第34話 重大発表

 きょうは、いつもと違う形で、みなさんにお話したいことがございます。何となく勘づかれた方もいらっしゃると思いますが、どうか最後までご覧いただければと思います。


 順を追って、まず、お詫びをさせていただきます。一部で報じられ、ネット上でもご批判を受けた件ですけれども、私の母が経営する二宮メディカル・ホスピタリティは今般、意図的な所得隠しが行われていたとの税務当局の指摘を受け、重加算税の納付を命じられる運びとなりました。


 また内部の方が動画を投稿し告発されていますが、法人が積み上げてきた利益の一部を私的に流用するという不適切な会計処理を行っていたことも発覚しています。私自身、その恩恵に預かっていた身であり、軽率な振る舞いがあったと深く反省しております。誠に申し訳ございませんでした。


 今回の事態を重く受け止め、私ことにょほりんは、今日限りでユーチューバーを卒業させていただきます。長きにわたりご覧いただき、本当にありがとうございました。


 色々な方と出会うことができ、私自身、すごく成長することができて、感謝しかありません。私の活動をサポートしてくださったマネージャーや事務所のスタッフの皆さんにもお礼を申し上げます。


 私はこの先、動画投稿とは別の世界で活躍していきたいと考えています。皆様のお目に掛かれるのはこれで最後になります。皆様のご活躍を心よりお祈り申し上げます。ありがとうございました。


         *


 黒髪の二宮麻友が吹っ切れたような表情をして、手を振っているのを、山崎はスマートフォンで観ていた。


 新幹線はちょうど静岡を通過したところだった。動画に誘導するURLが貼り付けられたショートメッセージには、共同企画が実現できなかったことを悔やむ気持ちと、仕事に対する誠実な姿勢への尊敬と、生意気な自分にも分け隔てなく接してくれたことへの感謝の言葉が綴られていた。


 《本当にお疲れ様。にょほりんってこれからも呼んでいいのかな?》


 すぐに麻友からの返信が来た。


 《これからもこうしてやり取りができるのだと考えると、胸がいっぱいです。二宮でもいいですし、にょほりんでもいいです。お好きな方をお選びください》


 黒髪の女性はやはり、それまでの自分のライバルとは違う人間のように思える。


 《じゃあ二宮さんにするね》

 《なんだか新鮮ですw》

 《動画で別の世界で活躍すると言っていたけど、もしかしてもう決まっているの?》

 《今はまだ内緒ww》

 《なんだそれ。まあいいや。今度飲もうよ。その時に聞くよ》

 《もちろん! 楽しみにしていますねー‼》


 車窓の漆黒に工場の灯りが箒星のように過ぎていく。3日後の最終面接を経て採用されれば、自分だって活動終了の報告を行うことになる。


 雑菌に侵された樽が空になり、解体される。洗浄、成型、研磨工程を経た木材が家具になったり、建材になったり、あるいは樽そのものに再生したりするように、自分も二宮も、メンテナンスの時期に差し掛かっていただけなのだろうと山崎は考えていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る