20メテルは転がって、フレイムロックギガントが停止した。

 が、


「……おっ。まだ動けるのか」


 フレイムロックギガントは思ったよりも頑丈だった。

 さっきの攻撃でも、肘の入った箇所を中心に亀裂が走っているだけで、身体自体は無事のようだ。


 とはいえ、時間をかけてもしょうがない。


 俺は手のひらに生み出した闇色の球体をフレイムロックギガントに投げつける。


「――闇よ、押し潰せ」


 俺の声とともに、闇の球体が膨れ上がる。

 と同時に、それは質量を増していく。

 フレイムロックギガントは増し続ける質量に耐えられず、足から順に潰れていく。腰が砕けた時点で上半身が倒れ、頑丈な胸郭や頭が地面と重力球に挟まれて潰された。

 俺は魔法を解く。……解かないと、俺のMPが続く限り大きく重くなってくからな。


「おつかれー」


 メルヴィが声をかけてくれる。

 俺は首をひねりつつ、


「……うーん」

「どうしたの?」

「まぁ、こんなもんだよな」


 今の戦い、近づかせる前に終わらせることもできた。

 近づいた瞬間に終わらせることもできた。

 それぞれ、十通り以上の方法がある。

 あえて練度の低いもので戦ってみたのだが、結果は見ての通り圧勝だった。

 ……言っとくが、自慢ではない。

 退屈、なのだ。

 ここ十年、刺激的といえる戦いは数えるほどしかなかった。

 そりゃ、そんな戦いがしょっちゅうあったら大変なのだが、一方的に「処理」するだけの戦いばかりでも困る。


 ……今のステータスを見せておこう。


 エドガー・キュレベル(キュレベル公爵家四男・南ミドガルド連邦貴族・南ミドガルド連邦特任大使・魂と輪廻を司る神アトラゼネクの眷属・冒険者(Sランク)・《赫ん坊ベイビー・スカーレット》・《底無しのオロチ》・《交渉者ネゴシエーター》・《竜を退けし者ドラゴンバスター》・《妖精の友》・《精霊魔術師》・《阿弥陀様の遣い》・《導師グル》・《びっくり箱野郎》・《悲劇の英雄》・《〔キュレベル家の〕鬼子》・《迷探偵》・《不殺の征服者》・《帝国の救世主》・《百超殺し》・《大物殺し》・《連邦の切り札》・《あいつを見たら逃げろ》)

 17歳

 人間/アトラゼネク神族


 レベル 92(↑29)

 HP 872/872(372+500、↑545)

 MP 81859/81859(79859+2000、↑48558)


 クラス

 〈スキルシーカー〉B(エドガー・キュレベルの専用クラス。未知のスキルを発見しやすくなる。スキルレベルの上昇にランクに応じた強力な補正がかかる。ランクごとにHPに+100、MPに+400のアッドがつく。全スキルに対する現在のコンプ率73.9%。)


 派生クラス

 〈マギ・アデプト〉A(エドガー・キュレベルの専用クラス。カンスト済みのすべての魔法系スキルを統合したもの。〈スキルハンター〉の下位派生クラス。)

 〈ウェポンマスター〉A(エドガー・キュレベルの専用クラス。カンスト済みのすべての武技スキルを統合したもの。〈スキルハンター〉の下位派生クラス。)

 〈スピリチュアルエルダー〉A(エドガー・キュレベルの専用クラス。カンスト済みのすべての斥候系、感覚系、身体操作系スキルを統合したもの。〈スキルハンター〉の下位派生クラス。)

 〈インベンター〉C(エドガー・キュレベルの専用クラス。カンスト済みのすべての製作系スキルを統合したもの。〈スキルハンター〉の下位派生クラス。)


 スキル

 ・神話級

 【不易不労】- 

 【スキル魔法】-


 《善神の加護+3(アトラゼネク)》

 《善神の加護+2|(カヌマーン)》

 《善神の祝福(アトラゼネク)》


 まだクラスのカンストこそ見えていないものの、俺の戦い方はほぼ完成したと言っていいだろう。

 結局、俺はスキルやクラスをひとつに絞ることはしなかった。

 代わりに、器用貧乏路線をとことんまで煮詰めることにした。

 おかげで、どんな相手と戦うことになっても、相性のよい攻撃手段を選ぶことができる。

 これは、格ゲーでいえば「キャラかぶせ」(相手のキャラクターに合わせて相性のいいキャラクターを選ぶこと)に当たる。格ゲーにおいては興が削がれるという理由で嫌われるキャラかぶせだが、逆に言えばそれだけワンサイドなゲームが作れる手段だともいえる。ゲームと違って現実では敗北は死を意味する。いい勝負を演出することより、確実に勝てる手段を講じることを優先するのは当然だ。


 とはいえ、そのせいで今の倦怠があるのだと思う。

 今回の旅で、この倦怠を吹っ飛ばせるような「何か」が見つかればいいのだが……。


 フレイムロックギガントの死骸を前に呆然としているルトワラさんを見ながら、俺の瞳は何物も映していないようだった。

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