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全員の動きが止まり

視線がオヤジに集まる


相手の男はビビって震えている

本千歳組の組員たちも動揺している様子

オヤジはその中で偉そうな男に目を向ける

「ここいらで引き下がっちゃくれねーか?今日は気分が悪いんだ...。今ひけねーってんなら、こっちはとことんやるぞ」

ギロっと睨みつけながら脅すオヤジに

向こうもマズイと思ったのか

「あ...あぁ、今日はこのくらいで良いだろ。おらおめーら!さっさと仕事しろぉ!」

っとそそくさとBARに入っていった


さすがは松組の頭

「ははっ!アイツら完全にオヤジにビビってましたね」

「あー、うちの頭に手を出すなんてバカなことするよな」

「ちげーねえ。松組じゃ未だ1番つえーのは頭なのにな」

気分を良くした組員達が次々に言う

仕事はなくなったが、鬱憤が少しだけはれた松組は笑いながら帰路につく


ただ

BARに入っていった本千歳組の1人が、直ぐに松組の後をつけていくのを、オヤジ達は気づかなかった



昭和らしい和風の家

ただ20人以上住めるほどの立派であり庭も広い

木々も多く生え、池もある

玄関は木の門で大した構えだ

帰路に着いた松組は全員で夕食をとる

広い畳の部屋で、テーブルを囲って笑いながら食べている組員

質素な料理だが誰も文句は言わない

いつもと違うことといえば、その中に翔の姿はないことだ

普段は必ず一緒に食べているのだが

学校を辞めた日からあまり部屋から出てこなくなった



夕食を早々に食べ終えたオヤジは

1人席を立つ

「......煙草を買ってくる、悪いが1人で行かせてくれ」

オヤジはみんなにそう言い部屋を出ようとする

すると組員の1人が

「あ!頭(かしら)は休んでてくださいよ。俺が行ってき...」

と言おうとするが他の組員が止める

「おい!やめとけ。頭(かしら)......気をつけて行ってください」

組の存続が危うくなった今

この先のことを、組のトップとして考えないといけない

もちろん家族のことも

頭も色々考えたいんだろう....っと分かるため

止めたのだった

「す、すいません。出過ぎた真似を。

頭(かしら)気をつけて行ってください」

普段なら一人ででかけるのは組員が許さない

常に頭のことを考える組員にとっても今日は何も言わなかった



「ああ、悪いな」

そう返し、玄関に向かう

その途中に翔と会った

「あれ?オヤジどこか行くの?」

まだ何も知らない翔は軽い感じで問いかける


「あー翔か。ちょっと煙草買ってくるだけだ」

「オヤジがか?誰かに行かせりゃいいじゃん」

「いや、少し歩きたくてな」

「ーそっか、気をつけてな」

いつもと違う雰囲気に疑問をもったが、そのままながした

そんなゆるい掛け合いを終え靴を履くオヤジは振り返り翔の背中を見た

数秒見て、ゆっくりと玄関を出ていった




歩いてコンビニに向かう途中

オヤジは歩きながら先のことを考えていた



はーっとため息は無意識に出る





狭い路地を曲がり、もうすぐコンビニが見えてくる




そして...



グサッ




背中のすーっと冷たく感じる


何かと把握する前に耳元で

「兄貴が、許さねーてさ」

そんな言葉が聞こえた


振り向くと人の影が見えたが暗い路地の奥に消えていった


背中を触ると手が液体で濡れる


はぁーーー。

こんな時でもため息が出る...


「しくったな...」

その液体が血だと分かると、次は背中から焼けるような熱さが襲ってくる




すまん...翔...


ドサッ!



薄れゆく意識のなか、まぶたが閉じ

目の前には小さい頃の翔が成長していく走馬灯


そして

途切れる



オヤジはその日、刺されて亡くなった...




俺が知ったのは次の日のことだった

路地の狭い場所であったため発見されるのが遅れ

結局、見つかったのは帰りが遅いことを気にした組員達が見つけた


最初、何かの冗談だと思った

でも違う、みんな泣いている

オヤジを1人で行かせてしまったことの後悔...

組員みんなが大好きだったオヤジ...

もう会えないという喪失感...

与えて貰うことしかなかった

まだ何も返せていない

自分が悪くてもいつも笑って許してくれる

俺に生きることを教えてくれた

血は繋がっていないが、本当に慕っていた

尊敬していた

感謝していた






大好きだった






ありがとうと言いたかった


母親といいオヤジといい

俺の人生は大事な人は必ず居なくなる


人の死はそんな簡単なことじゃない

想像力が足らなすぎる

大事な人が、

昨日まで笑ってた人が、

一瞬で居なくなる

あんだけ暖かかった人が

今では冷たく...固い

想像してみろ


どうして

俺ばっかり

不幸なんだ...




誰が不幸にしたんだ...


誰のせい?



絶対許さない


潰してやる!

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