東アジアと日本

 江戸時代、武士は喧嘩両成敗であった。

 忠臣蔵の浅野氏と吉良氏では、江戸城松の廊下で浅野氏が吉良氏に切りかかり、取り押さえられ、即切腹と相成った。

 当時であれば、両者に罰が下るはずなのに、お咎めは浅野氏のみであったのだ。

 浅野氏と吉良氏の確執が、吉良氏が浅野氏に入り浜式塩田の製法を願って断られたという説もあるが、この話が出てきたのが昭和になってからであり、根拠となる証拠が薄い事から、原因とは考え難い。

 私としては、吉良氏に虐め・恥をかかされたと逆恨みした、我慢の利かない短気な浅野氏が、突発的な行動に及んだとみている。

 これも実際には証拠が無く、吉良氏が浅野氏に何らかの不利益を与えた事実は、証明されていない。


 まあ、3000石の旗本の吉良氏(名君として地元で有名)が、5万3000石の大名の浅野氏(情緒不安定で奇行の目立つ放火魔)の上司であるのが気に入らなかっただけかもしれない。

 そこに、何らかの指摘や指導が加われば……。


 吉良氏がお咎めが無かったのは、喧嘩両成敗とはいえ被害者であり、家格が高いことがあげられる。

 室町幕府では、足利将軍家に次ぐ家格であり、「御所(将軍)が絶えれば吉良が継ぎ、吉良が絶えれば今川が継ぐ」という言葉を残すほど有名な家だ。

 所領は三河にあり、徳川とも遠い血縁関係であった。

 そういったもろもろが有り、お咎めが無かった理由かもしれない。

 

 さて、赤穂浪士が義士として語られているが、私は別の見方をしている。

 実は、就職活動のデモンストレーションではないかと見ているのだ。


 前話で、武士が困窮していると話した。

 武士が余っている中で、浪人の再就職は難しいなんてものではないのだ。

 ある話によれば、3年間毎日欠かさず登用の挨拶回りをして、漸く採用されたことがあるらしい。

 この話、裏を返せば、門前払いされないだけの一角の人物が、3年間も頭を下げ続けて、漸くチャンスを掴んだという事だ。

 余程自分に自信があり、周りに支えられていなければ、出来ない事である。


 江戸時代、仇討ちという制度があった。

 これは喧嘩両成敗を補完するような制度である。

 基本的に、親(夫婦の場合は夫も可・上の兄弟も可)の仇を子(夫婦の場合は妻も可・下の兄弟も可)がとる慣わしである。

 逆の妻の仇を夫がとるなどは許されず、仇討ちの仇討ちなども禁じられていた。

 真に敵を討ち、復讐したいと思うのなら、遺恨を解消するのに、良い制度なのかもしれない。

 武士は体面が大事であり、敵を討つのは誉と称賛されていた。

 逆説的に言えば、仇討ちに行かないのは、武士としては体面に係る事で、家の面目が保てないのである。 


 赤穂浪士の討ち入りは、仇討ちとされている。

 ところが、厳密には仇討ちの要綱を成していない。

 仮に、広島の本家に預けられていた、弟であり養子であった浅野大学であれば、問題なかったのかもしれない。

 これより以前にも似たような事件があり、一時は罪に問われて島流しにされるも、許されて、再就職した事例がある。

 しかし、この許された事例では身内が率いていた為、仇討ちと認識されたのだ。


 赤穂浪士の様に、元藩士が主の仇を討つケースはこれまでなかった。

 主導した大石内蔵助が、一貫して仇討ちだと唱えても、仇討ちとは認められなかったのである。

 私が、赤穂浪士を就職活動と見ているのは、参加した人間が不自然だからだ。

 大まかには、戦場で殿の護衛役の馬廻衆と世話役の中小姓、若手の下級武士に分類できるのだ。

 前者は浅野氏と面識があるだろうが、後者は面識はないであろう。

 家老であった当時の大石内蔵助にすら、面識がったのかすら疑わしいのだ。

 そう考えると、前者は主ありきの潰しの利かない職で、面目を立てなければ、再就職など難しかったのであろう。

 後者は、そもそも下級武士なのだから、再就職しようにも上記で上げた一角の人物ではなく、門前払いされる方に当たる。

 売名行為の宣伝であったとしか思えないのだ。




 ここまで、忠臣蔵をテーマに語ったが、これはついでなのだ。

 本題は武士の世が、喧嘩両成敗であったことだ。

 

 ある実話なのだが、ある藩にA君とB君の同期の同僚がいた。

 A君は剣の腕も立ち、学問も優秀で、上司の覚えも良かった。

 それに比べれば、B君はA君より全てに劣っていたのだ。

 B君は腐らず努力し続けたが、結局A君に勝るものは無かった。

 それどころか、ライバル視していたのはB君だけで、A君はただの同僚としてしか見ていなかったのだ。

 そんな状況が続くと流石のB君も折れる。

 劣等感に潰れてしまったのだ。


 ここからが不思議な話で、武士の世界の怖い所だ。


 結局、B君は切腹して果ててしまった。

 現代なら自殺になるのだが、当時であれば事情が変わる。

 切腹にもいろいろ種類が有り、B君の切腹は「差腹」と呼ばれるものであった。

 これが、士道の喧嘩両成敗に繋がる。

 つまりは、「俺が腹を切ったんだから、お前も腹切れよな」となるのだ。

 自爆技の復讐であった。

 これ、A君にとっては寝耳に水で、同僚が切腹して死んだと聞かされ、A君も切腹して死ななければならないのだ。

 理不尽極まりない事態である。




 これに近い事が今、日本にも起きようとしている。 

 中国と台湾の関係が、正にそれだ。


 中国の軍は「人民解放軍」という。

 人民とは、中国人をさしている。

 そもそも、この軍が組織されたのは、時の政権を打倒する為である。

 政権の打倒は成功したものの、主導部を台湾に逃がす結果になってしまった。

 今なお名称を変更していないのは、いつか台湾を解放(占領)することの表れでもあった。

 

 さて、ここで困るのがアメリカだ。

 中国が台湾を取る事は、東アジアの安寧が、脅かされてしまう事に繋がるのだ。

 さらに、今日の台湾は、半導体のシェアナンバーワンの国である。

 今の政治において、半導体は強いカードとなる。

 中国の生産はシェアの10%にも満たない。

 中国企業による引き抜き合戦も、激しさを増している。

 (サイバーテロによる、企業の情報を抜かれる中には、技術者の名簿であることも多いらしい)

 今の台湾は中国にとって、2重の意味で美味しい島なのである。




 かつての日本も半導体では有名であったが、今では20年は遅れた技術しか持ち合わせていない。

 政府は慌てて、九州に台湾企業の半導体工場を誘致する為に8000億円を掛けたが、この工場で作られるのは10年は前の技術でしかない。

 バブル崩壊で企業が投資を渋り、内部留保を続けた結果とはいえ、なんともお粗末な結果となったものだ。


 閑話休題




 台湾防衛となればどこが動くか?

 日本駐留の米軍が動かざるを得ない。

 日米安保が有るが、これは日本の防衛だけではない。

 アメリカは東アジアの安寧の為に、日本に駐留しているに過ぎないのだ。

 否応なしに、日本も戦渦に巻き込まれるのは目に見えている。


 ここで問題なのが日本の対応である。

 現状の日本の憲法のままでは、攻撃されるまで攻撃できないのだ。

 それも、防衛に特化している装備ですら、攻撃されても確実に防衛が可能とは言い切れない。

 これに危機感を持たず、対岸の火事だと思ってたら、実は当事者だったという事になりかねないのである。

 正にA君の心情と同じであるだろう。

 

 

 

  





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