13 金のギフト、銀のギフト
「これは、悪神の使徒だったゴレスから解放されたカースをわたしが浄化したものよ。
HPやMPにアッド〔加算〕されていたカースも浄化を試みたんだけど、もともとゴレスの寿命を削って強引に付加したものだから、あなたに与えられる形にはできなかったの」
「……これは、どちらもいらないと言ったら両方もらえるのか?」
「そうしてあげたいのはやまやまだけど、使徒ともなると浄化にも力を取られてね。あげられるスキルはどちらかになるわ」
【付加魔法】と【タフネス】か。
どちらかだけだというのなら、
「じゃあ【付加魔法】で」
俺は魔力の渦に手を伸ばす。
渦はゆっくりとほどけながら俺の身体へと吸い込まれていく。
【タフネス】は女神が両手でこねるように押しつぶし、ビー玉ほどのサイズに圧縮、口の中に放り込んでしまった。
【タフネス】は、攻撃を受けてもよろめかないみたいな部分はあるにせよ、基本的には【不易不労】の劣化版だからあまり惜しくはない。
よろめかないだけでダメージはきっちり受けるのだから、幼児の役に立つとは思えないしな。
「それと、《悪神の呪禍》のことね。あれも浄化はしたけれど、スキルやステータスのギフトにすることは難しいから、《善神の加護》の強化に使わせてもらうわ」
女神は俺に顔を近づけると、俺の頬にキスをした。
といっても、こっちは赤ん坊の姿だ。かわいくてついキスしちゃった女の人の図を出ないけどな。
【鑑定】。
《
エドガー・キュレベル(キュレベル子爵家4男・サンタマナ王国貴族・《
レベル 1/31(レベルアップ待機状態)
HP 63/63
MP 752/752
状態 成長眠
スキル
・神話級
【不易不労】-
【インスタント通訳】-
・伝説級
【鑑定】9(MAX)
【データベース】-
・達人級
【物理魔法】5
【付加魔法】1
【魔力制御】4
【無文字発動】5
・汎用
【投槍技】1
【火魔法】1
【水魔法】1
【風魔法】1
【地魔法】1
【光魔法】1
【念動魔法】9(MAX)
【魔力操作】9(MAX)
【同時発動】9(MAX)
《善神の加護+1》(魂の輪廻を司る女神アトラゼネクの加護。魂の成長を促進する。全スキルの習得条件解放、スキルの習得・成長に中補正。)
》
ふむ。
たしかに加護が強化され、スキルの習得・成長補正が中になっている。
【付加魔法】は、ゴレスが使っていた時はカンストしてたと思うんだが、こっちではレベル1に戻ってるな。
ギフトは本人の技術と融和してはじめてスキルになるわけだから、【付加魔法】の経験がない俺に与えてもレベルは1からスタートになるわけか。
……あと、さっきは気づかなかったけど、地味に【投槍技】が加わってるな。
ゴレスの槍を【物理魔法】で投げ返したせいだろうけど、あれでも槍を投げた扱いになるのか。
どこまでが「槍投げ」にカウントされるのか、実験してみるのも楽しそうだ。
「さて、こんなところかしら? 何か質問はある?」
何かあったかな。
こんな機会なかなかないと思うから聞けることは聞いておくべきだ。
「通り魔の転生先や
「ええ。ごめんなさいね。ただ、あなたと同じように赤児として転生してることは確かだから、まだ猶予はあるはずよ」
「《
「それは二つ名ね。取得条件は、一定数以上の人が畏怖を込めてその名を口にしたこと。あなたの場合は砦の騎士たちの間で噂になっているようよ」
「この成長眠はどのくらい続くんだ?」
「普通の人ならレベル×3時間ほど。あなたの場合は【不易不労】が働くからレベル当たり10分というところね」
レベルが30上がるから、300分――5時間眠っていることになるわけだな。
「10分というのは、MPが枯渇して気絶した場合と同じ長さと考えていいのか?」
「鋭いわね。その通りよ。
ただし、MP枯渇による最大値の上昇は、《善神の加護》《悪神の呪禍》を持っているか、魔力に関する二つ名を持っている人にしか起こらないわ。
あなたの身近なところでは、あなたやあなたのお母さんは最大値が上昇するけれど、あなたのお父さんは無理ね」
「スキルのレベルが上がった場合にも、成長眠が必要なのか?」
「場合によっては必要になることもあるけれど、基本的には、夜の睡眠中にスキルの更新が行われると思ってくれていいわ。
あなたの場合は、眠る必要がないから、起きている間に同じ処理を【不易不労】のスキルが行っているわ」
「っていうか、そもそも『眠る必要がない』ってどういうことなんだ?
前世では、ある程度以上複雑な生物になると、睡眠は絶対に必要だって聞いたと思うが」
「あなたの場合は、睡眠中に脳内で行われる、記憶の整理や脳の休養といった、生き物には欠かせない機能を、スキルの効果によって代替しているわ。
詳しいことは……説明のしようがないわね。
あなたの元いた世界から、一番優秀な脳科学者を連れてきたとしても、一ヶ月や二ヶ月じゃ理解できないでしょう」
「戦闘中に成長眠が起こって、寝入ってしまう危険はないのか?」
「戦闘中は成長眠が訪れにくいようになっているから、戦っている間に眠ってしまうようなことはないわ」
「俺以外に、善神側の転生者は存在するのか?」
「いないわ。異世界から魂を転生させることができるのはわたしだけ。それも、力を大きく消費するから滅多にはできない。悪神との戦いの趨勢にもよるけれど、今後十年はできないと思ってくれていいわ。
ただ、それとは別に、他の神の加護を受けている人間は存在するはずだから、見つけたら話しかけてみるといいわ」
どうやって見つけるのか、と聞こうとしたが、少し考えたらわかった。
【鑑定】を使って、ステータスに《善神の加護》がある者を探せばいいのだ。
「じゃあ、他の神の加護を受けた人間は、こちらに友好的だと思っていいのか?」
「基本的にはそうよ。ただし、神に気に入られるような人間だから、一癖も二癖もある人たちだと思っておいた方がいいわね」
そりゃ楽しそうだ。
「スキル上げには何かコツのようなものはあるか?」
「もうわかっていると思うけど、平時に使うより戦闘時に使った方がスキルの上がりが早いわ。
ギフトの都合上、スキルレベルが上がった直後はスキルの使用感が変わるから気をつけること。
平時のスキル上げとしては、あなたがやっているとおり、同じことをひたすら繰り返すというのは実は有効な方法ね。
ただし、たまには視点を変えて、別の修行方法を模索することね。新しい発見があることもあるわ。
まあ、その辺りはあなたの元いた世界で技術を身につけるのと変わらないと思っていいわよ」
そんな質疑をしていると、俺の身体がすっと透明になってきた。
「……そろそろ時間ね。
今回はゴレスの件があったから成長眠に割り込んだけれど、普段はこういうことはできないわ。
もしわたしと連絡が取りたくなったら、わたしの神殿に通って【祈祷】スキルを習得してちょうだい」
神殿はスキルの宝庫よ、と聞き捨てならないことを言う女神様。
俺の身体はますます透明になり、惑星の重力に引っ張られてマルクェクトへと落下していく。
――助かった、と言ったが、聞こえたかどうかはわからないな。
◇◆◇◆◇◆◇◆
浅く眠っている時とかに、急にがくんと落ちるような気がしてハッとなることがあるだろう?
アレだアレ。
「ふぎゃっ」
と変な声を出しながら、俺はベッドの上で目を覚ました。
昨日も寝た、アルフレッド父さんの砦内の居室だった。
鉄格子のはまった小さい窓から見える空はもう暮れかかっている。
「あれあら、ほじかんか」(あれから五時間か)
成長眠から目覚めた俺が、もぞもぞいう気配を感じて振り向くと、そこにはジュリア母さんが幸せそうに眠っていた。
【鑑定】。
《
ジュリア・キュレベル(キュレベル子爵夫人・《炎獄の魔女》)
20歳
レベル 47/51
HP 89/89
MP 270/270
状態 成長眠
スキル
・達人級
【火精魔法】6
【魔力制御】4
・汎用
【火魔法】9(MAX)
【水魔法】3
【風魔法】3
【地魔法】2
【光魔法】3
【念動魔法】3
【魔力操作】5
【魔力感知】6
【同時発動】4
《火精の加護》(火の精霊の加護を得られる。火属性魔法の効果・範囲に補正、火属性魔法スキルの習得・成長速度上昇)
》
なんかまた強くなってるんですけど!
いつのまにか《火精の加護》とかついてるし。
それはともかく、ジュリア母さんの成長眠は(51-47)×3時間で12時間かかる計算になる。
俺と同時に寝たと仮定すると、残り7時間だな。
俺は窓が小さいせいで薄暗い部屋の中で身を起こし、ベッドから地面に降り立った。
……ん?
今、何かおかしくなかったか?
なんとなく俺は自分の身体を見下ろし、絶句した。
「せ、せひちゃうしてる!」(せ、成長してる!)
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