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思い出すだけで頭に血がのぼるのが分かる


オヤジの組、松組は

ハ組に位置するヤクザ

シノギと言う大層な仕事はあまり無く

唯一、昔から仲が良く可愛がってた男が、

経営するBAR数店舗のおしぼりや酒、ケツモチまで全てを松組が仕切らせてもらっている

それが結構な額

おかげで俺は学校に行けていたし

組員に給料を渡せていた



それが、いきなり


「本当にすいません、おやっさん!

もうおやっさんのとこには仕事を回せないんです。

こ...今後は別の組に回すことにしたんで...」

薄暗いが高級感のあるテーブルに

客席も20人は座れるほどの大きいBAR

その奥にVIP専用の個室がある

そこには木のテーブルをかこう高級ソファが3つ

壁は鏡張りで上にはシャンデリア

部屋の隅には、普通の人じゃ手に入らないようなワインやシャンパンがケースに入っている

その真ん中で土下座をして謝るBARの経営者、山本



「てめぇふざけたこと言ってんじゃねーぞ」

髪の毛を掴んで顔をあげさせる組員の1人

「今まで、どんだけ頭(かしら)が良くしてやったと思ってんだ?」

「てめえの命の恩人だろ?死にてえのか?山本!」

松組の組員たちが怒鳴るが、山本はひたすら謝り続けた

ふとオヤジが口を開く

「山本」

その声に全員が黙る

山本は顔を上げてオヤジを見る

オヤジは真っ直ぐ山本を見てこう言った


「...本ヤか?

その顔の傷...酷いな」


黙っている山本に対して、オヤジが続ける

「どうせ、家族でも取られて脅されてんだろ? 分かってる...こっちが手を引くよ」

オヤジは分かっていた

そんなことでもないかぎり山本は裏切らないことを



山本は驚いていた

この決断をするのにはそうとう悩んだ

松組の存続すら危うい話しなのに、理由すら聞かず

自分より先に相手を考えるおやっさん


昔から、おやっさんはこうだったな

だから、甘えてしまったのかもしれない

「...あ、ありがとうございます。おやっさん」

この人なら許してくれる


その甘い考えにムカつきながらも

泣きながらお礼を言った山本



それ以上は誰も何も言わず

契約を解除し、BARを出る





BARを出ると目の前に黒のハイエースが停まっており、数人で酒やおしぼりを降ろしている

車には本千歳(ほんちとせ)とでっかく書いてあり、誰が見ても分かるほど

その中の1人が、こちらに気づき

ムカつく笑みを浮かべて話しかけてくる


「あれ?誰かと思えば、はぐれの松組さんじゃないですか?」

パンチパーマで、サングラス

背は低いが他のやつより上等なスーツ

この中では1番偉いだろう男が煙草を捨て

近づいてくる

「どうしたんですか。ここはうちが契約してるんですよ。まさか取ろうってわけじゃないですよね?」

いかにもこちらが先に契約してたかのように煽り文句を言ってくる


松組の組員たちがそれに怒り

何か言おうとしたがオヤジは止める

そしてゆっくりと口を開く

それも、バカにするよう笑みを浮かべながら

「悪い、お前だれだ?」

その言葉に組員は

「だぁーはっは!そうですね頭(かしら)」

「そーだよ!お前だれだよー」

「頭(かしら)うまいっすねー」

など吹き出しながら口々に言う


こんな煽られ方をすれば向こうは当然キレる

「てめーこら!調子のってんじゃねーぞ?!」

と偉いだろう男が言うと

後ろの若いのが次々にのってくる

「おいおい、俺ら本千歳(ほんちとせ)組を知らんわけねーだろゴラァ!」

わーわー言ってくるがテンプレなキレ文句しか言ってこない


本ヤの組の名前は、基本最初に本が入るため

当然本ヤ系列である

もちろん分かってはいたが

「見たことねーダサい奴らだと思ったが、サツの犬じゃねえか。

本当の犬じゃねえんだからワンワンうるさくするなバカ」

オヤジの煽りは続くが、既に組員たちは取っ組み合いになっている


「てめーら、やっちまうぞゴラァ」

ガン!バキィ!


「グタグタしゃべってねーでさっさとこいよぉ」

ドゴォ!

バァン!


何人か倒れて始めたとき

敵の1人が懐からナイフを取りだしオヤジに近づいてくる


勢いよく出されたナイフを持つ手を

オヤジは素早くかわし、ナイフと一緒に手を叩く

ナイフを離したのを確認すると、後ろに回り込み制圧した

「ぐはっ!え...?」

一瞬のことで相手は状況を理解するのに時間がかかってるようだ


松組の組員たちはオヤジが強いのを分かっているが、改めて感心する


相手の男は地面に手と膝がつき、まるで土下座のようなポーズで咳き込んでいる

オヤジはそれを見て相手の落としたナイフを拾い、なんの躊躇もせずに手の甲へ振り下ろす


グサァ!!


「ぎぃゃぁぁ!!」

情けない声を出す男


そしてオヤジは刺したナイフをすぐ手の甲から引き抜き

首元に近づけ耳打ちする

「ちょっと刺しただけで、わぁーわぁー喚くな。本当に殺すぞ」

仲間には心底優しいが

敵には容赦ない

それが松組の頭!丈一郎と言う男だ

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